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第136話
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◆神坂冬樹 視点◆
今回の件は松本さんの悪ふざけで、松本さん自身も美晴さんを飲み会に誘った経緯があり松本さんの友人でもある津島さんも深く反省しているということで美晴さんは許すことにし、それで納得して欲しいと美晴さんが懇願したことで小父さんも許したので、姉さんも母さんも口出しはしなかった。
僕としても美晴さんが良いなら異論はなく、むしろ騒動を招いた側とは言え一時僕らが心配をしたくらいで被害らしい被害もないのに深い反省で顔色が真っ青になっている松本さん達の方が気の毒に思えるくらいだった。
津島さん達との話も終わった時点ではまだ電車は残っていたけど、小父さんが車で送ってくださると言うのでその好意に甘えてマンションまで送ってもらうことになった。
小父さんの車の助手席に母さんが乗り、後ろの席に右から姉さん、美晴さん、僕が乗り込んだ。
「初めて知ったが、意外と近いところに住んでいたんだな」
カーナビの道案内のために小父さんへ住所を告げたら姉さんが話しかけてきた。
「そうだね。美晴さんの大学の事を考えるとあまり変なところへは行きたくなかったし、不動産屋さんにお勧めしてもらって良かったから決めた感じだね。
あと、契約した時は考えてなかったけど、僕も学校に通いやすかったから結果的に良かったかもしれないね」
「そうだな・・・まぁ、私としては冬樹に家へ帰ってきて欲しい気持ちがあるのだが・・・」
「夏菜、それを言ったらダメでしょ」
助手席から振り向いた母さんが会話に入ってきた。
「母さん、いいよ。深層心理がどうかはわからないけど、姉さんの気持ちは嬉しいからさ」
そう返したら母さんは苦しそうな表情になり続けた。
「冬樹、わたし達を責めていいのよ。冬樹にはその権利があるのだから」
「そうは言っても、すぐに家から出ていったし、しばらくは一切の連絡を拒否して無視し続けたのだから責めていたと思うよ」
「そうじゃないの。それはあの時のわたし達がされて当然の拒絶。
家へ帰ってきて苦しむくらいにわたし達を拒絶していたのに全く責めていないのよ」
「そんなことはないよ。信じてくれなかった母さん達には怒りを覚えていたし、それを責める気持ちがあったからすぐに家を出ていったんだよ。
今になって責めて欲しいと言われても、もう終わったことだと思うんだよね」
「冬樹、私が言えた義理じゃないのはわかっているが、母さんの言う通り私もちゃんと責めて欲しいと思っている。
そういう意味では、先程の松本さんをあっさり許した美晴さんにも通じますけど、責められないことも存外に辛いものです」
途中から姉さんの視線が美晴さんへ移っていき、美晴さんが応えた。
「夏菜ちゃんが言うことはわかるけど、アキラさんは悪ふざけをしただけで実害はなかったわけだし、謝られてそれでも責める方が悪くない?」
「違います!
たしかに松本さんは女性でしたし、結果的には美晴さんは何もされていない。
でも、冬樹が電話して出た時に不埒な男だと思わせる様に振る舞ったせいで、冬樹や小父様や私達はそれこそ強姦や監禁でもされてしまったかもしれないと、大事な人が取り返しがつかない事をされているかもしれないと恐怖していたんですよ!
