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473.王都2

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誠一は一つのクリスタの前で立ち止まった。
一糸纏わぬ姿は、出征する前と全く変わっていなかった。
彼女の変わらずの姿に誠一はほっとした。

「ただいま、リシェーヌ。生きて帰って来られたよ」

「一体、何から話していいか分からない位に色々あったよ。
ごめん、今日は挨拶だけで戻る。
これから、軍役の報告をしないといけないから」

話しかけていれば、ファウスティノの起こしたような奇跡が
起きるのではと淡い期待に尾を曳かれながらも誠一はこの場を後にした。

「ファブリッツィオやラムデールは
最前線に駆り出されているようだな」
講義室でヴェルが机に脚をかけながら、誠一に話しかけた。

「そうなんだ。それにしても結構、戻って来ているんだ」

「そうみたい。まあ、学生だしね。
野戦となると結構、お荷物になるだろうから、
輜重の護衛で逝ったり来たりといった軍役が主みたい。
私たちの就いた任務が学生にしては特殊だったのよ」
シエンナが魔術書に目を通しながら、二人の会話に加わった。

「おいおい、シエンナ。こんな時まで勉強かよ。
戦場に出て分かったろう。実戦に勝る成長なしって」

「ええ、良く分かったわ。実戦を通じて、
まだまだ学ぶべきことが多いことがね。
私たちが使える魔術だと、戦術の幅が狭すぎるわ。
ヴェルの大好きなフレイムチャーなんちゃらも
薄い炎の膜じゃしょうもないでしょ」

「なにー。俺の技はフレイムチャーなんちゃらじゃなく、
フレイムチャージだ」

怒るのは、そこかよと誠一は心の中で突っ込んでいた。
それはさておき、誠一はシエンナの言う事にも
一理あると痛感していた。
確かに実戦の経験は得難いものだったが、
技術・知識による選択肢の幅を広げるべきだとも感じていた。

「しかしまあ、なんだな」
誠一の含みある言葉にシエンナが突っかかった。

「何よ、アルも何か言いたいことがあるの?」
ずいっと顔を近づけて、誠一を睨みつけるシエンナだった。

「いやまあ、そろそろ講師が来る頃だし、落ち着こう」
誠一は講壇の方へ目を向けた。
シエンナも講師が入室したことを確認すると、本を閉じた。

「本日も数名、前線より戻って来た者がいるようだな。
諸君は現在、軍属扱いとなっている。
いつ何時、召集がかかり戦場に向かう事が
出来るように心構えをしておくように」

恐らく戦場から学生が帰還する度に訓戒として話すのだろう。
誠一たちを除く学生たちの表情がまざまざとそれを示していた。

 講義はなくほぼ自習形式であった。
与えられた課題をこなしてく方式であったが、
学術的なものでなく、軍に必要とされる内容ばかりであった。
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