巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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1章 脇役は砂糖と塩と共に

脇役は借りてきた猫

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シュヴァル国。
隣国マクミランが“聖なる法律の国”と呼ばれるように、この国は“愛と恩義を忘れぬ国”を信条としていた。
多様な文化を受け入れ、貿易も盛んである。
市場では、人間と“獣人”と呼ばれる彼らが活気に満ちた様子で、同じ陽のもと商いをしている。
その光景こそ、シュヴァル国の豊かさと平和を物語っていた。






王都に辿り着く前にイーリエを含む重症者たちは医療機関へ運ばれ、ゼアロルドをはじめ歩ける者たちも、事前の連絡を受けて迎えに来た兵の案内で、馬が牽く荷車に乗り城へと向かっていた。


「す、すごい!! ねぇ、アレはなに!? あれは!?」

巨大な風車に興味津々らしい。
彼がはしゃぎ、元気な声でいてくれるおかげで気が紛れて助かる。

「シオウ、フードが脱げそうだ」

頭から深くフードを被せられたシオウは、興奮を抑えきれず――キラキラと目を輝かせて、笑顔を浮かべていた。

「! ありがとう!」

本当に素直で、賢い。
騎士と民間人が共に歩くことが目立つのだと、説明しなくても理解している。

「……本当に、隠すのが惜しい」

ゼアロルドの小さな呟きは、風に溶けて消えた。
シオウの姿を隠すこと――それは、守るために他ならなかった。





人前でシオウの外見を覆い隠す理由。
それは、この国の歴史に刻まれた《双黒の神子》の存在にあった。

昔。
シュヴァル国が深い瘴気に呑まれようとしていたとき、黒髪黒目の“男の神子”が降臨された。
聖女ではなく、男――それは前代未聞のことで、さらに“黒”は当時、不吉の象徴だと避けられていた。
その容姿ゆえに偏見と迫害を受けながらも、神子は勇敢に瘴気へと立ち向かってくれた。

シュヴァルでは、神子様は仲間と共に世界を救った「英雄」でもある。

今でも、シュヴァル国王都の中心にはその神子様の銅像が立ち、
人々はいつまでも彼を敬い、彼の冒険譚を語り継いでいる。


黒髪、黒い瞳。
奇跡を呼ぶ存在――。

「んー、いいにおい。なんだろ?美味しそう」

シオウの言葉の意味は聞き取れないが、
彼は、まるでその神子の再来のようだった。

ゆえに、城まで慎重にお連れする必要があった。
瘴気が再び国土を覆い、笑顔が失われつつあるこの時代に―― かつて降臨した神子を思わせるシオウが姿を現せば、民衆は救いを求めて押し寄せる。
その熱はやがて歓喜を越え、混乱へと変わるだろう。


「シオウ、こっちへ。身を乗り出すのは危ない」
「はい」


ゼアロルドが手を伸ばすと、疑いもせずシオウはその手を取る。

――こうして騎士一行は、念願の帰城を果たした。





 ◇ ◇ ◇



「シオ~は、どこまでもテメェの価値に気づいてないなぁ~。あぁないい子はドワーフ族の婿に欲しいくらいだなぁ~。それを、だぁれがイジメとる」

いつも穏やかなミンデでさえ、不機嫌に眉をひそめていた。

マクミランでは、聖女を“神の現し身”と崇める。
魔法こそ至高。医学や薬よりも治癒魔法の発展――それが彼らの常識だ。
その国で、塩や砂糖を生み出す加護がどれほどの価値を持つかなど、誰も理解しない。

「マクミランじゃ宝の持ち腐れか」
「同意だ。でもマクミランだって皆が皆、魔法が使えるわけじゃないよな‥」
「ハッ、あの国のこった。加護で生成された砂糖と塩で回復薬を作るなんざ、そもそも考えもしねぇだろ」

ゴルディとロインが唸る。

「しかし、マクミランの魔法使いは言った」

――「シオウが生きているはずがない」と。
どうしてシオウの死に確証を持っているのかは知らないが、シオウはマクミランの中で“死んだ”ことになっていた。

それで死の森を抜けた翌朝、仲間たちの間で言い争いが起きた。
死亡者扱いされているシオウを、マクミランに戻してやる必要があるのか? シオウも帰国を望んでいるのか?、と。

『こいつはマクミランの人間。下手をすれば国際問題になる』
『あ?問題ならすでに起きてるだろ』
『シオウは我々の恩人です。なんとか来るよう説得を――』

終わらない話し合い。
そのとき、シオウが震える指で絵を描いた。それは、マクミランの教会を示すシンボルだった。
彼は懸命に訴えた――

【ここに連れて行かれたら、自分は殺される】と。

おそらくだが、聖女様が降臨したことにより、
シオウの“処分”が決まったのだ。
それでシオウは、逃げていた。

すべて推測でしかないが……。



「必ずシオウ様を守り抜き、王都へお連れしよう。
 彼が何者であっても、受けた恩は返さねばならぬ」


それが、騎士の誓いだった。


此処にいる誰もが、シオウの加護を疑ってはいなかった。

清らかな塩と砂糖を錬成する――それは、この世界における奇跡の力。

けれど、それ以上に
彼の“人柄”こそが、誰よりも尊かった。




⸻⸻⸻⸻⸻



そして、
シオウがシュヴァル国に来て 一週間。



「あの方のご様子は?」
「相変わらずのようです……」
「やはり親しくなった騎士たちと離されたのが堪えておられるのでは?」
「しかし騎士達は療養中です。イーリエ様の傷もまだ癒えておられません」

静かな廊下に、噂めいた声が交錯する。
城中がざわついていた。

“大人しくていい子”と聞いていた少年が、どういうわけか――
部屋で暴れているのだから。


困ったと首を傾げる者達。



「……、っ、こ… だよ… 」

薄暗い部屋の隅で、小さな声が震えた。
うずくまるように膝を抱え、怯える少年の影。


(……みんな、どこにいるんだよぉ)

ぐすぐすと鼻水を擦る音。



シオウこそが、
今――密かに"神子様”と呼ばれている存在だった。
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