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474.王都3

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「おい、アル。アルってば」
ヴェルが誠一の腕を突っついた。

「ヴェル、もう終わったの?」
「な訳ないだろ。それより最前線の状況ってどうなんだ?
何か聞いているか?」

「いや、特に何も。サリナが情報を集めていると思うけど。
シエンナ、何か聞いてる?」

商材の一つに情報も扱うモリス家なら何か聞いているかもと思い、
シエンナに誠一は話題を振った。

「うーん、サリナの話だと三角砦の一角が落ちたと聞いたけど。
そのせいでグレイガーの軍が孤立して、
にっちもさっちもいかなくなっているみたい。
でも世に名を馳せるナサレノやバルフォードが籠る残りの2角の砦を
落とすのには難航するでしょうね」

彼等は誠一でも聞いたことのある名であった。
剣豪鬼谷や竜人グロウと同クラスと言っていい実力の持ち主たちであった。

「おいおい、吟遊詩人の詩のネタになるような奴らじゃねえかよ。
あいつらに拮抗する実力者が最前線の王国軍にはいるのかよ」

ヴェルの言葉にシエンナが小首を傾げた。
最前線の将に彼らほどの実力者を探すのは難しかった。

「いや、ヴェル。一人で数千人を倒すことは出来ないさ。
如何にその強さを誇ろうとも数の圧力で押し切ると思うよ。
大軍に戦術なし。数の恐ろしさは、北関の魔物襲来の件で
良く分かってるでしょ。
それにオペレーションアーチロードの胆になるグレイガーが
孤軍になっているしね。
これは一軍を当てておけば、そのうち兵糧不足に悩まされて、
ジェイコブのようになるさ。
反乱軍としては王国軍の主力を砦に貼りつかせておきつつ、
ダンブル自らの軍で勝利を上げるしかないな。
ジェイコブは北関を抜けないだろうしね。後はまあ、うーん」

ふと、話を止めて、二人の方を見るとヴェルとシエンナが
驚いた顔をしていた。

「えっと、二人ともどうしたの?」

「おまっ、いつそんなことを勉強しだんだ」

「アル、あなたって戦術にも一家言あるんだ。正直、驚いたわよ」

適当に思いつくままに話していたにも関わらず、
随分と感心されてしまい、逆に赤面してしまった。

「アル、他に何か気になることがあるの?」

「いやまあ、何て言うか気にならないかな。
本来、別動隊による強襲は隠密を旨とすべきなのに
ダンブルは隠す素振りだけで情報は恐らく筒抜けだったと思うよ。
何か他に伏線があるのかなと。
例えば、内応者がいるとか、竜公国と密約があるとかさ」

想像力を働かせれば、色々と出てくるが、
それらの証拠となるものは一切なかった。
誠一は妄言を吐くアホウ者と称されるのは
御免であったためにこの程度に留めておいた。

「おまっ、本当にすげーな。
予想が外れたとしてもよくそんなことを思いつくよな」

「証明するものはないにしても言われてみれば、
可能性はあるわよね。
確かに皇帝とかを僭称する割には杜撰すぎるわよ」

二人の称賛が止まず止まらずに続いていた。
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