巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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2章 脇役と不死の王龍

脇役と不死の王龍

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リン・リーン……

繰り返し鳴る風鈴と、鈴のような不思議な音色。
それはやがて、小さな波の音へと変わっていく――。

そこは、とってもあったかい。
波は穏やかで、包み込まれるように居心地のいい海だった。

(あそこにいるのは……誰だろう?)


『王、王よ……』

波打つ音に混ざって、喜びを歌うような声が響く。

『私の王』

岩辺に腰かけて、微笑んでいる。

声と同じようにきれいで――――
青い銀髪と瞳を持つ、ひとりの男性の「人魚」。

(なんだか……楽しそうだな)

歌うような声と微笑みに、胸の奥が暖かくなる。

なのに、彼は…… 一滴の涙を流した。

「王」と、何度も切なげに呼びながら――‥‥


『なぜ、……私は、ずっと……』

質問の内容はうまく聞き取れないけれど……続く言葉が伝わってしまう。

寂しそうで、とても哀しい。
見ているだけで胸が痛くて、苦しくって……。


そっと彼に手を伸ばそうとした瞬間

シオウは、森の中で目が覚めた。



 ◇ ◇ ◇


天高く伸びる木々。陽の光を遮る、濃い葉の天蓋。
時間の感覚を奪うほど鬱蒼とした樹海――“死の森”。

随分と見知った森で、俺は目を覚ました。


(……これが二回目なんて、ループものかよ)
睡眠薬か、あるいは魔法で眠らされていたらしい。かろうじて葉の間から差し込む弱い光があるおかげで、夜ではないことはわかるけれど……。
――――懐かしいなんて、これっぽっちも思いたくない。
虫一匹どころか生き物はいなくて、ここで過ごした経験上、雨が降ったことは一度もない。
その辺に生えているのは薬草……猛毒だ。

「‥‥‥っ、」

おそらく、かなり長い時間眠っていたんだと思う。
喉がひどく渇いている。
まだ我慢できるレベルだけど、早く助からないと脱水症状になるかもしれない。
こうして待っていれば、きっと――。

(……はは。誰が来てくれるんだよ)

誰も来てくれるものか。
騎士の誰も、ユリアもオズさんもいない。みんな、俺が――こんなとこ死の森にいることなんて知らない。

ただ、頭の片隅で思い出す。

『ゼアロルドは“死の森”に向かった』
『不死の王龍様への供物としてな』

(……ゼアロンさんはいるらしいけど、不死の王龍ってなんだよ。名前からして、すごく不穏な……竜っぽいけど)

それとイーリエさんが言っていた。
ゼアロンさんは、魔物討伐の任務に向かった――。
……「不死の王龍」とは、もしかして討伐対象の魔物の名前なのかもしれない。

(だけど手がかりがない。ここで会う約束をしていたわけじゃないし……)

ゼアロンさんを、この広い森の中で見つけられる自信は、全くない。

ゾッと背筋に寒気が走る。
おとなしく過ごしても衰弱死か餓死、さらに“不死の王龍”とかいう魔物に襲われる可能性まである。
そんなの冗談じゃない!
それに、まだ足は動く。完全に詰んだわけじゃない。

「オルベリオンに問う」

――俺は、死の森に来てしまった。
貴方がしてくれた忠告、“俺の大切なもの”は分からないままだけど……どうか教えてください。
これから俺は、どこに向かえばいいのかを。

………。

静寂だ。
風の音どころか、返事もない。

(……うん。やっぱり神様を呼び捨てにしたのはマズかったかな?)

「失礼しました、オルベリオン様――ん?」

―――キラッ、チカッ。

目の端で、小さな光が瞬いた。
三センチほどの、柔らかな光の玉がふよふよと浮かんでいる。

「あ、待って……!」

その光は不思議だった。俺が近づけばふわりと移動して、また止まる。
――まるで、“ついておいで”と誘うように。

意を決して、光に導かれるまま歩き出した。


響く足音は、俺の一つだけ。

どれくらい歩いたのか、もう分からない。
それよりも……使われた睡眠薬のせいなのか、世界がぐらぐらと揺れて気分が悪い。

「うっ、……うぇっ」
「――、―――」

体調が悪くて立ち止まると、心配するかのように光が寄って来た。
鈴のように澄んだ音が鳴る。

「ご、ごめんな……。せっかく案内、してくれてるのに…っ、ちょっと……だいぶ気持ちが悪くって」

――――――リンッ。
ひときわ優しく響いたその音と同時に、
胃の底を渦巻いていた不快感が、ふっと消えた。

「あ……君が治してくれたのか?」
「――――」
「ありがとう、すっごく優しい子だね。助かった」
「――――、――――」
「……うん。先を急がなきゃ」

向かう先に何があるのかは分からない。
それでも、立ち止まるわけにはいかない。

もしかして、この子が“微精霊”って呼ばれる存在なのかな?
――――今できるのは、信じて進むことだけだ。


そしてまた、道なき道を歩いて、歩いて――。


「ここは、一体……?」

記憶上、一度も現れなかった“開けた場所”に辿り着いた。
そこで俺は、

「あ、あれって……まさか!?」

思わず目を疑って駆け寄った。
ポツンとあったのは、どう見ても日本風の墓だ。
それも真新しい――昨日今日建てられたばかりのように、綺麗な石碑だった。

「やっぱり……お墓だ……!」

それに墓を囲むように咲く花々は、愛らしくも、どこか不自然な彩りをしていた。
彫られた文字を見た瞬間、心臓が跳ねた。

――――――”漢字”だ。

間違いようがない。
この世界には存在しない、懐かしい文字だ。


「でも、誰がこんなところに……!?」


その時だった。



――――――オオオオオオオオオオッ!!



空気が一瞬、悲鳴のように震えた。

聞いたことのない咆哮が、森を裂いた。


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