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 北方戦役が長期戦の様相となっている中、
誠一たちの中等部2年度が始まっていた。
幾人かの学生が魔術院を去っていた。
留年のシステムが無い以上、昇級できないときは、
即退学であった。

北伐の影響は徐々にだが、王国の民草に
暗い影を落としていた。
街道の治安は乱れ始め、物流が滞り、
市場の活気は失われていた。

そんな街中の雰囲気を微塵も感じさせない程、
魔術院の講義は平常運転であった。
しかし、北方戦役の情報は、常に学生の間でも
噂になっていた。
誠一たち、中等部2年の講義が2か月ほど経った頃、
王国軍が北関まで撤退したことが話題となっていた。
そして、中等部2年生以上の学生が大講堂に集められた。

学院長であるファウスティノは、両眼を閉じて、
瞑想をしているような雰囲気であった。
剣豪は面白くなさそうな顔で
不貞腐れている様な雰囲気であった。

「アル、講師以外にも
騎士や宮廷の魔術師がいないか?」
ざわつく講堂で居並ぶ講師たち以外の
人物たちにヴェルが目を向けた。

「アル、これはやっぱりあれだよね。
C級、D級の冒険者証をみんな、
持っているから、傭兵としての募集かな」
誠一の耳に周囲の声も聞こえた。
大半がシエンナと同じ意見であった。
誠一は、声には出さなかったが、
そんな甘いものではないと考えていた。
恐らく拒否権のない募兵だろうと考えていた。

 講師の1人が講壇に立ち、話始めた。
「はいはい、静かに。
これから、ここに君たちがここへ
集められた件について、説明を始める」
一旦、周りを見回して、講堂が
静かになるのを確認すると、話を続けた。
「これから、王宮に仕える宮廷魔術師第3席の
レドリアン導師に話をして貰う」
講師はそう言って、講壇をレドリアンに譲った。

静寂の中を講壇に向かって歩くレドリアンだった。
その動作は鈍く、見る者を暗澹たる気分にさせた。
講壇に立ったレドリアンは、疲れきった声で話始めた。
彼の雰囲気は、戦場の凄惨さと苦難、
そして、王国軍がおかれた状況の悪さを感じさせた。

「ここにいる諸君は、北伐が非常に厳しい状況に
あることを既に知っていると思う。
私がここに立った時点で、大方の予想はついているだろう。
そのため、端的に言おう。
君たちには、従軍して貰う。
一兵士として、北関に向かって貰う。
これは君たちだけなく、王国の援助を
受けている養成校全てに適用されている。以上」

多くの学生が息を呑んだ。

大講堂は重苦しい雰囲気に包まれていた。
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