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しおりを挟む「クソッたれが」
生まれてはじめて加減なく人を殴った。
痛む拳を強く握りしめ、いまだに何が起こったのか分からず身を起こすのが精一杯のDomの姿を憎悪を込めて睨む。
――――――許さねぇよ
このDomは駆け付けようとした俺の目の前で琥太郎の腕を乱暴に掴み上げただけでなく、Subへの侮辱と罵声を浴びせたんだ。
食いしばった歯がギリッと嫌な音を立てる。
「どうした?お前はヒトを傷つけといて痛がるのか?」
無様だな。それとも被害者ぶっているのか?
う゛ぅー…っと殴られた痛みに立ち上ろうとしない男の返答を待つ
「くま、がり……」
「ごめんな、遅くなった」
あと少し――数秒でも早く駆け付けられたなら、琥太郎が傷つけることなんてなかった
やっぱりいなくなった日、もっと真剣に探しておくべきだった。俺から連絡を取ればよかったんだ。
なんで目元を真っ赤に腫らしてるんだ
苦しそうにしている
そんなボロボロの姿で 寂しげに俺の名前を呼ぶんだよ―――
「くそっ、こんなのは暴力だ!!待ってろすぐ警察を、」
「あ゛?」
馬鹿だな、Domの癖に相手がどんな状態かもわかってないのか。
頬に手を当てて俺を見上げる男は、なんでもない。たかがDomってだけの人間だ。
「はは、これがglareなのか?」
「――っ、!?」
Dom同士のGlareは分かり易くていい。
相手の威圧を感じた時、勝てる相手なのかそうでないのかすぐ判断できる。
この男は小物だ。ビリビリする威嚇を放っていても突如現れたDomへの恐怖心が隠せていない。
(酷い顔してるよな、ゴメン…)
今、俺は琥太郎には目を向けられない。
こんな醜い姿だけは見なくていい 知らなくていい。
「ちょっとglareを出しただけで動けないテメェが何言ってんの?」
お前みたいなDomがいるせいでSubは追いつめられて苦しむんだ。
相手をサブドロップさせる寸前まで追い込まなきゃ自分が優位に立てないゴミクソ野郎が―――――
「【殺してやろうか】」
質問でも疑問でもなく、相手を打ち負かすための強い言葉に周囲の空気が一層重いものへと変わった。
”Defence”
Domが自分のsubを守ろうとして起こす警戒と攻撃態勢だ。
「―――――――ひっ、」
熊狩の激しい怒りの前に起き上がろうとしていた男が、息の詰まる悲鳴と共にまた尻餅をついた。カシャンッと手に持って居たスマホを手繰り寄せる気も起きないのか、ぶるぶると手も震えている。
たった一発殴られただけだろ ?
こんな情けない男に―――…。
じわじわと怒りで冷えていくのに頭の中は鮮明で、琥太郎にとって脅威でしかない目の前のDomを消し去らなければーーと
「くまっ、…”たすけて”…」
背後から聞こえた、か細くてもはっきりした叫び声にぴくっと耳が反応する。
「…オレ、ちゃんと待ってた」
褒めてくれないの?と…
顔を見ていなくても震える唇を一生懸命動かす琥太郎を無視できない。
「……琥太郎?」
「寂しい、こっち見て…、無視すんなよ」
""俺が行くまで、身を隠して待ってろ""
あぁそうだった。琥太郎は俺が与えたStayを忠実に守ってくれた。
君が俺を信じてくれたおかげで無事に見つけられたってのに… こんな男を相手している場合じゃなかった。
「琥太郎、よく頑張ったな。すごくいい子だ」
「――――、熊狩っ」
トッと地面を蹴り、思いっきり飛び込んできた琥太郎をしっかり胸に抱きかかえる。
「あぁ足が震えているな、立つのもやっとだったのか…」
「っ、…、」
地面に跪くと琥太郎は躊躇うことなく背中にしがみついた。そして公園を出る前に、まだ見っともなく這いつくばったままのDomを最後に一瞥していくのを忘れない。
「忘れんなよ」
ふっと嗤う。
お前は優秀なDomサマなんだろ?
なら言葉にしなくても俺の言いたい事は伝わるはずだ
――――さぁ 琥太郎
一緒に帰ろうな
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