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387.地方慰撫5

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「どこかに隠し扉でもあったか?」
ヴェルは鼻を摘まみながら、周囲を見渡した。
彼の眼に骨と腐った肉が目に映った。
原型を留めぬそれらが家畜、獣の類だったのか人であったのかを
確認する術は最早なかった。

誠一も鼻を摘まみながら話した。くぐもった声が広間に響いた。
「サリナを待つかな。いや、待て。
ヴェル、足元に魔術陣が施されている」

「随分とでかいな、これ!」

誠一は7面メイスを魔術陣に向けた。
そして、魔術の痕跡を探索した。

「使われた直後のようだね。
恐らくほんの少しでも魔術の素養があれば、
起動できるように構成されているだろうね」

ヴェルも魔術陣に目をむけた。
いくつもの術式が織りなされており、
ヴェルには理解不能であった。
「アル、これって。転送陣だよな。
それに別の術式を書き加えて膨大な魔術を蓄えていたんだろ」
適当にそれらしく言ったヴェルの言葉を
真に受けた誠一は感心した。

「えっええっ、ヴェルはこの陣の構成が理解できたんだ?
きついけど、書き写して後で解読しよう」

「おっおう。それよりここ、どうする?」
ヴェルの目が泳いでいた。

「最早、どうすることもできないから。
せめてこれ以上、汚されないように燃やそう。
それから、洞穴の入り口から崩す以外ないかな」

「おっおう、そうだな、そうしよう」

誠一とヴェルは一旦、書き写すための道具を
取るために戻ろうとした瞬間、陣の中心から地面が裂け始めた。

「ヴェル、全速力!」

「了解だー。アル、遅れるなよ」

二人は命からがらの思いで洞穴を抜け出した。
洞穴の外は蜘蛛の死骸と体液、巣の糸がそこかしこに飛散していた。
その中にロジェ、キャロリーヌ、シエンナ、サリナが立っていた。
一人も欠ける事無く殲滅したようだった。

「アル、大丈夫か?」
ヴェルは誠一を気遣った。

「何度経験しても慣れないな。
まあ、これからの素材集めと魔石収集のことを
思うと気が滅入るけどね」

ロジェたちは死骸の中を気にせず誠一に近づいて来た。

「アルフレート君、中の状況はどうだった?」
ロジェの問いに誠一は掻い摘んで説明をした。
彼らは、蜘蛛の魔獣の最上位種を撃退したことに感心しきりだった。

「いえ、僕とヴェルの相性が良かったからだと思います。
それに倒しきれませんでし。転送陣で逃げられましたから」

「まあ、俺の新技が炸裂したからな」
ヴェルは得意の絶頂だった。

「なっ、ヴェル!新たな魔術を開発したの?
どんな魔術、ねえ、どんな魔術?」
シエンナの驚きへ更にヴェルの新技の話が拍車をかけた。
しかし、普段のヴェルとは違い、少々おどおどしていた。
しもろもどろにヴェルは説明をした。
すると、シエンナの興奮がヴェルの話が進むにつれて、
次第に冷めていった。
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