示現流見届け人

工藤かずや

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6 お小夜の頼み

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「よくやった!本田帯刀の娘のことは
分かっておったが致し方なかった」
お目付津田勘解由の屋敷だった。

昼間の見届け役の報告に来たのだ。
娘のことを分かっていた、だと!
俺は無残な気持ちでお目付を見ていた。

幼い娘の最後の看取りも許さぬ
上意討ちとはなんなのか!
「本田帯刀殿の上意討ちの理由とは」

目付が鋭い視線を織部に向けた。
「詮索するでない!御上意である!」
今まで感じたことのない過酷な想いだった。

「そちの腕前確かである。
蔵人は一刀流の免許者。
帯刀もかなりの使い手と聞く。
それを苦もなく葬った。見事である」

俺は無言で頭頭を下げた。
神に包んだものを目付は俺の前に置いた。
「格別の思し召しである」

金だ!俺は金で人を殺める人間になったのか。
「五両ある!小普請では何かと不自由であろう。
御城代がお主を上意討ち討手と
見届け人にせよと申されている」

意外な言葉にも、俺は嬉しくなかった。
また、今日のようなことを繰り返すのか。
父の言葉が、実感を持って骨身に染みた。

「次の上意討ちは十日後である。
詳しい日時場所はおって沙汰する」
俺は目付の役宅を辞した。

暗い夜道を下を向いて歩いた。
なんなんだ、この気持ちは!
あれほど憧れていた人斬りになれたのに!

家の前に人影があった。
「織部さん」
人影が駆け寄って来た。

お小夜だった。
全てはこの女から始まった。
だが、彼女のせいではない。

全ての問題は自分にある。
「お願いがあるの」
暗いせいかお小夜は体を売り寄せるようにして
言った。

「少し歩きましょう」
暗い道を河へ向かって二人は歩き出した。
お小夜の頼みってなんだ。

「織部さん、蔵人さんと帯刀さんを
斬ったんですってね!驚いちゃった!」
言われても嬉しくはなかった。

すべては右門のおかげだ。
あんなに簡単に人が斬れるとは思わなかった。
示現流の形を真似しただけだ!

これを稽古で鍛えている薩摩隼人の
実力とはどんなものなのか!
考えるだに恐ろしかった。

「織部さんに助けてほしいことがあるの」
俺はお小夜を見た。
彼女がこんなことを言うのは、
もちろん初めてだ。

「助けってなんだ」
「あるお人を斬って欲しいのは」
驚いてお小夜を見た。

お前までこんなことを言うのか!
「これは織部さんにしかできない!
やってくれたら、私なんでもする」

お小夜は俺の手を握った。
その手は妙に熱かった。
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