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110.帰郷2

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数日後、モリス家の隊商は
エスターライヒ領の中心都市テルトリアに
向けて出発した。
小規模であったが、何故かスターリッジが
隊商を率いていた。
 そのことをシエンナに問うと、
自ら立候補したという答えが返ってきた。

何かと自分を観察し、あまりいい印象を
自分に抱いていないスターリッジとの旅程は、
誠一に厄介事を抱え込んだ気分にさせた。
 
ダンブルの反乱の鎮圧はいまだに終わっておらず、
政情不安を反映してか、街道の治安は決して良くなかった。
しかし、誠一たちは拍子抜けするほど何事もなく
エスターライヒ領に到着した。

「アル、あまり言いたくないけど、あれだな。
何か活気が無いというか、疲れた感じの農民が多いな」
ヴェルが率直な感想を述べた。

「むう、確かにどうにも暗い雰囲気が
村々に漂っていました。
隊商が村に到着すると、それなりに
賑わうんですけど、いまいちでしたね」
シエンナは首を傾げていた。

「おいおい、情報収集は冒険者の基本だぞ。
向かう先の最新の情報くらいきちっと入手しておけ。
キャロ、説明してやれ。
ちとアルフレートには耳が痛い話に
なるだろうがな」
ロジェはがみがみと冒険者心得の説明を
始めたが、キャロリーヌに遮られしまった。

「ちょっとー、その話は別の時にして。
雇い主のスターリッジさんは、当然、
知っているとして、君たちに
話していなかったのかな。
まっ何事も経験しろってことかなぁ」
キャロリーヌは説明を始めた。
時折、ロジェが説教じみたことを
話しの合間にするため、遅々として進まなかったが、
誠一、ヴェル、そしてシエンナは
何とかエスターライヒ領の現状を理解することができた。

どうやら領内の疲れきった住民の状況は、
現嫡子の行いにあるようであった。
エスターライヒ家の次期当主としての権力と
母の過保護な態度が嫡子に好き放題させていた。
そして、それに阿る者たちが領内に蔓延っていた。

無論、反乱が続いており、その政情不安が
拍車をかけていた。
悪いことにそれらを正すべき現当主アーロンは、
ダンブル討伐のために出征中であり、
誰も次期当主の無軌道ぶりを諫める者はいなかった。

「どうしたものかな。
とりあえず、様子見に宿で過ごすよ」
誠一はロジェやキャロリーヌと宿について
話はじめた。

「ちょっと、アル。
商館に泊まれはいいでしょう。
何、遠慮してるのよ。
みんなもそうしたら、いいでしょ。
スターリッジ、いいよね?」
シエンナが話に割り込み、案を出した。
スターリッジは返答せずに誠一を盗み見ていた。

「いや、今回は遠慮しておくよ、シエンナ。
そもそも依頼主に迷惑をかける訳にはいかないし、
商館は人の出入りが多過ぎるから」

その答えにスターリッジは満足したのか、
珍しく誠一に皮肉をほんの少ししか言わなかった。
「流石はアルフレート様。
色々とお気を使って頂き、助かります。
我々としては、無用にエスターライヒ家を
刺激したくはございませんので」

「そうですね、僕がいると商いに支障を
きたす恐れありますから、当然です」
とても友好的とは言い難い視線を
交わす二人であった。
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