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476.王都5

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「世に名高い吟遊詩人ファーリにその雄姿を
謳われる程とは、流石じゃのう」

「学院長、そろそろ勘弁して頂けないでしょうか?
あれはファーリの悪ふざけです」

薄い頭皮を撫でながら、ファウスティノは笑いを収めた。
「そうそう笑ってばかりもいられぬ。
君をここへ呼んだのは他でもない。
レドリアン第三席宮廷魔術師についてじゃのう。
誠一君、君の率直な印象を教えてくれないかな」

「レドリアン導師ですか」
誠一は続けて、ファウスティノの問いに答えた。
「平時での導師を知りません。
私が知りうるのは北関での導師の印象になります」
ファウスティノは頷き、続きを促した。

「レドリアン導師は、常に余裕がないように見受けられました。
また、将としてはどうにも感情の起伏が大きくて
頼りない印象を受けました。以上です」

ファウスティノは瞳を閉じた。
学院長室は、静謐に時が過ぎていた。

「時に誠一君。彼は皇帝に降ると思うかね」

突然破られた静寂、誠一は反射的に答えてしまった。

「はい」

誠一は、流石にこれはまずいと思い取り繕おうとしたが、
ファウスティノに遮られた。
「そうか。やはりそのように君の目にも映るのじゃのう。
ふむ、ありがとう。十分に参考になった」

「心配せずとも君の言葉だけで彼が更迭されることはない。
何せ私は魔術院の学院長であり、
王国の人事に影響を与える立場ではないからのう」
にこにこしながら話すファウスティノの顔を見ながら、
誠一はやられたと思った。

普通に会話が続いていれば、レドリアン導師が投降するなどと
肯定する訳がなかったが、咄嗟のことでつい心の奥底の本音が
発露してしまった。
駆け引きでは到底、及ばないと思わざるを得なかった。
やられっぱなしでたまるかと誠一は不敵な笑みを浮かべた。
「学院長、次はこう上手くはいきませんよ」

「ふむふむ、それは楽しみにしておこう。
それにしても白き鎧を紅く染め上げる赤備え。
誠一君、中々な詩の才があるのう。
辞せの句は、君に前もって作って貰おうとするか」
カラカラと笑うファウスティノを前にして
誠一は言い返す言葉が見つからず顔を真っ赤にするだけであった。

誠一はコホンと咳を一つすると、ファウスティノに尋ねた。
「すみません、学院長。二つほど教えて頂きたいことがあります。
一つは、オニヤ先生について。
もう一つは、前女王ナージャ様の居場所です」

「オニヤのう。分からぬ。一体、どこをうろついていることやら。
ふらっと現れてはふらっと消える気ままな男だからのう。
縁があれば、また、会えるだろう。
して、ナージャの居場所を知りたいとは、いったい何故じゃ?」

流石にバッシュ絡みとは説明する訳にいかずに
誠一は最もらしい理由を話した。
「リシェーヌの過去について知りたいためです」
話ながらも少し苦しいかなと誠一は思ったが、
ファウスティノは意外にも真剣な表情であった。
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