上 下
317 / 734

313.奥殿9

しおりを挟む
「はいはい、魔術院の首席様には口じゃかないませんから」

ヴェルの言葉にサリナが目を丸くしていた。
「首席!ヴェルトール王国の魔術院で首席って、あなた、凄すぎ」

サリナの驚きにまるで自分が褒められたように
ヴェルが誇らしげに話し始めた。
「あくまでも総合でだからな。ちなみにシエンナは次席だぞ」

「そっそうなんだ。
それでヴェル、あなたは?もしかして、三席とかなの」

矛先を向けられたヴェルが目が泳ぎ、少し挙動不審になっていた。
「おっ俺はそういった席次に興味ないからよ。
だがな『解体・選別、保管の実技』において、
他の追従を許さぬ断トツの一位だったぞ」
サリナの反応はいまいちであった。
ヴェルは何とかこの凄さをサリナに分かって貰おうと、
中等部の昇級試験についての説明を懇切丁寧にしていたが、
どうにも上手く伝わっていないようだった。
 
ヴェルの話を聞いて、誠一は魔術院のことを思い出していた。
ほんの少し前まで学院の生徒であったことが随分と懐かしく感じられた。
そして、随分とリシェーヌに会っていないような気がした。
次々に起こる出来事のためにリシェーヌへ思いを馳せることがなかった。

 誠一は、瞳を閉じて彼女の名を思い浮かべると、
クリスタルに封印された色褪せぬ彼女の姿を
まだ鮮明に思い出すことができた。
そこには下劣な思いはなく、ただの懐かしさだけでなく、
胸を締め付けられるような思いが誠一に去来した。
そして、その思いが無意識に言葉を誠一へ紡がせた。

「ああ、リシェーヌに会いたいな」

「え、リシェーヌって誰」
サリナの素朴な疑問をヴェルが制すると、誠一と肩を組んだ。

「飯だ飯!アル、サリナ、良い匂いがしてくる。飯にしよう」
ヴェルの気遣いに誠一は感謝した。
そして、そのことは、ヴェルが精神的に成長していることを
誠一に感じさせた。
果たして、あの孤独な環境でリシェーヌは
成長しているのだろうか、それともクリスタルから解放された時に
はじめて、彼女の刻は動き出すのだろうか、誠一には分からなかった。

もしあの時、剣豪の選択した『New game』を押していれば、
やり直しができたのかもしれない。
そうすればリシェーヌの今を覆すことができたのかもしれない。
『Continue』を選択した以上、仮定のこと考えても仕方ない。

リシェーヌを解放するにはエリクサーを入手するのみと
誠一は、決意を改めて固めた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,235pt お気に入り:11,344

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,406pt お気に入り:24,057

完全無欠少女と振り回される世界~誰かこいつを止めてくれ!!~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:128

魔王軍のスパイですが勇者(候補)に懐かれて任務が進みません

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,506pt お気に入り:31

魔王を愛した王子~恥辱の生涯~

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:274

一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:67

家庭菜園物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,506pt お気に入り:1,024

処理中です...