ほんのいたずら心ですぐにネタばらしをするつもりだったのは聞きました。運悪くバッテリーが切れただけにしても私達が血相を変えて駆け付けたのは事実で、松本さん達はその重大さを理解できていたからもっとちゃんと責めて欲しかったと思います」
「そうだね。夏菜ちゃんの言う通りだよ。まぁ、俺はそれがわかっていたからあえて美晴に乗って許したし、俺が許したから夏菜ちゃん達も何も言えなくなって彼女たちにはキツいお灸になったと思うよ」
「え?お父さん、それ本当なの?」
「ああ、そうさ。いくら女の子だからって、いや女の子だからこそ冗談でもやってはいけないことの分別ができてるべきだと思って内心は怒ってたよ・・・と言うか、今でも怒りは残っているよ。
俺からしたら美波の件があって『またか』という気持ちもあったしね」
「配慮が足りなくてごめんなさい・・・」
「まぁ、実害がないのに怒り続けるのも大人気ないから、良かったところでもあるけどね。
もう許したのだから、松本さん達のことは美晴が好きにすれば良い」
「はい・・・」
小父さん達のやり取りを聞いていて、責めた方が良いということについて考えてみたけどわからないなと思っていたら僕にも振られた。
「俺は冬樹君が家族を責めたくないという気持ちがあるんだと思ってる。
だけど、夏菜ちゃんや穂奈美さんが責めて欲しいと思っている気持ちもわかる。
すぐに答えは出ないだろうけど、考えてあげて欲しいと思っているよ・・・将来の義理の父親としても神坂家とは良好な親戚関係を築きたいしね、ははっ」
「小父さん、気が」
「お父さん!」
「早いですよ。でも、小父さんの言葉はよく考えてみます」
美晴さんのツッコミが入ったけど、返答した通り小父さんの言葉はよく考えてみようと思う。
そこからは美晴さんが小父さんに怒っていたり、その様子を見て姉さんや母さんが笑っていたりしていたらマンションまで着いた。
「みんな、心配をかけてごめんなさい」
「今日はありがとうございました。
それと、姉さん。僕は姉さんが電話した時にすぐに意を汲んで対応してくれた時や、一緒に美晴さんを探していた時にとても頼もしく思えて心強かったよ。
まだギクシャクしてしまっているところはあるけど、僕は姉さんのことを尊敬している頼れる人だと思っているから忘れないでいてくれると嬉しいかな」
「あ、ああ。冬樹にそう思ってもらえていたなら少しは救われる思いだ。
これからもっとお前に頼ってもらえるように精進するよ」
「ははっ、もう十分だと思うけど、姉さん自身のために頑張ってね」
「ああ、わかった。ありがとう、冬樹」
◆神坂夏菜 視点◆
冬樹と美晴さんが降り、小父様と母さんの3人になった車内で改めて小父様へ謝意を口にした。
「小父様、今日は夜遅い時間に引っ張り出してしまいすみませんでした。
お陰で冬樹がまた壊れることがなく済みそうで助かりました」
「何を言っているの、夏菜ちゃん。
礼を言うのは俺の方だよ。
夏菜ちゃんが素早く動いてわかりやすく話をしてくれたから早く駆け付けることができたんだよ。
結果的には子供のいたずらだったけど、もし本当に悪いヤツが美晴をどうかしてたと思うだけで気が狂いそうなくらい重大なことだよ。
そんな時に適切に動けた最大の功労者は夏菜ちゃんだ。
だから、夏菜ちゃんは誇って良いと思う。うちの美晴よりも余程しっかりしたお姉さんだ」
「いえ、美晴さんは私が尊敬する人ですよ。
今回は珍しくしでかしましたけど、すごく立派な人です」
「夏菜ちゃんほどのしっかり者にそう言ってもらえるのは親として嬉しいよ」
「恐縮です・・・
それと話は変わるのですが、美波はどうですか?
