75 / 90
2章 脇役と不死の王龍
脇役と不死の王龍②
しおりを挟むなぜ、気づかなかったのだろう?
振り返ったシオウは、息を飲んだ。
あんなに恐ろしい声だったのに。
あんなに背筋が凍るほど怖かったのに―――
突如目の前に現れたのは、今まで出会った飛竜や土竜とは比べものにならない、圧倒的な存在感を放つドラゴンだった。
全長は十メートルを超える巨体。重厚な四肢は、地面にしっかりと根を張ったかのようにどっしりとしている。
鱗はまるで水面に揺れる湖みたいに、ひとつひとつが宝石のように輝いている。
なにより――――瞳だ。
エメラルドグリーンの瞳は、宝石以上に深く澄み、知性と威厳を漂わせた目でシオウを見ている。
――――竜のすべてが、生命力に満ち溢れていて美しい。
【グルルルルゥーー…!】
牙を向けているのに、竜は攻撃する気配を見せない。
『お前は何者だ?』
堂々と、しかし威圧的ではなく問いかけるようだった。
一体どうして、この巨大な存在に気づけなかったのか――。
その疑問すら霞むほどに、俺は目の前の光景に釘付けになっていた。
「は……はじめまして。俺は左都志央です。アナタが、このお墓を守っている……竜、ですか?」
『――――――』
じっと、俺を見つめたまま動かない。
(……でも、なんでだろう?懐かしい気がする)
すごく焦る気持ちはある、巨竜のプレッシャーを感じて背中に汗が伝う。
なのにそれだけじゃない。彼を見ていると不思議と安堵と喜ぶ気持ちが湧いてくるんだ。
貴方に――出会えて、嬉しい。って。
【ああ。そうだよ
俺は 貴方に会うために―――】
「”おう”、」
シオウが無意識にその鼻先へ手を伸ばそうとした、その瞬間――
チカッ、と。
はるか遠くから、こちらに向かって一直線に飛んでくる光が見えた。
「え?」
ものすごいスピードだ。
目を凝らして正体を見極めようとした時には、もう遅かった。
その光――正確には“人物”は、勢いのままシオウの脇腹をガシッと抱え、
次の瞬間、空へと舞い上がっていた。
「―――う、うぇえええぇぇ~~~~!?」
情けない悲鳴が響く。あまりにも唐突すぎて理解が追いつかない。
――――視界に広がるのは青空。
いや、ほんのり陽が傾きかけている夕暮れの空の色だった。
「お、俺、飛んでるの!?」
いや、飛んでいるっていうより……しっかり抱えられたまま打ち上げられているような……
「――――シオウ!なぜ君が此処に!?」
「ぜっ、ゼアロンさん!?」
それは俺の台詞だ――!!
録音でも幻でもなく、目の前には本物のゼアロンさんがいた……!
* * *
そっと地面に足をつけたのに、震える足のせいで立ち眩みしてしまう。
「うわっ!」
「シオウ」
倒れそうになったところを、即座にゼアロンさんが両腕で支えてくれた。
相変わらずスマートだ。男の俺ですらドキッとしちゃったよ。
「気を付けて」
「………あ、ありがとうございます」
「水をどうぞ」
「! た、助かります……!」
喉は干からびる寸前でした!!
手渡された水筒をありがたく受け取り、飲み過ぎないよう気を付けたつもりが……ごめんなさい、結構飲んでしまった。
んじゃ、喉が潤ったところで仕切り直しだ。
「ゼアロンさん!」
「はい」
……夢じゃない、ホンモノだ。
言いたいことはあるのに、本人の顔をジッと見つめてしまう。
(うん、すごく険しい顔だ)
俺にじゃない。さっき飛んできた方向を睨んでいるんだ。
ってことはあの竜が討伐対象なのか?なんて聞かなくても分かる。
あと――怒ってる気もする。
「……俺がいると、邪魔ですか?」
「私の能力は無差別だ。戦闘では貴方を巻き込みかねない。……くっ、イーリエは一体何を」
「お、怒らないで!誰も悪くなんです、悪いのは俺で」
――――――――――オオオォォォォォ――!!
