番いのαから逃げたいΩくんの話

田舎

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【番いのαから逃げた話】

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芦屋さんと連絡がつかなくなった。
気まぐれな人だ、もしかしたら旅行や釣りに行ってるだけかもしれない。
だけど消えたタイミングがタイミングなだけに嫌な胸騒ぎがする。


(どうしよう、どうしようっ…)

迷ったあげく佐伯さんにメッセージを送ろうとした手前で、【今こっちで芦屋の行方を追っている】と佐伯さんの方から連絡がきた。
そしてその日のうちに俺の教員担当だった南さんが家を訪ねてきた。
驚きも怒りも感じない。南さんは、芦屋さんと同じように佐伯さんの命令で俺につけられていた監視だった。
"このまま家にいちゃいけない"と説得された俺は、佐伯さんの指示と南さんに従ってビジネルホテルに避難した。


それから二日経ったのに、芦屋さんはまだ見つかってない。


『いいですか、君のせいではありません。自分を責めないでください』。

佐伯さんだけでなく南さんにまで気遣われて過ごす日々。
明日になれば俺はこの町を離れて東京に戻るらしいけど、それより芦屋さんだ…。

俺のストーカー… 。
そんな得体の知れない人物に襲われて怪我をしてるかもしれないのに、俺はホテルの部屋で無事に過ごしている。
誰が来ても絶対に開けちゃダメだと言われて…安全に…だ。


(っ、ごめんなさい)


ぎゅっと胸の奥が苦しい。



防犯カメラに誰か映っていたのか?
見知った人物だったのか?

分からない、俺には何もわからない…


「俺が…黙ってれば良かった…」


深く深く、どこまでも落ちて
視野が狭くなる。


「俺のせい…だ…」


ズキズキと頭が痛い、心臓が痛いほど鼓動して

息が苦しい……

目の前が真っ暗になりそうになった手前で、ヴー、ヴーと震えるスマホが鳴った。


【非通知】


普段なら絶対に取らない…
だけど、「通話ボタン」に自然と指が触れた。



『唯君』



――――っ!!



『いま部屋の前にいるよ』




ハッとベッドの上から立ち上がり、走るようにドアを目指す。


 俺は、南さんの言いつけを破ってドアを開けてしまった。






「先生…、……っ」



そして俺の意識は、暗闇に落ちた。









 ◇   ◇   ◇





何度も何度も



遠くて深い 夢をみる。




(………ん、ここは)

起き上がったのは明るい寝室のベッドの上だった。

「唯くん、起きた?」
「、―――な、んで…」
「怖い夢でも見たのかい?とても魘されてたみたいだけど」

「俊哉さんっ!」

たまらず暴発した熱い想い。
どうしたの?と、あたたかい微笑みを向けられたのと同時に俺は番いの胸に飛びついた。

沢山の事を話した、途方もない”夢”の内容をだ。
選んだ道だった、後悔もしないと決めた。
俺がお互いの為だと望んだ選択肢のはずなのに――――、だけど離れた後は俊哉さんの面影を追ってしまう。虚しい空白の日々ばかりだった。


「そっか、それは…………嫌な夢だったね」

よしよしと撫でられると落ち着く、気持ちがいい。

嫌だった。だけど、悪いことばっかりでもなかったよ。
仕事は楽しかった。佐伯さんと芦屋さんだっていい人だった、釣りにだって連れてってもらったんだ。


「唯くん?どうして、君が尊と芦屋の事を知っているんだ?」



え?なんでって―――


 それは――――…………





「れ、は…………、」

ぴくっと声に反応する指先。
再び名前を呼ばれた気がするのに、まだ意識は遠い。

「…………ん、…」
「唯」

嬉しい。
何度も何度も繰り返される名前。
心地のいい声と、俺の髪を撫でる優しくて大きな手。

(あぁ、そうか………… )

まだ夢の中だ、いるはずがない。
わかってるけど、抱きしめてもらいたい。

意識が完全に覚醒してしまう。
目を開ければ、消えてしまう儚い幻でもいい。

それでも俺は 恋しくて恋しくて
その手に頬擦りしようとして



――――ぞわり、と鳥肌が立った。

微睡から現実に叩き戻すほどの強烈な不快感に跳ね起きた。



「逃げようだなんて、悪い子だ」

「っ、な、なんで…、ここに貴方が…っ」





「長谷川先生」……と


信じられなくて目を疑った。



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