転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組！だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業？それとも社畜？誰か助けて

245.出陣5

軍より突出した誠一とヴェルは、ホブゴブリンたちの群れに
囲まれていた。

互いの背中を合わせ、迫りくる敵を倒していた。

「思ったより敵が多いな！アル、大丈夫か？」
背中越しにヴェルの声が誠一に聞えた。
「ああ、大丈夫だ！
多分、シエンナが攻撃魔術で穴を作ってくれるはず。
それまでの辛抱だ」

　極めた二人の剣舞踊とまではいかないが、
二人も離れては近づき、互いの無事を確認しながら、
魔物を屠っていた。

「ちいいっ！くそっ。切れ味が落ちてきやがった」
ヴェルの持つハルバートの切れ味が鈍り始めいた。
そのため、ヴェルは、ハルバートを大きく振り回して、
鉤爪で叩きつけるようにした。
ハルバートの持つ多様な攻撃方法のなせる技であった。
しかし、一撃での隙が大きくなる上にヴェルの体力を
大きく削り始めていた。

　彼らの周りには魔物の死体が転がり、彼等の足場を削っていた。
少しずつだが、彼等を囲む輪は、小さくなっていた。

「アルー何か策はないんか！このままじゃやばいぞ。
ゴブリンごときにやられちまう」
恐るべき数の暴力を始めて経験する二人に
有効な打開策など思い浮かぶはずもなく、
味方が追い付いつくのを待つ他になかった。

「まったくもう、ゴブリンごときに後れを取るなんて！
ヴェルは兎も角、アルまで戦場の雰囲気にのまれ過ぎ。
切り刻め、水の刃！ウォータスライサー」
幾本もの薄い水膜がゆらゆらと動き、ゴブリンたちを切り刻んだ。
シエンナの魔術によりゴブリンの群れの圧力が
一瞬、弱まった。
その瞬間、ヴェルが炎の魔術を前面に展開した。
「ナイス、シエンナ。
侵入する万物の全てをここで焼き尽くせ、フレイムウォール！」

「踊れ、風の刃！エアスライサー！」
誠一も前面に風の刃の魔術を展開した。

中級クラスの魔術を難なく展開する二人を
羨ましそうに見つめるヴェルだった。
無論、ヴェルもスライサー系の魔術は使えるが、
切羽詰まった状況で彼らほど正確に素早く魔術を
成立させる自信はまだまだなかった。

「ヴェル、ぼーっとしない！周囲の状況を確認して。
貴方の目なら、私たちより遠くまで見渡せるでしょ」
シエンナに喝を入れられ、慌てて周囲を観察した。
彼の目に映るものは、そこかしこで魔物と人の争う姿だけであった。

ふと最前線に目を向けると先陣を任されていた
エスターライヒ家の騎士たちの破裂する姿が
ヴェルの目に入った。
「なんだ、ありゃ？アル、騎士が破裂している」

「破裂？一体、どういうこと」

「わからん、とにかく破裂している」

ヴェルの言葉に首を傾げる誠一とシエンナであったが、
ヴェルの目に映るものは、破裂としか表現しようのないものだった。