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第190話
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◆神坂冬樹 視点◆
取り立てて変わったこともなく特別でないただの一日だったと思う。強いて取り立てるとすれば美波から二之宮さんも高卒認定試験に合格していて、今日からは本格的に大学受験に取り組んでいくつもりだという話を聞いたことくらいだ。
ハルが一部の男子に好意を寄せられているのも日常の風景となっているし、僕たちのグループが他のクラスメイト達から精神的な隔たりを感じるのも日常の風景になっている。僕らが浮いてしまっていることで教室内の雰囲気が良くなく高梨先生にはその事で心労をかけてしまっていると思うので、不可抗力とは言え原因の一端である身としては心苦しい。
放課後の勉強会まで終わって帰宅すると、既に美晴さんは帰ってきていた。
美晴さんは今日区役所へ行ってきて妊娠に関わる手続きをしてきたということで、そこで役所の人にお祝いの言葉をかけてもらえたとか、別の手続きできていた見知らぬお婆さんに妊娠期間の心得を聞いてきたとか話してくれた。その話す様子は嬉しそうで、ほとんど相槌だけで聞く一方だったけど僕も嬉しい気持ちになっている。
「話は変わって、明良さんが女性らしい格好をする様になっているのは前に話したと思うけど、それで一目惚れした先輩が玲香さんに間に入って欲しいってお願いしてきたのね。
でも玲香さんも明良さんが大事だから嫌だって断ったのだけど、聞いてると玲香さんは先入観でその先輩のことを近付けたくなさそうだったから、一度ちゃんと話をした方が良いのではないかなって言ったら、私にもその話し合いの場に居て欲しいって頼まれちゃったのよね」
「それで美晴さんはどうしたんですか?」
「私が言い出したことだし、玲香さんがお世話になっている先輩ということだったから角が立たないようにと思って一緒に立ち会うことにしたの。
その先輩、佐々木さんって言うのだけど、たぶんこの時期だからクリスマスを一緒に過ごしたいんじゃないかなって思ったのよね」
「たしかに12月はクリスマスを意識して告白する人が増えてカップルも増える傾向があるって言いますよね」
「やっぱりそうよね。でも、この時期はイルミネーションも素敵だし一緒に過ごすといい思い出になりそうって思うよね」
「そうですね。僕らもイルミネーションを見に行きませんか?
クリスマスイブや当日でも良いですけど、混雑しそうだし少し早めのタイミングとかどうですか?」
「たしかに、今の私はあまり混雑するとわかっているところへ行くべきではないよね。でも、無理しない程度にイルミネーションを一緒に見に行きたいかも?」
「じゃあ、様子を見て無理せず行けそうなら行きましょう。来年以降はそれどころじゃなくなっていそうですし」
「たしかに、そんな余裕はなさそうだよね。それはそれで楽しそうだと思うけど、やっぱりロマンチックな夜を一緒に過ごしておきたいな」
「そうしましょう。それと話を戻して、その松本さんの件で津島さんと何かするなら、僕も協力しますよ」
「何かしてもらう事あるかな?
でも、その時はお願いするね」
「はい。それにしても、津島さんが嫌がるってその先輩さんは何か悪い人なのですか?」
「悪い人ではないと思う。でも見た目や言動が軽いかなって印象はあるし、玲香さんが言うには女性関係で良くない噂もある人みたいだからそれでなんだと思うな」
「そうなのですか。でも、得てして噂って本人の耳に入っていなかったり無責任な他人の思い込みで広まっていたりするから、ちゃんと話せば誤解していただけだったとかあるかもしれないですよね」
「そうだね。その佐々木先輩は更にひとつ上の先輩が立ち上げたスタートアップの会社の常務だって言うし、その立ち上げた先輩は知っているのだけど、いくら仕事と関係がなくても本当に女性関係で問題を抱えるような悪い人を常務なんかにしない人だという印象だし、ちゃんと話したらわかりあえるんじゃないかなって思うんだよね」
「僕は今年イヤってほど実感させられましたけど、人って一度と思い込んでしまうとなかなかそれを払拭できなかったりしますし、美晴さんが客観的に中和してあげられると良いですよね」
「うん。玲香さんは明良さんの事を大事にしているのは明らかだし、それで視野が狭くなってしまっているのかもしれないよね。
私にとってもせっかくできたお友達だし、二人にとって良くなる様にできたらって思うよ」
そう言って美晴さんが見せてくれた笑顔はすごく輝いていて幸せだなって改めて感じた。
「そうですよね。
話は変わるのですけど、引越し先の候補でいい物件があったので見てもらえませんか?」
そう言って持っていたタブレットを操作して物件情報を表示させて美晴さんに見てもらった。
「冬樹くんが良いと思うのだったら反対するつもりはないけど、どうしてこの物件なの?」
「物件というよりは場所ですね。この住所を見てください」
そう言いながら物件情報の住所の部分を指差した。
「この住所って、実家のすぐ近くだよね?」
「そうですね。もっと言うと、道路を挟んで反対側です」
「そっか、町名が違ったからすぐに気付かなかったけど、実家のマンションから道を挟んだ反対側はそうなんだよね」
「建物はちょっと古いので建て直すかリフォームをした方が良いかと思いますけど、現状でも部屋が多いですし窮屈にはならないと思います」
「でも、この場所にこれだけの土地が付いてる戸建てだと高いよね?
・・・って、億!?」
「安くはないですけど、そのくらいなら余裕で払える金額ですし、美晴さんや子どものことを考えたら実家から近い方が良いからここが良いなって思ったんですよ」
「うん。お金の面で冬樹くんが大丈夫だって言うなら場所や間取りは良いかな?
私の精神衛生的には追加での支出は抑えて欲しいから、建て直しじゃなくてリフォームにしてもらった方がいいな」
「わかりました、明日不動産屋の担当さんに連絡して物件を押さえてもらって、リフォーム業者の手配もお願いしておきますね」
取り立てて変わったこともなく特別でないただの一日だったと思う。強いて取り立てるとすれば美波から二之宮さんも高卒認定試験に合格していて、今日からは本格的に大学受験に取り組んでいくつもりだという話を聞いたことくらいだ。
ハルが一部の男子に好意を寄せられているのも日常の風景となっているし、僕たちのグループが他のクラスメイト達から精神的な隔たりを感じるのも日常の風景になっている。僕らが浮いてしまっていることで教室内の雰囲気が良くなく高梨先生にはその事で心労をかけてしまっていると思うので、不可抗力とは言え原因の一端である身としては心苦しい。
放課後の勉強会まで終わって帰宅すると、既に美晴さんは帰ってきていた。
美晴さんは今日区役所へ行ってきて妊娠に関わる手続きをしてきたということで、そこで役所の人にお祝いの言葉をかけてもらえたとか、別の手続きできていた見知らぬお婆さんに妊娠期間の心得を聞いてきたとか話してくれた。その話す様子は嬉しそうで、ほとんど相槌だけで聞く一方だったけど僕も嬉しい気持ちになっている。
「話は変わって、明良さんが女性らしい格好をする様になっているのは前に話したと思うけど、それで一目惚れした先輩が玲香さんに間に入って欲しいってお願いしてきたのね。
でも玲香さんも明良さんが大事だから嫌だって断ったのだけど、聞いてると玲香さんは先入観でその先輩のことを近付けたくなさそうだったから、一度ちゃんと話をした方が良いのではないかなって言ったら、私にもその話し合いの場に居て欲しいって頼まれちゃったのよね」
「それで美晴さんはどうしたんですか?」
「私が言い出したことだし、玲香さんがお世話になっている先輩ということだったから角が立たないようにと思って一緒に立ち会うことにしたの。
その先輩、佐々木さんって言うのだけど、たぶんこの時期だからクリスマスを一緒に過ごしたいんじゃないかなって思ったのよね」
「たしかに12月はクリスマスを意識して告白する人が増えてカップルも増える傾向があるって言いますよね」
「やっぱりそうよね。でも、この時期はイルミネーションも素敵だし一緒に過ごすといい思い出になりそうって思うよね」
「そうですね。僕らもイルミネーションを見に行きませんか?
クリスマスイブや当日でも良いですけど、混雑しそうだし少し早めのタイミングとかどうですか?」
「たしかに、今の私はあまり混雑するとわかっているところへ行くべきではないよね。でも、無理しない程度にイルミネーションを一緒に見に行きたいかも?」
「じゃあ、様子を見て無理せず行けそうなら行きましょう。来年以降はそれどころじゃなくなっていそうですし」
「たしかに、そんな余裕はなさそうだよね。それはそれで楽しそうだと思うけど、やっぱりロマンチックな夜を一緒に過ごしておきたいな」
「そうしましょう。それと話を戻して、その松本さんの件で津島さんと何かするなら、僕も協力しますよ」
「何かしてもらう事あるかな?
でも、その時はお願いするね」
「はい。それにしても、津島さんが嫌がるってその先輩さんは何か悪い人なのですか?」
「悪い人ではないと思う。でも見た目や言動が軽いかなって印象はあるし、玲香さんが言うには女性関係で良くない噂もある人みたいだからそれでなんだと思うな」
「そうなのですか。でも、得てして噂って本人の耳に入っていなかったり無責任な他人の思い込みで広まっていたりするから、ちゃんと話せば誤解していただけだったとかあるかもしれないですよね」
「そうだね。その佐々木先輩は更にひとつ上の先輩が立ち上げたスタートアップの会社の常務だって言うし、その立ち上げた先輩は知っているのだけど、いくら仕事と関係がなくても本当に女性関係で問題を抱えるような悪い人を常務なんかにしない人だという印象だし、ちゃんと話したらわかりあえるんじゃないかなって思うんだよね」
「僕は今年イヤってほど実感させられましたけど、人って一度と思い込んでしまうとなかなかそれを払拭できなかったりしますし、美晴さんが客観的に中和してあげられると良いですよね」
「うん。玲香さんは明良さんの事を大事にしているのは明らかだし、それで視野が狭くなってしまっているのかもしれないよね。
私にとってもせっかくできたお友達だし、二人にとって良くなる様にできたらって思うよ」
そう言って美晴さんが見せてくれた笑顔はすごく輝いていて幸せだなって改めて感じた。
「そうですよね。
話は変わるのですけど、引越し先の候補でいい物件があったので見てもらえませんか?」
そう言って持っていたタブレットを操作して物件情報を表示させて美晴さんに見てもらった。
「冬樹くんが良いと思うのだったら反対するつもりはないけど、どうしてこの物件なの?」
「物件というよりは場所ですね。この住所を見てください」
そう言いながら物件情報の住所の部分を指差した。
「この住所って、実家のすぐ近くだよね?」
「そうですね。もっと言うと、道路を挟んで反対側です」
「そっか、町名が違ったからすぐに気付かなかったけど、実家のマンションから道を挟んだ反対側はそうなんだよね」
「建物はちょっと古いので建て直すかリフォームをした方が良いかと思いますけど、現状でも部屋が多いですし窮屈にはならないと思います」
「でも、この場所にこれだけの土地が付いてる戸建てだと高いよね?
・・・って、億!?」
「安くはないですけど、そのくらいなら余裕で払える金額ですし、美晴さんや子どものことを考えたら実家から近い方が良いからここが良いなって思ったんですよ」
「うん。お金の面で冬樹くんが大丈夫だって言うなら場所や間取りは良いかな?
私の精神衛生的には追加での支出は抑えて欲しいから、建て直しじゃなくてリフォームにしてもらった方がいいな」
「わかりました、明日不動産屋の担当さんに連絡して物件を押さえてもらって、リフォーム業者の手配もお願いしておきますね」
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