悪役が改心したら前世で執着してた婚約者に溺愛される話

田舎

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願いは努力で勝ち取れ

夢にしては生々しすぎたあの体験を、私は「前世」と呼ぶことにした。

きっと一度死んで、時間が巻き戻ったのだ。

これは神の祝福か悪戯か―――
はたまた、もっと私を苦しめよという悪魔の呪いかもしれない。


(それでも、今は感謝しかない)


己の無知と無力、それと愚行を知った。
同時に、再び大切な「家族」に再会できた。

もしも前世と同じ道を辿り平民になっても、私は必ず結末を変えてみせる。



最後に、私(レイ)の人生は幸せだったと思えるように。



* * *



『本邸には近づくな』
私が一番行きたかった場所は立ち入り禁止で、あのころの私が昼間に好き好んで出歩くことはほとんどなかった。
だけど、今は違う。

(さすがはお祖父様が選んだ場所だ。ここは日当たりは良くて風通しもいい)

屋敷の敷地がこんなに広かったなんて……知らなかったな。
風が肌に触れる心地、虫の鳴く声、鳥たちのさえずる声。建物の近くにはサラサラと流れる綺麗な小川もある。
「窮屈でしょうがない」と退屈していた家が、こんなにも心温まる場所だったことを知った。


『いつか本邸に戻りたい。』
ずっと願っていた。素敵な旦那ジーク様と家庭を持って、私を鼻で笑っていた親族たちを見返したいと。

お父様に褒めてもらいたい。
そして、お母様。
どうか…… 私の存在を認めてください。


―――――そんな願いは、今は抱いていないが……。


こうして外を動き回るようになった私は、最大の計画を遂行する。




「れ、レイ様…!これは一体!?」


―――― 農具農具農具。
そして動きやすい恰好!

レイはふふんと仁王立ちし、戸惑う執事のセウスとメイドのアメリに高らかに宣言する。


「ここに、畑を作るんだ!」

「「…………畑」」


しかし、期待していた反応は得られなかった。
それどころか、セウスもアメリも言葉を失っている。その理由がレイには分からなかった。

(ああ、さては子どもには無理だと思っているんだな?)

まぁ無理もない。ちょっと前までの私は貴族のお坊ちゃまでワガママ放題で彼らを困らせていた。好き嫌いも激しく、食事は残すし偏食もひどい。
しかし、今は違うのだ!

「大丈夫!ぼくにだってやれるもん。ちゃんと収穫までするんだ!」

「収穫」
「収穫まで、ですか…」

「頑張るぞー!」と掛け声を出す元気なレイだが、肝心の本人は覚えていない。
なにせレイの直近の記憶は学園生活以降の、過酷な日々にほとんど上書きされているのだ。
――しかし、セウスとアメリたちは違う。
同じように意気込んだレイ坊ちゃまが、翌日には「やっぱりお花やめた!虫やだもん」と花を育てるのをやめた最近の実績を、しっかりと覚えていた。

「―――これからは、自分で耕す!植える!育てる!収穫する!基礎から菜園の知識を磨くんだ」
「「………はぁ」」

セウスとアメリは、「また坊ちゃまが思いつきで行動して…」と頭を抱えていた。
そして、キラキラと目を輝かせてやる気満々のレイを横目に「体験することは素晴らしいことです」と説いた家庭教師のクラウスが、二人の痛い視線からサッと目をそらした。


「あのぉ……レイ様。どうして畑などを?」

最近のレイは少しおかしい。
裁縫に勉強、散歩―――― 今ままで一つもしてこなかったことを詰め込んでやろうとしているのだ。
心配するアメリを前にレイは決意を語る。

「せっかくの広い敷地なのにもったいないでしょ?だから有効活用!」
「虫はどうします?レイ様はお嫌いでしょう?」
「うっ。それは……畑だから、いるもんね。慣れるように努力するよ」

本当はとっくに虫嫌いなど克服していたが、私はもじもじと演技をした。

かつての私は、虫が大の苦手だった。

本当に嫌いだったが、愚行を重ねた結果の、底辺も底辺な生活―――。前世の私は基本的に体力仕事ばかりで、作物を育てた経験はない。
乱暴に命じられるまま畑を耕し、作業の邪魔になる石や岩をどける。畑仕事のないときは寄木細工などを作って、わずかな収入を得ていた。まぁどれも見栄えが悪くて、ほとんど売れなかったが……。

(虫の種類や大きさなど関係なく、あばら屋にはいくらでも入ってきたな…)

虫には慣れた。虫刺されにも散々悩まされたが、それよりも雨漏りに隙間風の対策・食べ物の確保。夜は眠ることの方が大事になっていた。
苦労したぶん、回避したい部分も大きい。

「虫のことも勉強するし…‥だめ?」
「え!? いえ、…えぇっと他にもっと楽しいことが……」
「ぼくは畑もやりたいの!いつ平民になっても苦労しないように!」

レイは、前向きに言い放った。
種から作物を育てた経験があれば、少しでも飢えから逃れられるだろう?
それに、売ればお金になる。

(ゆくゆくは経済学も勉強して、みんなを養えるくらいの稼ぎが欲しい!)

恥ずかしくて言えなかったが、今の精一杯の気持ちだった。




「「「はあ!?」」」



――――へ、平民!?!?!?



全員の驚いた大声に、私はびくっと肩を跳ねさせた。







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