105 / 252
第105話
しおりを挟む
◆高梨百合恵 視点◆
「神坂とかいう生徒のところへ行くのか?」
食料品や日用品の買い出しへ行こうとしただけなのに、悠一さんから唐突に冬樹君の名前を出されて思考が停止してしまった。
「おい、どうなんだ!」
あまりに唐突で何を言えば良いのか分からず返事ができないでいると更に悠一さんの追及の声が強くなった。なんとか考えをまとめ返事をした。
「食料品や日用品の買い出しへ行くだけですよ。
神坂君の名前をどこで聞いたのかはわかりませんけど、彼は最近縁があって交流が増えていますけど、ただの生徒です。
なんならついてきますか?
お米も少なくなって買いたいですし、持ってもらえると助かります」
「いや、すまない。
それと、荷物持ちが必要なら一緒に行かせてもらうよ」
口では落ち着いたような事を言うけど、態度が不満そうではあるのでここはひとつちゃんと話をするべきではないかと考え切り出すことにした。
「悠一さん、この際ですから今後のことについてちゃんとお話しませんか?」
「今後のこと?」
「そうです。今後も夫婦としてやっていくのかどうかです。
7月の時はわたしが押し切って有耶無耶にしてしまったところがありましたから」
「俺は別れたくない」
「それはどうしてですか?」
「百合恵を愛しているからに決まっているだろ!」
「わたしは愛されているという実感を持てていませんが?」
「それはすまなかった。実感を持ってもらえるように努力する」
「具体的にはどの様になさるおつもりですか?」
「すまない。どうすれば良いのかわからない・・・
でも、百合恵が言う事なら何でも聞くから言って欲しい」
「今更なんなのですか?
ずっと教師を続けたいと言っていたのを辞めろと言い続けていたのに、今更なんでも聞くなんて言われても信じようがありません。
それに悠一さんはこどもが欲しいと言っていましたけど、そのことについてはどうされるんですか?」
「仕事の件については、本当に申し訳なかった。
あのあと、色んな人に意見を聞いて女性でもやりがいを持って働いている人がたくさんいる事を理解したし、もちろん百合恵もそのひとりだと今はちゃんとわかっている。
こどもについては原因の究明から不妊治療まで視野に入れて欲しいと思っている」
「そのあたりについてはわかりました・・・」
この際なので、色々と深いところまで話をした。わたしが開き直っているからなのか、今までで一番深い話し合いになったと思う。
「・・・ところで、先程神坂君の名前が出てきましたけど、どうして疑われたのですか?」
「それは、先日百合恵のところの生徒が話しかけてきて、こういうやり取りをしているとメッセージアプリのやり取りの一部を見せてもらったんだ」
「その生徒って、見た目がとても美人な女子じゃありませんでした?」
「そうだな。印象的な美人と言って良い見た目だった」
「その生徒は名乗りませんでした?」
「ああ、名前は聞いていないな」
「まぁ彼女なら名乗りそうでもありますけどね。
そんな名乗りもしない相手の言うことに翻弄されないでほしかったですね」
「それは・・・すまない」
「それに、その彼女は恐らく神坂君に対してストーカー行為をしている生徒です。
わたしが彼と親しくなったきっかけだって、その彼女が悪さをしたからというのが可能性として濃厚な状態です。
証拠はまだないですけど、神坂君がその辺りを調べていてその内に明らかになると思います。
これは他言無用でお願いしたいですけど、その娘はパパ活をしていて、そのせいでトラブルに遭っています」
「そんな・・・あんな娘が?」
「人は見た目によらないですよね。わたしもその話を聞いた時には驚きました」
悠一さんとこんなに話したのはいつぶりだろうかと思うくらいに長い時間話し込んで、一段落したところでふたりでスーパーまで買い出しに出掛けた。
◆神坂冬樹 視点◆
鷺ノ宮那奈さんと話をしてからの帰宅で、マンションへ入ろうとしたところで見知った姿を見かけたので挨拶をした。
「高梨先生、こんにちは。この時間だとこんばんはでしょうか?」
「こんばんは、冬樹君、美晴さん」
「こんばんは、先生。先生は買い物だったんですか?」
「ええ、主人と近くのスーパーまでね」
「お隣の方、旦那さんなのですね。
はじめまして、秀優高校OGの岸元と言います」
「はじめまして、秀優高校で高梨先生にお世話になっている神坂と言います」
そう名乗ると、高梨先生の旦那さんの目付きが鋭くなり険しい表情を向けてきた。
「神坂とかいう生徒のところへ行くのか?」
食料品や日用品の買い出しへ行こうとしただけなのに、悠一さんから唐突に冬樹君の名前を出されて思考が停止してしまった。
「おい、どうなんだ!」
あまりに唐突で何を言えば良いのか分からず返事ができないでいると更に悠一さんの追及の声が強くなった。なんとか考えをまとめ返事をした。
「食料品や日用品の買い出しへ行くだけですよ。
神坂君の名前をどこで聞いたのかはわかりませんけど、彼は最近縁があって交流が増えていますけど、ただの生徒です。
なんならついてきますか?
お米も少なくなって買いたいですし、持ってもらえると助かります」
「いや、すまない。
それと、荷物持ちが必要なら一緒に行かせてもらうよ」
口では落ち着いたような事を言うけど、態度が不満そうではあるのでここはひとつちゃんと話をするべきではないかと考え切り出すことにした。
「悠一さん、この際ですから今後のことについてちゃんとお話しませんか?」
「今後のこと?」
「そうです。今後も夫婦としてやっていくのかどうかです。
7月の時はわたしが押し切って有耶無耶にしてしまったところがありましたから」
「俺は別れたくない」
「それはどうしてですか?」
「百合恵を愛しているからに決まっているだろ!」
「わたしは愛されているという実感を持てていませんが?」
「それはすまなかった。実感を持ってもらえるように努力する」
「具体的にはどの様になさるおつもりですか?」
「すまない。どうすれば良いのかわからない・・・
でも、百合恵が言う事なら何でも聞くから言って欲しい」
「今更なんなのですか?
ずっと教師を続けたいと言っていたのを辞めろと言い続けていたのに、今更なんでも聞くなんて言われても信じようがありません。
それに悠一さんはこどもが欲しいと言っていましたけど、そのことについてはどうされるんですか?」
「仕事の件については、本当に申し訳なかった。
あのあと、色んな人に意見を聞いて女性でもやりがいを持って働いている人がたくさんいる事を理解したし、もちろん百合恵もそのひとりだと今はちゃんとわかっている。
こどもについては原因の究明から不妊治療まで視野に入れて欲しいと思っている」
「そのあたりについてはわかりました・・・」
この際なので、色々と深いところまで話をした。わたしが開き直っているからなのか、今までで一番深い話し合いになったと思う。
「・・・ところで、先程神坂君の名前が出てきましたけど、どうして疑われたのですか?」
「それは、先日百合恵のところの生徒が話しかけてきて、こういうやり取りをしているとメッセージアプリのやり取りの一部を見せてもらったんだ」
「その生徒って、見た目がとても美人な女子じゃありませんでした?」
「そうだな。印象的な美人と言って良い見た目だった」
「その生徒は名乗りませんでした?」
「ああ、名前は聞いていないな」
「まぁ彼女なら名乗りそうでもありますけどね。
そんな名乗りもしない相手の言うことに翻弄されないでほしかったですね」
「それは・・・すまない」
「それに、その彼女は恐らく神坂君に対してストーカー行為をしている生徒です。
わたしが彼と親しくなったきっかけだって、その彼女が悪さをしたからというのが可能性として濃厚な状態です。
証拠はまだないですけど、神坂君がその辺りを調べていてその内に明らかになると思います。
これは他言無用でお願いしたいですけど、その娘はパパ活をしていて、そのせいでトラブルに遭っています」
「そんな・・・あんな娘が?」
「人は見た目によらないですよね。わたしもその話を聞いた時には驚きました」
悠一さんとこんなに話したのはいつぶりだろうかと思うくらいに長い時間話し込んで、一段落したところでふたりでスーパーまで買い出しに出掛けた。
◆神坂冬樹 視点◆
鷺ノ宮那奈さんと話をしてからの帰宅で、マンションへ入ろうとしたところで見知った姿を見かけたので挨拶をした。
「高梨先生、こんにちは。この時間だとこんばんはでしょうか?」
「こんばんは、冬樹君、美晴さん」
「こんばんは、先生。先生は買い物だったんですか?」
「ええ、主人と近くのスーパーまでね」
「お隣の方、旦那さんなのですね。
はじめまして、秀優高校OGの岸元と言います」
「はじめまして、秀優高校で高梨先生にお世話になっている神坂と言います」
そう名乗ると、高梨先生の旦那さんの目付きが鋭くなり険しい表情を向けてきた。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる