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本性

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「とりあえず、その刃をどけて
頂けると助かります。織多さん、
何か誤解していますよ。
そもそも先輩というもの何のことか」
と加賀見は、にこやかに答えた。

織多さんは、無言で薙刀を
首筋から離すと、ため息をついてから、言った。
「学部は違うとは言え、国定第7大学の
卒業生ですよね、加賀見さんは。
しかも割と天才、奇人変人の集まりとして
有名な世代の卒業生じゃないですか。
違いますか?」

加賀見は無言で織多さんを
バイザー越しに見つめていた。

「どういう経緯かはわからないけど、
教授が渡航者リストを入手して、
あなたの名前を見つけました。
それで、教えてくれました」
と織多さんが言うと、

「ふん、あの教授か!いい加減、退官して、
後進に道を譲ればいいのにな。
で、その教授はどう評価していた?」
と加賀見がぶっきらぼう尋ねた。

「えっと、言わないとダメ?」
と困った顔で言った。

「できれば教えて欲しいな。
今後の自己啓発のためにね」

「そのお、閃きなき秀才。
人様の理論や発見の解析は
できるけど、それだけの人。
なぜか問題のある女性と
お近づきになる特異な人と評して、
この航海で生存率を上げたいなら、
あなたと行動しろと。
そして、奴の多少のセクハラには目を
つぶってでもと言っていました」
と珍しく、ぼそぼそと答える織多さんだった。

加賀見は特に怒ることも気落ちすることもなく、
淡々と織多さんの言葉を受け入れいれているようだった。

そして、言った。
「それで、その助言を受けた織多さんは、
これから、僕とどうしたいのですか?」
と改めて尋ねた。

「ふううっ、加賀見さん!
生き残るためとは言え、他の方を誘導して、
犠牲にするのは良くないと思いますよ。
と言ってもまー手遅れでしょうけど」
と言って、織多さんは薙刀をかまえた。
その構えからは殺気を漂わせていた。

「織多さん、質問の答えになっていませんよ。
それに心理誘導するような技術はありません」
と加賀見は一応、答えた。

「納得できませんよ。加賀見さん!
目に見える範囲の人たちを上手く誘導して、
色々とこの世界で実験、解析をしていましたよね?
特にジェットプロダクションカンパニー、
スターテクノロジーズ、それに事務局、、、副船長。
わざと尾賀さんや元宮さんを
先に行かせたのは何ですか?答えられませんよね」
織多さんは叫んだ。

加賀見は、バイザー越しにでも
わかるように大きくため息をついて、
そして、答えた。

「ちょっと待ってください。
尾賀さんたちは、僕らを置いて行ったんですよ。
だから、僕らがこうして困難な状況に
陥っていますよね?
それにジェットプロダクションカンパニーって、
彼らは自ら犯罪を犯して、裁かれたんですよ。
織多さんが一番、よく知っているじゃないですか。
それに副船長って、いつもやり込められているのは
織多さんが一番、知っているはずですよ」
と淀みなく答えた。

そんな加賀見を織多さんは、目を細めてじっと見た。
そして、しばらくして、織多さんは、冷たい口調で言った。

「まあ、今はいいです。答えはこの先を歩いていけば、
自ずと得られますので。
とりあえず、母船に向かって歩きませんか?」

加賀見は、異論がなかったため、頷て、歩きだした。

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