番いのαから逃げたいΩくんの話

田舎

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【番いのαから逃げた話】

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母さん…
そうか…、いつも夫をΩに奪われたと怒ってたのは俺の…

そうゆう事だった。
だから俺のことが憎くて憎くてしょうがなかったんだ。


(ごめん、母さん…)

だけど今なら分かる。親権争いで有利なαを相手に、母さんは勝った。そして俺を育てた。
確かに俺を選んでくれたのだ。
何度もあった引越しも、母さんが疲弊していく背中も、覚えてる。


だけど 。







「唯、お前には私だけだ。最初から私だけがお前の全てなんだよ」


長谷川に頬擦りされた。
なのに冷え切って動かない、心はシンとしてて体は重い…。


(なんだろ、この感覚は…)

さっきから心の中がやけに静かなんだ。
投与された薬のせいなのか?あんなに怒りも驚きも感じていたはずなのに…


「そこのβくんはいま危険な状態だ」
「……なっ!?」
「私はね邪魔をされるのがとことん嫌だ嫌いだ。だから君には大人しくうなじを差し出してもらいたい」


それは、悪魔の取引だった。
チラッと見れば意識を失いぐったりとした芦屋の血の気の失せた表情がある。
長谷川の言ったことが冗談でないことくらい察した。

「発情期じゃ、ない…」
「なくても意味はあると君は分かってるだろ?その為の投薬だ、君には静かな場所で改めて発情期を迎えてもらう」
「…………」


芦屋さん、ごめんなさい――――― 巻き込んじゃってごめんなさい。



「もしも… アンタが、ちゃんと母さんを選んでくれてたら、普通の家庭だったのかな…」
「幸せな家庭なんてこれからいくらでも作れる!君はもっと幸せになる」
「幸せ……、拒絶反応が起こらない以上、本当に俺はアンタの番いなのかもな…」
「唯!」

……あぁ、どこまでも耳触りのいい声だ。
ちらっと目をやれば歓喜に沸くαの顔があった。



…… アンタはなにも分かってない。

母さんは… 、俺とアンタが壊したんだよ。
だけど皆んな違う人生を歩んでいく、過去に何があっても続いてくのが人生だ。

俺は、アンタの理想のΩには一生なれないのに―――――――…




「嚙んで、長谷川先生………、嚙んで、芦屋さんを助けて…」


ぐっと体を起こしてうなじを差し出す。


芦屋さんごめんなさい…

先生も佐伯さんも、南さんも…… ごめんなさい。




「あぁ、約束は守る。だから彼を見て心から幸せだと笑え、それで完了する」


なにが完了するのかは分からないけどロクなもんじゃないんだろうな。


ぐいっと長谷川に体を支えられた状態で芦屋さんを見る。
薬のせいで視界がぼやーっとする…


だけど知っている、やり方は痛いくらい学んでいた。


心を騙すのは簡単だって…





「芦屋さん、俺は、―――――――」




途端、うなじに焼けるような激痛が走った――――……。



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