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632.神堕ちの儀8

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ドゴーン、氷塔が激しく揺れた。
シエンナの防御陣は一撃で粉砕され、
氷塔は真っ二つに割れた。
しかし、湖水に落ちるような者はいなかった。

「シャアアアアー」

蛇の目が誠一たちを捉えていた。
氷の上でしか動けない誠一たちを楽に喰える獲物と
認識しているようであった。
水蛇は巨大な身体を湖面から突き出して見せつけ、
喉を鳴らして威嚇した。しかし、そこから水蛇は
全く動くことがなかった。

「馬鹿な蛇。
止まっている物なんて簡単に当てられるのにね。速射」
幾本かの矢が水蛇の頭部を襲った。
全ての矢が刺さった。その内の一本が蛇の目を潰した。

「おいおい、アル。おまえ、いつやったんだよ」
ヴェルとシエンナが驚きの目を誠一に向けた。

何のことか分からないアミラは目を凝らして、水蛇を見た。
湖面より出ている蛇の胴回りには空気の膜が覆っていた。
「まさか空気の層が蛇を覆っています」

「ああ、そうさ。アルが空牢郭を無詠唱で展開している。
無詠唱自体は俺もシエンナもできるから驚くことでない。
だがいつ唱えた。全く俺は展開された魔力に気づかなかったぞ。
流石にそれはあり得ないだろ。シエンナ、同じだろ」

シエンナも頷いた。複数魔術の同時詠唱、
恐らくは無詠唱による氷塔と空牢郭の二重詠唱を
展開したに違いないとシエンナは推測した。
その上、空牢郭は隠蔽まで施されていると思うと、
戦闘中にも関わらず彼の技術に嫉妬を覚えずには要られなかった。
名のある賢者であれば誰もが持つ称号であり技術であった。
またライバルに先を行かれたと思うとギリギリと悔しさで
歯ぎしりが鳴った。
アルフレートを愛するという気持ちがそれを上回った。
シエンナは自分の感情を上手く処理することができなかった。
それゆえにその感情を水蛇に向けた。
シエンナの周りに太い氷の円錐が何本も浮き上がった。
動けない水蛇にそれは無慈悲に突き刺さった。
その内の一本が蛇の頭を潰した。蛇はそのまま、湖に沈んでいった。

「うおおおっ縮地」
千晴より貰った『瞬足の足袋』がそれを誠一に可能にした。

器用に湖面を凍らせて頭部から落ちる水蛇の魔石を
誠一は何とか入手した。

水蛇にも誠一にも見向きもせずにシエンナは
また湖面を歩き始めた。

ヴェルが後ろで騒いでいた。
「おまえ、いつ二重詠唱なんて出来る様になったんだ。
それもあんなデカい魔物を拘束するくらいの魔力を隠蔽しただろ。
すげえな。あり得ないだろ」

誠一は、ヴェルの言っていることが
何のことか分からなかった。
何故か前方の歩みが遅くなり、先頭のシエンナから
最後尾の誠一までの距離が著しく縮まった。
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