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386.地方慰撫4

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「そこだ!」
ヴェルの一突きがアクラネの腹部を捉えた。
切り裂かれた腹部から白い液体が漏れ出した。

アクラネの動きが一瞬、止まった瞬間を誠一の風魔術が捉えた。
「踊れ、風の刃!エアスライサー」
無数の風の刃がアクラネの腹部を切り刻んだ。

「ぐぎい。きっ貴様ら約定を違え、
このような暴挙に出るとはどういう事だ。
相応の代償を払うとこになるぞ」

腹部より流出する体液は、糸に巻かれて止まったようであった。
しかし、生理的に受け付けない誠一は目を背けていた。

「はっ?約定、一体何のことだ!
おまえがここで村人を襲うから悪いんだよ」
ヴェルは眼前のような状態に耐性があるようで、
アクラネから目を離さずにいた。

ヴェルと激しい言葉の応酬を交わしながら、
アクラネは糸を何重にも重ね合わせて、太くしていた。

「獣にも劣る貴様らも話していても無駄のようだな。
やはり選ばれㇱ貴族種とでないと会話が成り立たないようだな。
レア度の低い劣等種は駄目だな」
アクラネは太く形成された糸を何本も鞭のようにしならせて、
ヴェルと誠一に再び襲いかかった。

誠一は7面メイスで叩き落すが、一撃一撃が重く、
長くは続かないと判断した。それはヴェルも同様のようであった。

「アル、援護、援護だ!」
ヴェルは後方へ飛び下がり、補助魔術をかけ直した。

誠一に太い糸の攻撃が集中した。
「おおおっ、10連エアパレット」
誠一の周りに10個の空気の塊が発現した。
そして、アクラネの太い糸に向けて放たれた。
全ての糸が地に臥した。アクラネは、糸を引き戻そうとした。

「一点集中炎の塊、触れるものすべてを焼き尽くせ。
おおおぅっーフレイムランサー」
ハルバートの穂先に炎の塊が現れていた。
ヴェルはハルバートを突き出し、そのまま突撃した。

アクラネは、前面に何層にも及ぶ巣状の糸を張り巡らしたが、
ヴェルの先端の炎によって、溶かされていた。
ハルバートはアクラネの腹部に達して、炎と刺突により大きく傷ついた。

「がああああー」

耳を劈く絶叫が洞穴に響き、太い糸が無秩序にしなり動いた。
その内の一本がヴェルを弾き飛ばした。

再び、誠一は、エアスライサーを唱えた。
「踊れ、風の刃!エアスライサー」
無数の風の刃がアクラネを切り刻んだ。

全身から体液を激しく流しながら、アクラネは後退した。
後退しながら、巣状の糸で誠一たちの追撃を妨げた。

「くそっ、ご丁寧にも地面にまで糸をまき散らしているな」
立ち上がったヴェルは、粘性のある糸に囚われないようしながら
誠一に歩み寄った。

「んで、アル、どうする?」

「今の好機を逃す訳にはいかない。
風の魔術と炎の魔術で排除しながら、奥に進むよ」

誠一の風の魔術で蜘蛛の糸がぱらぱらと地面に落ちた。

「りょっ!すまん、アル。
叩きつけられた時の痛みでどうにも上手く魔術を
調整できそうにないわ」

「ここは僕が対応するから、回復薬を飲みながら後をついて来て」

洞穴の最深部にほどなく誠一たちは到着した。
悪臭漂うその広間には、アクラネの姿がどこにも見当たらなかった。
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