普段私たちが接している感じでは前とあまり変わらない雰囲気ではあるのですが・・・」
「まぁ、夏菜ちゃんになら良いか・・・
穂奈美さんは既に知っていることだけど、美波は例の事件の時に妊娠させられてて中絶している」
「そうですか・・・」
「その様子だと美波から聞いてた?」
「いえ、美波からは聞いていませんが、美波の部屋で産婦人科の説明資料を見たので察していました。春華も同じです」
「そうか、ふたりには美波からは言ってないけど、知られちゃっている状況だったか・・・
それで美波の状況だよね。正直なところ、よくわからない。
ただ、冬樹君への気持ちが強くなっている気がするんだよね。
事件が表沙汰になってからも距離を置かれていた時は暗い表情で会いたがっていたし、交流が増えるに連れて楽しそうに冬樹君のことを話すことが増えてきていたし、今週は一緒に学校へ行くようになって久しぶりに絶好調という感じだね。
美晴と付き合い始めているから複雑だけど、少し前まではふたりが相思相愛でそのうち付き合いだすかなと見ていたから自然にも思えるし、うん・・・複雑だね」
「そうですか・・・ありがとうございます」
察してはいたけど、私が思っている以上に美波は冬樹への思いが強くなっているかもしれない・・・美波が暴走しないように見張っておかないといけないな。
今回の件は松本さんの悪ふざけで、松本さん自身も美晴さんを飲み会に誘った経緯があり松本さんの友人でもある津島さんも深く反省しているということで美晴さんは許すことにし、それで納得して欲しいと美晴さんが懇願したことで小父さんも許したので、姉さんも母さんも口出しはしなかった。
僕としても美晴さんが良いなら異論はなく、むしろ騒動を招いた側とは言え一時僕らが心配をしたくらいで被害らしい被害もないのに深い反省で顔色が真っ青になっている松本さん達の方が気の毒に思えるくらいだった。
津島さん達との話も終わった時点ではまだ電車は残っていたけど、小父さんが車で送ってくださると言うのでその好意に甘えてマンションまで送ってもらうことになった。
小父さんの車の助手席に母さんが乗り、後ろの席に右から姉さん、美晴さん、僕が乗り込んだ。
「初めて知ったが、意外と近いところに住んでいたんだな」
カーナビの道案内のために小父さんへ住所を告げたら姉さんが話しかけてきた。
「そうだね。美晴さんの大学の事を考えるとあまり変なところへは行きたくなかったし、不動産屋さんにお勧めしてもらって良かったから決めた感じだね。
あと、契約した時は考えてなかったけど、僕も学校に通いやすかったから結果的に良かったかもしれないね」
「そうだな・・・まぁ、私としては冬樹に家へ帰ってきて欲しい気持ちがあるのだが・・・」
「夏菜、それを言ったらダメでしょ」
助手席から振り向いた母さんが会話に入ってきた。
「母さん、いいよ。深層心理がどうかはわからないけど、姉さんの気持ちは嬉しいからさ」
そう返したら母さんは苦しそうな表情になり続けた。
「冬樹、わたし達を責めていいのよ。冬樹にはその権利があるのだから」
「そうは言っても、すぐに家から出ていったし、しばらくは一切の連絡を拒否して無視し続けたのだから責めていたと思うよ」
「そうじゃないの。それはあの時のわたし達がされて当然の拒絶。
家へ帰ってきて苦しむくらいにわたし達を拒絶していたのに全く責めていないのよ」
「そんなことはないよ。信じてくれなかった母さん達には怒りを覚えていたし、それを責める気持ちがあったからすぐに家を出ていったんだよ。
今になって責めて欲しいと言われても、もう終わったことだと思うんだよね」
「冬樹、私が言えた義理じゃないのはわかっているが、母さんの言う通り私もちゃんと責めて欲しいと思っている。
そういう意味では、先程の松本さんをあっさり許した美晴さんにも通じますけど、責められないことも存外に辛いものです」
途中から姉さんの視線が美晴さんへ移っていき、美晴さんが応えた。
「夏菜ちゃんが言うことはわかるけど、アキラさんは悪ふざけをしただけで実害はなかったわけだし、謝られてそれでも責める方が悪くない?」
「違います!
たしかに松本さんは女性でしたし、結果的には美晴さんは何もされていない。
でも、冬樹が電話して出た時に不埒な男だと思わせる様に振る舞ったせいで、冬樹や小父様や私達はそれこそ強姦や監禁でもされてしまったかもしれないと、大事な人が取り返しがつかない事をされているかもしれないと恐怖していたんですよ!
