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2章 脇役と不死の王龍
脇役と飛竜(前半)
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手配書が出回っても、誰もシオウ達を気にしない。
――――誰にも気づかれていない今が、逃げ時だ。
騒ぎになる前にシオウ一行は、足早に行商人の荷車に乗って街を出た。
(行商人の馬車に乗るなんて不思議だけど……要するに有料のヒッチハイクなんだな)
香辛料に酒の入った樽。
行商人の荷車とは、次の町まで荷物を運ぶついでに荷物が乗らなかった場所を旅人や冒険者たちに提供しているらしい。
荷車みたいに屋根もクッションもないぶん、運賃が安いというわけだ。
確かにベニヤ板みたいな硬い床は冷たくって、じわじわ尻にくる。
そうして走ること数時間。
すっかり外の風景は、緑の濃い牧場地帯へと変わっていた。
牛に似た大きな家畜がのんびりと草を食べていて、ひんやりした風が頬にあたる。
……ユリアは、暇みたいだね。
俺の膝の上ですやすやと眠っちゃった。
客人は俺たちだけだ。他の人の声がないぶん、風の音と車輪の軋みがやけに大きく響いた。
「‥‥‥‥オズさん。俺たちって、どこに向かってるんですか?」
「今朝のアレのせいで検問は厳しくなっている。なにより貴様を連れて陸路を使うのは目立つからな。この町の竜舎で飛竜を借りる」
相変わらずシオウとは目を合わさないオズグだ。
しかし、“飛竜”という存在はシオウの心をくすぐった。
「ひ、りゅう……飛竜!? それってつまり、ドラゴン!?」
「ドラゴン?馬鹿者か、それは王龍の称号だ。飛竜は飛竜だ、知らんのか」
「ぜんっぜん知らんでいいです! 飛竜って空を飛ぶんですよね!?うわぁ、楽しみだなぁ!」
以前の旅はどこまでも陸路だった。
最終的には徒歩じゃなくて、大きな猪のような生き物が牽引する箱型の乗り物に乗ったけど――、架空だったはずの生き物が空を飛ぶなんて!
信じられない! 聞いただけで胸が高鳴る。
飛竜かぁ……。
どんな見た目なんだろ!?ワクワクするな!!
◇ ◇ ◇
「ありがとうございました!」
「どうも。いい旅を」
そしてたどり着いたのは、一見すると大きな鳥籠が並ぶ牧場のような場所だ。
牧草のような爽やかな匂いと、……ちょっとくらい獣臭いかと思ってたのに無臭だった。
だけど中からは、バサバサと重い羽音が聞こえる。
ここが、飛竜がいる竜舎……。
「うわぁぁああ――、竜だ! 本物の竜がいるよ!!」
昔にやったことのある、RPGゲームの世界そのままだった。
蜥蜴のような見た目に、立派な翼!
ドンッ、と太い鎖につながれて並ぶ飛竜たちは、艶やかに輝く鱗と逞しい体をしている。
(体高は馬より少し大きいくらいかな?翼を広げたらもっと大きいかも!)
興奮しまくりの俺。
だけどオズさんは、どうやら気に入らないらしい。
「おい。どれも幼体じゃないか。これで大丈夫なのか?」
「一番安いのがこの子たちですよ、旦那。それと少し窮屈になっても大人二人なら問題なく“ヒノーレ”まで行けます」
「ん?ひのーれ……って?」
首を傾げて教えてもらった。
飛竜のレンタルでも行ける場所には限度がある。西の方向でギリギリまで許可されているのが、ヒノーレと呼ばれる村までだと。
一通りの説明を受けた後は、俺たちが乗る飛竜を選べって言われたけど……。
「おっきい……かっこいい――!」
「ママ、嬉しそう」
「はぁ。飛竜ごときで浮かれるとはな」
「見た目は似てても、大きさも瞳の色も全然違うんだね。君はキラキラの青色で、君は深い海の色。えっと名前は」
飛竜は俺と目を合わせようとしないけれど、飛んだ姿はきっともっと優雅で立派なんだろうな。
そして首輪に付けられているネームプレートを見て、俺は首を傾げた。
「あ、数字が名前……なのか?」
「飛竜は、名前に反応しない。よほど本人が気に入らぬ限りな」
「そうなんだ……でも、やっぱり名前はほしいよね。君たちに似合う凛々しい名前が、見つかるといいね」
―――その時、微かに。
リンっと‥‥ お城の中で、風鈴に似た音が聞こえた。
そして、
―――ギュルッ
グルルゥ……?
キュー……っと顔を上げ、甘えたような高い声で鳴く一部の飛竜たち。
シオウを前に喉を鳴らすような音だ。思わず、手を伸ばしかけて‥‥
「――おい。飼育されているとはいえ、飛竜は気位が高い。うっかり前に立てば、蹴られて死ぬぞ」
「えぇっ!?」
(いまの鳴き声って威嚇だったの!?)
