社則でモブ専ですが、束縛魔教主手懐けました〜悪役武侠女傑繚乱奇譚〜

はーこ

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第三章『焔魔仙教編』

第百八十三話 虚城にて邂逅す【後】

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「どんな結婚式にしたいですか? 花嫁衣裳は?」
一心イーシンさまかわいいですねぇ~、よしよ~し!」
「はぅぅ……」
梅雪メイシェさま、私もいますよ? にゃあん」
「なんておそろしい猫耳男子!」

 あれから一心と五音ウーオンに付きまと……付き添われ、寝室へともどってきた。
 道中しきりに一心が質問攻めにしてきたが、全力でしらばっくれる。
 のどをなで、頭をなで回された一心は、あまりの気持ちよさに感じ入っていた。
 うっとりとほほを紅潮させ、猫耳としっぽまでのぞかせていたので、黙らせる作戦は成功だ。

 便乗してきた五音も恐ろしくさまになっていたので、つくづく美青年(ふわふわ猫耳つき)とは罪な生き物である。とりあえずのどをなでておいた。なんだか負けた気がした。

「げっそりしてんな。今夜はやめといたほうがいいんじゃねぇか? 梅梅メイメイ
「お気遣いありがとうございます、フォンおじいさま……大丈夫です。すぐに煩悩をはらいますから」

 最後は寝室の扉の前で待ちかまえていた晴風チンフォンが五音と一心にガンを飛ばしたことで、なんとか解放された。
 いたわる言葉をかけられるが、せっかく『寝支度』をととのえてもらったのだ。無駄にするわけにはいかない。

「はぁ、純粋な『添い寝』なら、俺も手放しで喜べたんだがねぇ……」
「風おじいさまにしか、おねがいできないことなんです」
「わーってるよ。しないにこしたことはねぇが、見過ごすこともできねぇ」

 ガシガシと翡翠の髪を掻いた晴風が嘆息し、一変。いつもの快活な表情をひそめた。

「悪霊・糞野郎退散は、俺の得意分野だかんな」

 早梅はやめが晴風を呼んだ理由。
 それは、ここ数日のあいだ夜毎見ていた、『夢』が関係する。

黒皇ヘイファンに話してたら、大反対されただろうなぁ)

 おやめください、いくらなんでも危険です、と。

 早梅とて理解していた。だが、してやられたままでいるわけにはいかないのだ。

(大丈夫……風おじいさまが、ついてくれてる)

 覚悟は、決めた。

「おねがいします、風おじいさま」
「まかせな」

 深々と頭を垂れると、言葉少なに返した晴風から抱き上げられる。
 笑みをひそめ、口を閉ざした晴風は、桃英タオインと見まごうほど厳かなたたずまいだ。
 そっと敷布へ横たえられる。寝台の周囲の床には、石灰によって緻密な陣が描かれていた。

 ふいに、どことなくしっとりした芳香が鼻腔をくすぐる。香が焚かれているようだが、伽羅きゃらだろうか。落ち着く香りだ。
 そのうちに晴風が髪紐をほどき、自身の左手首と早梅の右手首を結びつけた。

「俺が守ってやる。気張ってけ」

 凛としたひと言に、早梅も力強くうなずき返す。
 ぎゅ、と手をにぎったなら、晴風の胸もとでまぶたを閉じる。
 ぬくもりを刻みつけるようにひと呼吸。
 やがて、静寂の果てに、早梅は意識を沈めていった。


  *  *  *


 見上げた空はにび色。そよ風ひとつ吹かない。
 見わたせないほど広大な宮城の中心に、早梅はひとりたたずんでいた。

「冬の枯れ木のように空虚で……色あせた世界だ」

 人も、動物の気配もない。
 ひとしきり首をめぐらせた早梅は、庭院にわの奥へと続く道をゆくことにした。
 あちらでは、血のように紅い梅の木が、おびただしいほどに狂い咲いている。

 凍りついた池に架かる橋をわたり、鮮烈な色彩をはなつ場所へとたどり着いた。
 真っ赤な梅の木は、風もないのに枝をゆらしている。
 そのさまは、くすくすと不気味な愉悦をたたえているようで。
 そっと幹へふれたとき、吹くはずのない風が吹き、背後にかかる人影をみとめる。

「──嗚呼、ようやくか……」

 男の声がきこえる。忘れるはずのない声が。

「ようやく、私の呼び声を聞き届けてくれたのだな……待ちわびたぞ、わが梅花の姫よ」

 恍惚とした声。視線を合わせずとも、舐めまわすように見られていることがわかる。
 沈黙をへて、早梅はふり返る。

「お久しゅうございます──皇帝陛下」

 臆することなく瑠璃のまなざしで射抜けば、血のような緋眼を満足げにほそめた男──ルオ飛龍フェイロンが、片ひざをつく。
 そうして早梅の右手をとり、その甲へ口づけを落とすのだ。

「そなたがあまりにつれないものだから、どうにかなるかと思ったぞ?」
「はなから頭がイッてらっしゃるくせに、どの口がおっしゃるの?」
「くくっ……それだ、その容赦のない物言い。やはりそなたはそうでなくては」

 煮詰めた砂糖よりもどろりとした声音で、飛龍はわらう。

「私に暴言を吐けるのも、私を見下ろすことができるのも、そなただけだ……梅雪」
「……このロリコン野郎」

 そんなこと、わかりきったことだったけれど。

「ようやっと感動の再会を果たしたのだ。心ゆくまで睦み合おう。これは勝負なのだから、わが愛を受け入れてくれるだろう?」
「むろん、受けて立ちましょう」

 ひるんではならない。
 知らしめなければならない。
 いつまでも思いどおりにできると思ったら、大間違いだということを。

「あぁ……そなたは最高の女だ。私の梅雪」

 飽くことなく睦言をささやいた飛龍は、口づけた白魚の指先へ舌を這わせる。
 愛執のおもむくまま、情欲を誘う行為にちがいなかった。
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