巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

文字の大きさ
21 / 90
1章 脇役は砂糖と塩と共に

脇役は借りてきた猫

しおりを挟む

シュヴァル国。
隣国マクミランが“聖なる法律の国”と呼ばれるように、この国は“愛と恩義を忘れぬ国”を信条としていた。
多様な文化を受け入れ、貿易も盛んである。
市場では、人間と“獣人”と呼ばれる彼らが活気に満ちた様子で、同じ陽のもと商いをしている。
その光景こそ、シュヴァル国の豊かさと平和を物語っていた。






王都に辿り着く前にイーリエを含む重症者たちは医療機関へ運ばれ、ゼアロルドをはじめ歩ける者たちも、事前の連絡を受けて迎えに来た兵の案内で、馬が牽く荷車に乗り城へと向かっていた。


「す、すごい!! ねぇ、アレはなに!? あれは!?」

巨大な風車に興味津々らしい。
彼がはしゃぎ、元気な声でいてくれるおかげで気が紛れて助かる。

「シオウ、フードが脱げそうだ」

頭から深くフードを被せられたシオウは、興奮を抑えきれず――キラキラと目を輝かせて、笑顔を浮かべていた。

「! ありがとう!」

本当に素直で、賢い。
騎士と民間人が共に歩くことが目立つのだと、説明しなくても理解している。

「……本当に、隠すのが惜しい」

ゼアロルドの小さな呟きは、風に溶けて消えた。
シオウの姿を隠すこと――それは、守るために他ならなかった。





人前でシオウの外見を覆い隠す理由。
それは、この国の歴史に刻まれた《双黒の神子》の存在にあった。

昔。
シュヴァル国が深い瘴気に呑まれようとしていたとき、黒髪黒目の“男の神子”が降臨された。
聖女ではなく、男――それは前代未聞のことで、さらに“黒”は当時、不吉の象徴だと避けられていた。
その容姿ゆえに偏見と迫害を受けながらも、神子は勇敢に瘴気へと立ち向かってくれた。

シュヴァルでは、神子様は仲間と共に世界を救った「英雄」でもある。

今でも、シュヴァル国王都の中心にはその神子様の銅像が立ち、
人々はいつまでも彼を敬い、彼の冒険譚を語り継いでいる。


黒髪、黒い瞳。
奇跡を呼ぶ存在――。

「んー、いいにおい。なんだろ?美味しそう」

シオウの言葉の意味は聞き取れないが、
彼は、まるでその神子の再来のようだった。

ゆえに、城まで慎重にお連れする必要があった。
瘴気が再び国土を覆い、笑顔が失われつつあるこの時代に―― かつて降臨した神子を思わせるシオウが姿を現せば、民衆は救いを求めて押し寄せる。
その熱はやがて歓喜を越え、混乱へと変わるだろう。


「シオウ、こっちへ。身を乗り出すのは危ない」
「はい」


ゼアロルドが手を伸ばすと、疑いもせずシオウはその手を取る。

――こうして騎士一行は、念願の帰城を果たした。





 ◇ ◇ ◇



「シオ~は、どこまでもテメェの価値に気づいてないなぁ~。あぁないい子はドワーフ族の婿に欲しいくらいだなぁ~。それを、だぁれがイジメとる」

いつも穏やかなミンデでさえ、不機嫌に眉をひそめていた。

マクミランでは、聖女を“神の現し身”と崇める。
魔法こそ至高。医学や薬よりも治癒魔法の発展――それが彼らの常識だ。
その国で、塩や砂糖を生み出す加護がどれほどの価値を持つかなど、誰も理解しない。

「マクミランじゃ宝の持ち腐れか」
「同意だ。でもマクミランだって皆が皆、魔法が使えるわけじゃないよな‥」
「ハッ、あの国のこった。加護で生成された砂糖と塩で回復薬を作るなんざ、そもそも考えもしねぇだろ」

ゴルディとロインが唸る。

「しかし、マクミランの魔法使いは言った」

――「シオウが生きているはずがない」と。
どうしてシオウの死に確証を持っているのかは知らないが、シオウはマクミランの中で“死んだ”ことになっていた。

それで死の森を抜けた翌朝、仲間たちの間で言い争いが起きた。
死亡者扱いされているシオウを、マクミランに戻してやる必要があるのか? シオウも帰国を望んでいるのか?、と。

『こいつはマクミランの人間。下手をすれば国際問題になる』
『あ?問題ならすでに起きてるだろ』
『シオウは我々の恩人です。なんとか来るよう説得を――』

終わらない話し合い。
そのとき、シオウが震える指で絵を描いた。それは、マクミランの教会を示すシンボルだった。
彼は懸命に訴えた――

【ここに連れて行かれたら、自分は殺される】と。

おそらくだが、聖女様が降臨したことにより、
シオウの“処分”が決まったのだ。
それでシオウは、逃げていた。

すべて推測でしかないが……。



「必ずシオウ様を守り抜き、王都へお連れしよう。
 彼が何者であっても、受けた恩は返さねばならぬ」


それが、騎士の誓いだった。


此処にいる誰もが、シオウの加護を疑ってはいなかった。

清らかな塩と砂糖を錬成する――それは、この世界における奇跡の力。

けれど、それ以上に
彼の“人柄”こそが、誰よりも尊かった。




⸻⸻⸻⸻⸻



そして、
シオウがシュヴァル国に来て 一週間。



「あの方のご様子は?」
「相変わらずのようです……」
「やはり親しくなった騎士たちと離されたのが堪えておられるのでは?」
「しかし騎士達は療養中です。イーリエ様の傷もまだ癒えておられません」

静かな廊下に、噂めいた声が交錯する。
城中がざわついていた。

“大人しくていい子”と聞いていた少年が、どういうわけか――
部屋で暴れているのだから。


困ったと首を傾げる者達。



「……、っ、こ… だよ… 」

薄暗い部屋の隅で、小さな声が震えた。
うずくまるように膝を抱え、怯える少年の影。


(……みんな、どこにいるんだよぉ)

ぐすぐすと鼻水を擦る音。



シオウこそが、
今――密かに"神子様”と呼ばれている存在だった。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり

処理中です...