慌てて一歩下がると、飛竜は「ん?触らないのか?」というような顔で俺を見ているのに。
やっぱり異世界の現実って、容赦ない。
そのとき、不意にユリアが俺の手を握った。
「ユリア? どうした?飛竜さんが怖いの?」
「……やっぱり、来るのね」
「へ?」
「よぉ、シオウ。それにユリア様。――無事で何よりだ、と言っておくべきだな」
突如として、竜舎に姿を見せた人物。
青い色の宝珠のある鎧。
そして、誰よりも高身長で、鎧の上からでも分かる盛り上がった肩と腕。
顔は隠しちゃいない。陽光に焼けた肌と豪快な笑顔の、
「―――ゴルディさん!」
俺たちの前に現れたのは、王都騎士団の中でもひときわ目立つ男前!
ゴルディさんだった。
「って、あれ??どうしてゴルディさんが竜舎に…?」
「なんでだろうなぁ。俺が聞きてぇよ」
飛竜舎の視察かと真剣に考えるシオウと、肩をすくめるユリア。
その二人を見て、ゴルディは「なんだこの緊張感のなさは」と呆れたようにため息をついた。
しかし次の瞬間、その瞳がスッと鋭く光る。
―――舌打ちをした先にいたのは、マクミランの魔法使いだった。
「チッ。逃亡がうまくいくと思ってたのか?うちの問題児を二人も攫っておいて」
「き、貴様はッ、王都騎士の一人だな!?」
「あぁ。イーリエがブチギレたせいで、どんだけ残業させられたか……! とっくに近くの街や移動施設には、兵士や俺みたいなのが配置されてんだよ」
オズグが苦虫を噛み潰したような顔をする。
緊迫する空気の中、ゴルディは眉をひそめたまま剣に手をかけた。
まさに、一触即発の空気だった。
しかし、
「ちょっと待ってください!ゴルディさん、違うんです!誤解じゃないけど、一部は誤解なんです!」
「誤解でもコイツは犯罪者だ。お前は……って、あ゛ン??」
「そりゃあ、オズグさんが正式な入国手続きをしてなかったのが悪いけどさ、俺も指名手配とか全然予想してなくて…!本当にすみません、大事にしちゃって!!」
「おい、待て。シオウ……いつの間にそんなに話せるようになった?」
……あ!
そうだ、そうでした!!
「はい! 俺の名前は左都志央、日本という国からやってきました!
なんで突然話せるようになったのかというと―― ユリアと契約したおかげです!」
現実とほんのりと嘘を混ぜた。
それでも初めての、自己紹介だった。
――――誰にも気づかれていない今が、逃げ時だ。
騒ぎになる前にシオウ一行は、足早に行商人の荷車に乗って街を出た。
(行商人の馬車に乗るなんて不思議だけど……要するに有料のヒッチハイクなんだな)
香辛料に酒の入った樽。
行商人の荷車とは、次の町まで荷物を運ぶついでに荷物が乗らなかった場所を旅人や冒険者たちに提供しているらしい。
荷車みたいに屋根もクッションもないぶん、運賃が安いというわけだ。
確かにベニヤ板みたいな硬い床は冷たくって、じわじわ尻にくる。
そうして走ること数時間。
すっかり外の風景は、緑の濃い牧場地帯へと変わっていた。
牛に似た大きな家畜がのんびりと草を食べていて、ひんやりした風が頬にあたる。
……ユリアは、暇みたいだね。
俺の膝の上ですやすやと眠っちゃった。
客人は俺たちだけだ。他の人の声がないぶん、風の音と車輪の軋みがやけに大きく響いた。
「‥‥‥‥オズさん。俺たちって、どこに向かってるんですか?」
「今朝のアレのせいで検問は厳しくなっている。なにより貴様を連れて陸路を使うのは目立つからな。この町の竜舎で飛竜を借りる」
相変わらずシオウとは目を合わさないオズグだ。
しかし、“飛竜”という存在はシオウの心をくすぐった。
「ひ、りゅう……飛竜!? それってつまり、ドラゴン!?」
「ドラゴン?馬鹿者か、それは王龍の称号だ。飛竜は飛竜だ、知らんのか」
「ぜんっぜん知らんでいいです! 飛竜って空を飛ぶんですよね!?うわぁ、楽しみだなぁ!」
以前の旅はどこまでも陸路だった。
最終的には徒歩じゃなくて、大きな猪のような生き物が牽引する箱型の乗り物に乗ったけど――、架空だったはずの生き物が空を飛ぶなんて!
信じられない! 聞いただけで胸が高鳴る。
飛竜かぁ……。
どんな見た目なんだろ!?ワクワクするな!!
