番いのαから逃げたいΩくんの話

田舎

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逃げたいの番外編〜

苦手なもの

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番外編、苦手なもの







【お分かりいただけましたか?Aさんの右肩に女性らしき手があるのが…】

季節外れの心霊番組。ドロドロとした再現VTRからのゾッする心霊写真に番組のゲスト達は「キャー!!」と高い悲鳴をあげるや咄嗟に目を覆うなどのリアクションをとっていた。

【一体彼女は何を訴えようとしていたのでしょうか】
「……」

今日のやることを全て済ませた唯はソファーに深く腰かけて画面に夢中になっていた。そして、隣に座り番いのくつろぐ様子を見て胸を撫で下ろす新野の姿も。

唯といえばテレビには目もくれずに授業の復習や予習ばかりしていた。たまにスマホで料理動画を見る時もあったが、新野に気遣っての無音だった。
それがようやく新生活に馴染み始めたのか、自分の時間を満喫する姿を見せてくれる。恋愛だろうがホラー番組であろうが、嬉しい以外の気持ちはない。


「珍しいね、君が夜更かしだなんて」
「あー…まぁ明日は授業ないし、たまには」
「そうか、明日は祝日だったか」

オンライン制でも普通の学校と同じように土日祝は休みになるし、春休みといった期間だってある。そのおかげで発情期で授業が遅れないのは有り難い。

「先生も休みなんだろ?」
「うんまぁ、明日はね」

? スケジュールは聞いていたんだ、なのにCMになったタイミングで隣にいた先生がゆっくり立ち上がった。

「俺はまだ仕事が残ってるから部屋にこもるね。あ、俺が見てないからって夜更かしし過ぎないようにね?」
「ん、わかった」

俺の愛想のない返事でも、先生はスマホを触りながら仕事部屋へと消えていった。
そしてひとり広いリビングに残された俺は……



(どうしよ、めっちゃ怖い)


冷や汗を流しながらビビりまくっていた。さっきまで先生が使ってたクッションを引き寄せるくらいには。
寝るタイミングがバラバラになるなんて何度もあったけどさ!見始めると気になってしまう質なんだよ、俺は。

【あれは夜勤の、確か夜十時を過ぎてのことでした】

――――――真っ暗な病院、その映像だけでも震えてしまう。
もしも俺に、そんなに観たくないならテレビを消すか他のチャンネルに変える。そんな発想があったならリモコンを手に取っていたかもしれない。

でも…、俺は分からなくて再び目線をテレビに向けた。



【先輩、時間なので巡回行ってきますね】

病棟の巡回のため、ひとり真っ暗な廊下を懐中電灯の灯りだけで進む看護婦の主人公。そして入院患者のいない病室から聞こえてきた、小さな呻き声のような音に彼女は足を止めた。

っ、これじゃ楽しむというよりハラハラだ…。
展開が読めない映像、そして緊張の糸が張り詰めたとき、


【あの誰か、】
「唯君」


「ーーーーーっ!!!!」

ぎゃぁ!?
叫び声は出さなかったのが奇跡だ。もたれていたソファーの後ろからかけられた声に、びくん!!と大きく飛び跳ねた。

「……あ、ごめん。脅かすつもりはなかったんだ」
「っ、ちょっと画面に集中してただけ!、で……なんかあった?」
「メールが来ててね、急ぎの仕事じゃなくなったって」
「は?」
「今になって仕様を変えて欲しいだなんて我儘なクライアントだよ。まぁおかげで俺もゆっくりだ」

仕事がなくなった。
つまり、先生が一緒に――――いられる?

「たまにはビールでも飲もうかな。あ、唯君はプリンとか食べない?賞味期限切れちゃう」
「なら、たべる…」

ゆっくりしたいなら俺に言えばいいのに、先生は自分で冷蔵庫を開けて目当てのものを取り出す。それも俺に渡すおやつも一緒にだ。
そして俺にプリンとデザートスプーンを手渡した後は、また俺の隣に座るんだ。


【先輩!!アレはなんなんですか!?】


「わぁ、ホラー番組なんて久しぶりにみたけど結構怖いね」
「……ふーん」

缶ビールを片手に眉をひそめる仕草。それがテレビと同じリアクションでも、先生は俺の番いなんだ。
不安にしている様子を見ると――― 取り除きたいと思う。

「え、唯君!?」

そっと腰を浮かすと、大胆にも俺は図々しくソファーから先生の膝の上に乗った。そんで、大げさな声を出しても俺の体に触りもしない手も。

「…駄目?」
「――――いいよ。もちろん」

ほら、悩んだところで先生は許してくれる。それが心地よくてもっと甘えたい俺もいた。

(いいなこれ…)

手元には俺の好物があって、背後には番いの存在と温もりがあるんだ。それでもホラー番組なんてのは怖いけど、さっきより余裕がある。


「唯君、楽しい?」
「楽しくないけど、いいとは思う」


まだテレビを楽しむってのは難しい。そもそもホラーでも名作アニメ劇場でも、テレビを自由に観ていいなんて初めての環境だった。

近くて遠い、母さんと暮らしていたアパート。
母さんがテレビを見てる間、俺はなるだけ近寄らないよう部屋の隅にいた。母さんの頭と体に隠れてて画面は半分こだけど、俺に文句なんかない。

それに、好きな番組を観ている時の母さんは機嫌が良くて、ふふっと笑い声が聞こえると… 嬉しかったんだ。
大好きな人の笑い声が、好きだった。

だけど先生は… 生活音がある方がいいって言ったから―――…


「見終わるまで、いてくれる?」
「もちろんだよ。終わったら、コメディ番組も見ようか」
「夜更かしは駄目なんだろ?」

「いいよ、たまには。もしも唯君が寝落ちしたってずっとこうしてあげるから」


先生は、ばかだ


大きな画面も、なんにもなくてよかったのに



(幽霊より未練がましいのは俺だろ)



少しだけ泣きたくなった






―――――――――――――――――――



一緒に、みよっか 唯。




それだけで もうよかった。
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