ほんのいたずら心ですぐにネタばらしをするつもりだったのは聞きました。運悪くバッテリーが切れただけにしても私達が血相を変えて駆け付けたのは事実で、松本さん達はその重大さを理解できていたからもっとちゃんと責めて欲しかったと思います」
「そうだね。夏菜ちゃんの言う通りだよ。まぁ、俺はそれがわかっていたからあえて美晴に乗って許したし、俺が許したから夏菜ちゃん達も何も言えなくなって彼女たちにはキツいお灸になったと思うよ」
「え?お父さん、それ本当なの?」
「ああ、そうさ。いくら女の子だからって、いや女の子だからこそ冗談でもやってはいけないことの分別ができてるべきだと思って内心は怒ってたよ・・・と言うか、今でも怒りは残っているよ。
俺からしたら美波の件があって『またか』という気持ちもあったしね」
「配慮が足りなくてごめんなさい・・・」
「まぁ、実害がないのに怒り続けるのも大人気ないから、良かったところでもあるけどね。
もう許したのだから、松本さん達のことは美晴が好きにすれば良い」
「はい・・・」
小父さん達のやり取りを聞いていて、責めた方が良いということについて考えてみたけどわからないなと思っていたら僕にも振られた。
「俺は冬樹君が家族を責めたくないという気持ちがあるんだと思ってる。
だけど、夏菜ちゃんや穂奈美さんが責めて欲しいと思っている気持ちもわかる。
すぐに答えは出ないだろうけど、考えてあげて欲しいと思っているよ・・・将来の義理の父親としても神坂家とは良好な親戚関係を築きたいしね、ははっ」
「小父さん、気が」
「お父さん!」
「早いですよ。でも、小父さんの言葉はよく考えてみます」
美晴さんのツッコミが入ったけど、返答した通り小父さんの言葉はよく考えてみようと思う。
そこからは美晴さんが小父さんに怒っていたり、その様子を見て姉さんや母さんが笑っていたりしていたらマンションまで着いた。
「みんな、心配をかけてごめんなさい」
「今日はありがとうございました。
それと、姉さん。僕は姉さんが電話した時にすぐに意を汲んで対応してくれた時や、一緒に美晴さんを探していた時にとても頼もしく思えて心強かったよ。
まだギクシャクしてしまっているところはあるけど、僕は姉さんのことを尊敬している頼れる人だと思っているから忘れないでいてくれると嬉しいかな」
「あ、ああ。冬樹にそう思ってもらえていたなら少しは救われる思いだ。
これからもっとお前に頼ってもらえるように精進するよ」
「ははっ、もう十分だと思うけど、姉さん自身のために頑張ってね」
「ああ、わかった。ありがとう、冬樹」
◆神坂夏菜 視点◆
冬樹と美晴さんが降り、小父様と母さんの3人になった車内で改めて小父様へ謝意を口にした。
「小父様、今日は夜遅い時間に引っ張り出してしまいすみませんでした。
お陰で冬樹がまた壊れることがなく済みそうで助かりました」
「何を言っているの、夏菜ちゃん。
礼を言うのは俺の方だよ。
夏菜ちゃんが素早く動いてわかりやすく話をしてくれたから早く駆け付けることができたんだよ。
結果的には子供のいたずらだったけど、もし本当に悪いヤツが美晴をどうかしてたと思うだけで気が狂いそうなくらい重大なことだよ。
そんな時に適切に動けた最大の功労者は夏菜ちゃんだ。
だから、夏菜ちゃんは誇って良いと思う。うちの美晴よりも余程しっかりしたお姉さんだ」
「いえ、美晴さんは私が尊敬する人ですよ。
今回は珍しくしでかしましたけど、すごく立派な人です」
「夏菜ちゃんほどのしっかり者にそう言ってもらえるのは親として嬉しいよ」
「恐縮です・・・
それと話は変わるのですが、美波はどうですか?
普段私たちが接している感じでは前とあまり変わらない雰囲気ではあるのですが・・・」
「まぁ、夏菜ちゃんになら良いか・・・
穂奈美さんは既に知っていることだけど、美波は例の事件の時に妊娠させられてて中絶している」
「そうですか・・・」
「その様子だと美波から聞いてた?」
「いえ、美波からは聞いていませんが、美波の部屋で産婦人科の説明資料を見たので察していました。春華も同じです」
「そうか、ふたりには美波からは言ってないけど、知られちゃっている状況だったか・・・
それで美波の状況だよね。正直なところ、よくわからない。
ただ、冬樹君への気持ちが強くなっている気がするんだよね。
事件が表沙汰になってからも距離を置かれていた時は暗い表情で会いたがっていたし、交流が増えるに連れて楽しそうに冬樹君のことを話すことが増えてきていたし、今週は一緒に学校へ行くようになって久しぶりに絶好調という感じだね。
美晴と付き合い始めているから複雑だけど、少し前まではふたりが相思相愛でそのうち付き合いだすかなと見ていたから自然にも思えるし、うん・・・複雑だね」
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