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逃亡
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屯所の門を見張っていると、背後で声がした。
「まだ人を斬るの」
振り向くと、ミケだった。
また人の言葉で話している。
多分、俺にしか聞こえない言葉だ。
「こっちから行くのではない。斬りに来るから、仕方なくやる」
「どちらも同じです」
俺は門から目を離さない。
搦め手から来た浪士がすべて斬られたことは、もう分かっているはずだ。
「もっと人を殺めるというのなら、私は子供たちを連れて出て行きます。前世でも現世でも、あなたは優しくいい人だった。そのあなたが、人を斬ることをなんとも思ってない!」
「待て!逃げるわけには行かない。斬るしかないんだ!」
「子供たちを連れて出て行ったら、もう二度とあなたとは会わない」
俺はため息をついた。
俺は沖田総司なんだ。
新選組の近藤と土方から、もっとも信頼される手練れなんだ。
その総司が逃げたら、二人は何と思う。
「もう、敵が来る」
「お別れです。二度と会いません」
行こうとするミケを、俺は必死で呼びとめた。
「どうしたらいいんだ!」
「一緒に逃げるんです。沖田総司なんて関係ない!前世も現世も、あなたは私のひかりです!」
仕方なく俺はうなづいた。
「分かった。お前と逃げよう!しかし・・・どこへ!」
「壬生の向こうは西大路です。私たちが隠れるねぐらはいくらでもある」
俺は苦笑した。
「俺は猫じゃないんだ。空き地で野宿は出来ない。それにかなり胸もやられているしな」
「どこでもいい!あなたが人を斬らない場所なら」
俺は壬生通りを挟んだ八木邸を思い出した。
旧屯所として使っていた屋敷だ。
八木邸へ行こう。
塀を乗り越えれば目の前だ。
敵は八木邸が、新選組の旧屯所だとは知らない。
「急いで子供たちを連れて来い!いや、俺も行く」
俺とミケは土蔵めがけて走った。
敵が敷地内へ入っていたら、途中で遭遇する。
走れば当然、ミケの方が速い。
俺が土蔵にたどり着かない前に、子猫を一匹くわえて来た。
俺の前に子猫を置いてミケは言った。
「土蔵の近くにお侍たちがいた。あなたはこの子を持って、ここを出る場所へ行っていて」
ミケの言う通りだった。
猫が子供を連れていても怪しむ人間はいない。
だが、俺と遭遇したら、どちらかが死を迎える。
俺は子猫を片手に抱いて西の塀へ走った。
子猫を懐に入れてやっと塀を乗り越えると、ミケがもう一匹をくわえて塀の上を軽々と走って来た。
俺はミケと二匹の子猫を連れて、八木邸へ向かった。
隊内随一の剣の遣い手の俺が、猫の親子を連れて逃げてきたら八木邸の女将は何と思うだろう。
呆れるか、馬鹿にするか、軽蔑するか・・・。
ところが女将が見せた態度は、驚いたことにそのいずれでもなかった。
「まだ人を斬るの」
振り向くと、ミケだった。
また人の言葉で話している。
多分、俺にしか聞こえない言葉だ。
「こっちから行くのではない。斬りに来るから、仕方なくやる」
「どちらも同じです」
俺は門から目を離さない。
搦め手から来た浪士がすべて斬られたことは、もう分かっているはずだ。
「もっと人を殺めるというのなら、私は子供たちを連れて出て行きます。前世でも現世でも、あなたは優しくいい人だった。そのあなたが、人を斬ることをなんとも思ってない!」
「待て!逃げるわけには行かない。斬るしかないんだ!」
「子供たちを連れて出て行ったら、もう二度とあなたとは会わない」
俺はため息をついた。
俺は沖田総司なんだ。
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その総司が逃げたら、二人は何と思う。
「もう、敵が来る」
「お別れです。二度と会いません」
行こうとするミケを、俺は必死で呼びとめた。
「どうしたらいいんだ!」
「一緒に逃げるんです。沖田総司なんて関係ない!前世も現世も、あなたは私のひかりです!」
仕方なく俺はうなづいた。
「分かった。お前と逃げよう!しかし・・・どこへ!」
「壬生の向こうは西大路です。私たちが隠れるねぐらはいくらでもある」
俺は苦笑した。
「俺は猫じゃないんだ。空き地で野宿は出来ない。それにかなり胸もやられているしな」
「どこでもいい!あなたが人を斬らない場所なら」
俺は壬生通りを挟んだ八木邸を思い出した。
旧屯所として使っていた屋敷だ。
八木邸へ行こう。
塀を乗り越えれば目の前だ。
敵は八木邸が、新選組の旧屯所だとは知らない。
「急いで子供たちを連れて来い!いや、俺も行く」
俺とミケは土蔵めがけて走った。
敵が敷地内へ入っていたら、途中で遭遇する。
走れば当然、ミケの方が速い。
俺が土蔵にたどり着かない前に、子猫を一匹くわえて来た。
俺の前に子猫を置いてミケは言った。
「土蔵の近くにお侍たちがいた。あなたはこの子を持って、ここを出る場所へ行っていて」
ミケの言う通りだった。
猫が子供を連れていても怪しむ人間はいない。
だが、俺と遭遇したら、どちらかが死を迎える。
俺は子猫を片手に抱いて西の塀へ走った。
子猫を懐に入れてやっと塀を乗り越えると、ミケがもう一匹をくわえて塀の上を軽々と走って来た。
俺はミケと二匹の子猫を連れて、八木邸へ向かった。
隊内随一の剣の遣い手の俺が、猫の親子を連れて逃げてきたら八木邸の女将は何と思うだろう。
呆れるか、馬鹿にするか、軽蔑するか・・・。
ところが女将が見せた態度は、驚いたことにそのいずれでもなかった。
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