◇ ◇ ◇
「ありがとうございました!」
「どうも。いい旅を」
そしてたどり着いたのは、一見すると大きな鳥籠が並ぶ牧場のような場所だ。
牧草のような爽やかな匂いと、……ちょっとくらい獣臭いかと思ってたのに無臭だった。
だけど中からは、バサバサと重い羽音が聞こえる。
ここが、飛竜がいる竜舎……。
「うわぁぁああ――、竜だ! 本物の竜がいるよ!!」
昔にやったことのある、RPGゲームの世界そのままだった。
蜥蜴のような見た目に、立派な翼!
ドンッ、と太い鎖につながれて並ぶ飛竜たちは、艶やかに輝く鱗と逞しい体をしている。
(体高は馬より少し大きいくらいかな?翼を広げたらもっと大きいかも!)
興奮しまくりの俺。
だけどオズさんは、どうやら気に入らないらしい。
「おい。どれも幼体じゃないか。これで大丈夫なのか?」
「一番安いのがこの子たちですよ、旦那。それと少し窮屈になっても大人二人なら問題なく“ヒノーレ”まで行けます」
「ん?ひのーれ……って?」
首を傾げて教えてもらった。
飛竜のレンタルでも行ける場所には限度がある。西の方向でギリギリまで許可されているのが、ヒノーレと呼ばれる村までだと。
一通りの説明を受けた後は、俺たちが乗る飛竜を選べって言われたけど……。
「おっきい……かっこいい――!」
「ママ、嬉しそう」
「はぁ。飛竜ごときで浮かれるとはな」
「見た目は似てても、大きさも瞳の色も全然違うんだね。君はキラキラの青色で、君は深い海の色。えっと名前は」
飛竜は俺と目を合わせようとしないけれど、飛んだ姿はきっともっと優雅で立派なんだろうな。
そして首輪に付けられているネームプレートを見て、俺は首を傾げた。
「あ、数字が名前……なのか?」
「飛竜は、名前に反応しない。よほど本人が気に入らぬ限りな」
「そうなんだ……でも、やっぱり名前はほしいよね。君たちに似合う凛々しい名前が、見つかるといいね」
―――その時、微かに。
リンっと‥‥ お城の中で、風鈴に似た音が聞こえた。
そして、
―――ギュルッ
グルルゥ……?
キュー……っと顔を上げ、甘えたような高い声で鳴く一部の飛竜たち。
シオウを前に喉を鳴らすような音だ。思わず、手を伸ばしかけて‥‥
「――おい。飼育されているとはいえ、飛竜は気位が高い。うっかり前に立てば、蹴られて死ぬぞ」
「えぇっ!?」
(いまの鳴き声って威嚇だったの!?)
慌てて一歩下がると、飛竜は「ん?触らないのか?」というような顔で俺を見ているのに。
やっぱり異世界の現実って、容赦ない。
そのとき、不意にユリアが俺の手を握った。
「ユリア? どうした?飛竜さんが怖いの?」
「……やっぱり、来るのね」
「へ?」
「よぉ、シオウ。それにユリア様。――無事で何よりだ、と言っておくべきだな」
突如として、竜舎に姿を見せた人物。
青い色の宝珠のある鎧。
そして、誰よりも高身長で、鎧の上からでも分かる盛り上がった肩と腕。
顔は隠しちゃいない。陽光に焼けた肌と豪快な笑顔の、
「―――ゴルディさん!」
俺たちの前に現れたのは、王都騎士団の中でもひときわ目立つ男前!
ゴルディさんだった。
「って、あれ??どうしてゴルディさんが竜舎に…?」
「なんでだろうなぁ。俺が聞きてぇよ」
飛竜舎の視察かと真剣に考えるシオウと、肩をすくめるユリア。
その二人を見て、ゴルディは「なんだこの緊張感のなさは」と呆れたようにため息をついた。
しかし次の瞬間、その瞳がスッと鋭く光る。
―――舌打ちをした先にいたのは、マクミランの魔法使いだった。
「チッ。逃亡がうまくいくと思ってたのか?うちの問題児を二人も攫っておいて」
「き、貴様はッ、王都騎士の一人だな!?」
「あぁ。イーリエがブチギレたせいで、どんだけ残業させられたか……! とっくに近くの街や移動施設には、兵士や俺みたいなのが配置されてんだよ」
オズグが苦虫を噛み潰したような顔をする。
緊迫する空気の中、ゴルディは眉をひそめたまま剣に手をかけた。
まさに、一触即発の空気だった。
しかし、
「ちょっと待ってください!ゴルディさん、違うんです!誤解じゃないけど、一部は誤解なんです!」
「誤解でもコイツは犯罪者だ。お前は……って、あ゛ン??」
「そりゃあ、オズグさんが正式な入国手続きをしてなかったのが悪いけどさ、俺も指名手配とか全然予想してなくて…!本当にすみません、大事にしちゃって!!」
「おい、待て。シオウ……いつの間にそんなに話せるようになった?」
……あ!
そうだ、そうでした!!
「はい! 俺の名前は左都志央、日本という国からやってきました!
なんで突然話せるようになったのかというと―― ユリアと契約したおかげです!」
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