「わっ、なに!? 悲鳴!?!?」
それは大地を震わせるような咆哮。
声というより、枯れ果てた喉から搾り出される怨嗟……悲しみすら滲む叫びだった。
「貴方が襲われそうになっていたのは、不死の王龍です」
「不死の……?」
あの美しい竜が……?と言いたいけど、ゼアロンさんに抱えられて地上を見たときには違う姿に見えた。
それと意識を失う前に囁かれた言葉も思い出す。
──“供物にする” って。
「ごめんなさい…。俺、竜のこと全然知らなくて……」
「竜には飼育されているものと、野生のものがいます。野生竜は個体差が大きく、棲家として好む土地も異なる。中には神聖を宿し、精霊と共に生きるものも」
ゼアロンさんは続けた。
「彼は後者で稀です。生前、“王”の称号を与えられた立派な竜でした。精霊だけでなく大勢の人々からも畏怖され敬愛されたはずです。しかし死後、人間への憎しみに呑まれ、瘴気の中を彷徨う死竜に成り果てた。この森が“死の森”と呼ばれるのは、死竜の纏う瘴気が原因です」
「つまり、一度死んで蘇った……?ドラゴンゾンビってこと!?めちゃくちゃ強い敵じゃん!!」
ヤバいって!!RPGゲームなら第二形態で出てくるボスだ!!
装備と仲間揃えなきゃ勝てない敵じゃん!
「はやく逃げなきゃ!」
「安心してください。シオウだけは何があっても私が」
その時――
『ママ!!』
俺のポケットの中からユリアの声が響いた。
意識を失う前に握りしめていた“空白の魔石”。
「まさか、空白の魔石から……?」
『ああ!よかった!ママの声が聞こえたってことは、パパも一緒ね!?』
おお!これには録音だけじゃなくて通信機能もあったのか。
「うん、一緒にいるよ。ユリアたちは今どこ?」
ーー彼らは西の砦にいるらしい。
侵入者の魔法により中は大混乱。ほぼ全員が眠らされているのを、イーリエさんとオズグ、そしてユリアで起こして回っているのだと。
(緊急事態に動けるオズさん……やっぱり優しい人だな)
「無事ならよかった。なんだかスマホみたいだな……魔石ってほんとすごい」
『フフン!それだけじゃないわ。ママの“心の声”も届けてくれてたのよ』
「うん?」
さっきまで感動で胸が熱くなってたのに、一瞬で冷える。
…………いま、なんて???
ゼアロンさんが「シオウ」と制するように言ったけど、待って。これだけは聞き逃さない。
「ユリアさん、俺の心とは?」
『我が魔力で属性を変異させたの。パパが浮気しないように!』
へぇ、そんなことできるんだ~。精霊はすごいなぁ。
「で、具体的になにを?」
『ママがパパのことを強く思えば思うほど、
ママの“心の声”がパパに届くようにしたのよ』
ゼアロンさんから返事はできなくても、
ずっと俺の本音だけは届いていた――と。
ユリアァァァァァァァァ!!!!!!!!!!
顔が一気に熱くなる。
え、いつから!?どこまで!?
『なんで戻ってこないの』
『さみしい』
『ゼアロンさんに、会いたい』
よりにもよって、そのへん全部!?
ゼアロンさんも目を逸らし、
「今はそれどころではない」と冷静を装ってるけど、俺の羞恥心に効いてる。
ありがたい……いやっ、ありがたくない……!!
「……ッッッ」
『ママたちはどこにいるの!?』
「あ、ユリア……ごめん。俺とゼアロンさんは今“死の森”にいるんだよ」
『『―――――はあ!?』』
「で、不死の王龍ってドラゴンが──」
説明する間もなく、
通信越しにユリア、イーリエ、オズさんの悲鳴が爆発した。
「お前たち、いい加減に静かにしないか。王龍の縄張りだぞ」
静かで低いゼアロンさんの声が空気を一瞬で凍らせた。
ビシッと緊張が走り、向こう側の騒ぎも一気に静まる。
(……さすが、ゼアロンさんだ)
272
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる