番いのαから逃げたいΩくんの話

田舎

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【番いのαから逃げた話】

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発情期が明けて二週間後。

俺は、同じ町内にあるクリニックに来ていた。
ここは月曜の午前中がΩ専用の診療時間になるおかげでαに会うこともβにじろじろと見られるストレスもない。番い解消といった重い処置は取り扱ってないからか、たまに待合室で見かけるΩの表情も暗くない。



「うん!顔の血色もいいですね、安心しました」
「はい。頭痛も楽になったんです」
「それは良い事です。今の調子なら抑制剤も以前と同じ薬に戻して大丈夫でしょう」

カルテを書き込んでいく医師の声は明るく、患者が元気になるのは嬉しいと微笑んでいる。
物腰は穏やかで、顔立ちも漂う爽やかな好青年の先生だ。狭い町だからたまにスーパーで見ることもあるんだけど、何故かやたらとおば様方にモテていると思ったら、息子感覚で可愛がられていると言う。驚いたな、四十歳も過ぎてたなんて…。
他の病院と掛け持ちもしてて、忙しさのあまり番いとは別居中らしい。

「今後も生活習慣には気をつけてくださいね。Ωは季節の変化にも弱いので周期が乱れやすくなります」
「はい、気をつけます」
「それとコレどうぞ」
「え……あ、いつもありがとうございます」

田舎の風習なのか診察が終わると家の畑で採れたという野菜を持たされた。


「すごく嬉しいんだけど、こんなに沢山いいのか?」
「もちろん。季節の野菜は免疫を高める効果がありますよ」

あ、ただの健康オタクだった。






「早く会いたい」「君の声が聞きたい」。
番欠乏症が軽くなったのは、毎日一枚。投函されてくるようになったハガキのおかげだ。
会わなくても繋がりがある。微かに気配を感じることで少しずつ食欲が出てきて、吐き気や頭痛もマシになっていた。


「お、八木君!今日は魚釣ってきたぞ」
「芦屋さん」

職場の駐車場にクーラーボックス片手にやってきた今日の芦屋さんは、大漁だったと興奮気味に釣りの楽しさを語ってくれた。

「次の土曜あたり八木君も一緒にどうだ?」
「でも、俺は」
「二人きりだ。八木君だって全く興味ないわけじゃないんだろ?」
「……ほんとに、いいんですか?」
「あぁ当たり前だ。迎えに行くから時間送るな」

ポポンと芦屋さんのメッセージを受信して鳴るスマホ。
佐伯さんに借りてるスマホには事前に職場と佐伯さんと芦屋さんの連絡先が登録されているけど、こんなプライベートなやり取りは初めてだった。

「……なんですか?ジロジロみて」
「いやぁ?ほんと元気になったなぁって思ってさ。八木くん拾われてきた子猫みたいだったもんな?」
「はぁ!?ちょ、やめ…頭撫でんな!!」

相変わらず芦屋さんは俺を子供扱いするし、自然と受け入れている自分がいた。
今夜は釣り仲間に呼ばれたと芦屋さんは下処理をした魚をくれて、いつものように家に送ってくれた。

「寂しくないか?」
「ふん、俺はアクアパッツァを覚えた」
「待ってくれ!!明日は行くから!!!」

頼むなんて……、ほんと賑やかな人だ。




俺は まだ芦屋さんにハガキのことを言えなかった。
だって散々先生と話し合う気はないとか強がっておいてコレなのだ、「なんだ仲直りしたのか?」てニヤニヤして言うに違いない。


それに返信はできないんだ。


届くハガキには「早くーーー」とあるだけで時期が明確じゃない。

先生の善意なのか義務なのか
過度な期待はしない方がいいだろう。

だけど帰るたび、家を出るたびにポストを確認してしまう。



「あ、」


そして今日もハガキが届いていた。




『君には俺だけだよ、愛してる』





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