沖田総司が辞世の句に読んだ終生ただ一人愛した女性の名とは

工藤かずや

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八木邸の女将お雅

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八木邸へは裏口から入った。
女将のお雅は驚いたが、歓迎をしてくれた。
本隊が出動し、俺ひとりが屯所に残っていたことを知っていたのだ。

理由も何も聞かず俺には茶がゆ、
ミケには夕飯の残り物の煮魚の温めて出してくれた。
しかし、隊でも剣豪で鳴る俺が、猫の親子を連れて脱出してきたのがいかにも不可解のようだった。

俺は自分から、長州の襲撃から逃げ出してきたことを告げた。
女将はうなづいた。
「よう決心しましたえ。総司さんがうちにいた頃から、あなたが剣を振るうのを見るのが辛うおした」

「それは、俺の命が長くないと知ってたからですか」
ズバリと聞いた。
「それもあります。でも、あなたは心根の優しい人です。、新選組に居なければ、恐らく一生剣など握らなかったでしょう」

一言もなかった。
近藤さん、土方さんの天然理心流道場へ入ったのも、両親がいないと言う俺の生い立ちによるものだった。

もっと言うなら、俺は近藤さんの側にいなければ、
ここまで生きては来れなかっのだ。
女将はミケ親子を見て言った。

「どんな理由にせよ、人を殺めてよいわけなどありません!」
ミケとまったく同じ口調だった。
新選組にいて、俺は命じられた任務のために人を斬るのが当然だと思っていた。

お雅には為三郎と言う幼い息子がいたが、総司には彼女が母親のような気がしていた。
総司が物心付いた時、すでに両親は他界していた。

茶がゆを食べ終えると、離れの六畳間に布団を敷いてくれた。
ミケは縁側で子猫に乳をやっている。
俺が生まれて以来、見たことのない穏やかで温かい情景だった。

だが、布団に入って寝付く間もなく、女将がやって来た。
「長州のお侍たちが来て、総司さんを出せと言うてます。断ると、今にも家探しせんばかりの勢いです」

やはり来たか!
土方さんたち本隊が戻るまでは、俺には居る場所さえないのだ。
「裏から出て西大路の方角へ逃げて!彼らは地理に明るくないから、追っては行けない」

結果として、ミケが言っていた通りの状況になった。
八木邸に迷惑はかけられない。特に女将には。
俺をかくまった容疑が濃いと見たら、家族を斬るのをためらわない奴らだ。

俺は懐に子猫一匹を入れ、
ミケがもう一匹をくわえて八木邸の裏口から出た。
土方さんたちが戻るまでは、逃げ回るしかない。

ミケとの約束だ。
いまは絶対刀を抜かない。
どんな状況に陥っても、ただ親子を護って逃げるのみだ。
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