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108.帰郷1

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屋敷に戻り、誠一は、今後の予定をミシャに伝えた。

「アルフレート様、突然、過ぎます。
己の立場を弁えてございましょう。
老婆心から申し上げますと、
お止めになった方がいいかと。
他の地方でゆっくりお過ごしになられることを
お勧めいたします」

誠一の突然の申し出にミシャは
必死になって思い留まらせようとした。
戻っても碌なことにならないのは目に見ていた。
そもそも当代のアーロンが許す訳がなかった。
そして、それをアーロンに伝えるミシャは
叱責されることを恐れた。

「気にするな。本家に迷惑はかけない。
モリス家の隊商の護衛として向かう。
契約は既に終わっている。
分かっているよな、
契約を反故になどできないことは!」

ミシャは説得を諦めて、とぼとぼと執務室に戻り、
急ぎで本領にアルフレートの帰郷の件について、
伝えることにした。
一人の騎士を呼び、手紙を持たせて
アルフレートに先行して本領に向かわせた。

机に肘を付き、ミシャは呟いていた。
「本領であれば、刺客を向かわせることも
賊に襲わせることもしたい放題なことを
アルフレート様も分かっているはずなのだが。
それが分からぬ方とは思えぬがな。
何か考えがあってのことか」

翌日、誠一はヴェルと冒険者ギルドの片隅へ訪れていた。
「なんかよう、気のせいか来るたびに
禍々しくなってないか、ここ」

「ははっ、気のせいだよ、ヴェル。
片隅だから空気が淀んでいるだけさ」
誠一は乾いた笑い声でヴェルに答えた。
しかし、全身が感じる悪寒がその言葉を
完全に否定していた。
あの男はよくもここまで剣呑な雰囲気を
作れるものだと感心してしまった。

「こっこんにちは、バルドロさん」
受付の男を前にして、何故か愛想笑いを
するヴェルであった。

ヴェルから依頼票をひったくると、
一瞥して、侮蔑の目を向けた。
「ふん、ポイント稼ぎかよ。
おまえらこんなことをしていると、
中程度の迷宮探索の資格を得ても死ぬだけだぞ。
おい、分かっているのか?」
悪相に更に拍車がかかっていた。
何度見ても見慣れぬ表情であった。

「故郷に顔を出すついでですよ。
向こうで冒険者を募って
幾つかの遺跡や迷宮を攻略してきます」

「まあいい、俺や婆さん、ファウスティノに
頼って経験を積むよりはましか。
死なない程度に探索してくるんだな」
必要事項を確認し、バルドロは依頼票を受け付けた。
誠一は軽く頭を下げて、受付を離れようとした。

「おい、アルフレート。
まあ、そのなんだな。
背負わせちまって、すまない。
俺が役に立ちそうなことがあれば、
その時はここへ言いに来い。いいな」

なんだろうバルドロさんの顔が妙に歪んでいる。
あれは照れている表情だと思うと、
誠一は吹き出しそうになってしまった。
横では、ヴェルが必死に笑いを堪えていた。

「バルドロさんには最も苦しい場面を
用意しておきますから、
そのときはよろしくお願いします」
そう言い残し、誠一とヴェルはギルドを後にした。
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