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第3章 エルフ大公国を襲う悪意!
第34話(累計・第115話) クーリャ107:暗闇は嘲笑し、悪意をささやく!
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どこぞとも知れない暗い部屋の中、獣脂ランプの灯りだけが周囲を照らす。
「ルークス・ポーン10よ。今回の魔族姫暗殺計画の失敗、一体どうなっておるのだ!?」
「ガラドリエル様、申し訳ありません。後もう一歩で暗殺成功になるところ、まさか只人の小娘が、あのような妙な馬車でいきなり来て魔族姫を救い、その上に私を轢き殺しに来るとは思いませんでした」
高級な椅子に座る上品なエルフ中年男性に土下座で謝る、身体中を包帯で巻いた肌の黒いエルフ男性。
「おい! この場では、お互いに教団でのコードネームで呼ぶ決まりになっておる。そのような大事な事すら分からぬから、お前は指導者殿から新たな名前を貰うどころか、我が配下、ルークス・ポーンズの一桁代にすらなれないのだ!」
「か、重ね重ね申し訳ありません、ルーク様」
チェスでいうところの城塞を名乗るハイエルフ男性に、更に激しく叱責される、10番目のルーク配下兵士のコードネームを持つダークエルフ。
彼こそが、魔族帝国の姫クラーラ暗殺を担当した責任者である。
クラーラをうまくゴブリン達を待ち伏せさせた暗殺現場まで誘導したものの、突如現れたクーリャ達によって引き連れていたゴブリン兵等を一掃された上に、本人もクーリャが運転してたテストゥード号に二回も轢かれ、死にかけた。
「騎士殿から借りたポーン達も、オマエのミスで全て殺されてしまった。これでは指導者様や偉大なる我らが神ラトフィス様が望む結果にはならぬぞ!」
「ま、誠に申し訳ありません。こ、この失敗は我が命で補う所存であります。なにとぞ、私めに再度のチャンスをお与えくださいませ!」
ただただひれ伏して、叱責の嵐から逃れる事だけを考えているポーン10。
「では、何か策があるとでも言うのか? あるなら申してみよ!」
「は、はい! 今回の作戦を妨害したものがいます。既に大公国首都の下町では噂になっておりますが、王国只人族の小娘、クーリャという者にございます。全てはこのガキが仕組んだ事にございます」
「うむ、ワシもその小娘の噂は聞いておる。バカ大公は、愚かにも息子の嫁候補だとか風潮しておったぞ。古代より続く高貴なエルフ貴族、ハイエルフの血族に、低俗な只人の血を加えるなぞ、考えるだけでもおぞましいわ! だからこそ、我らハイエルフ保守派が政権を奪取し、偉大なる暗黒神ラトフィス様による完全なる世界を作らねばならぬのだ」
ただただ自らの血筋に拘るハイエルフの男、彼は西方エルフ大公国の保守派重鎮でもあった。
「そのクーリャなる小娘を大公子息や魔族姫共々暗殺するのです。そうすれば大公は各方面から叩かれ、責任を問われてて失脚します。噂では、既に魔族姫らと共に王国方面へ逃げたとの事ですが、それは混乱させるための嘘とも聞いています。まだ国内に居るのなら……」
「それは不可能だな。公館に潜む『草』の報告により、城内にドワーフ王国第五王女や大公子息と共に、その小娘が逗留中なのを確認しておるぞ。大公公館内に居るのでは、我らでは簡単に手出しできぬ」
ポーン10は、作戦を台無しにした上に自らを轢き殺そうとしたクーリャを恨んで暗殺を提案するが、ルークはそれは難しいと返す。
事実、大公公館には警備兵が随時存在し、外部の人員が内部に潜入するのも難しい。
「では、その内部に居ります『草』を、優秀なる彼女を使うのです。実は王国内のある筋から、少し傷を付けるだけで殺せる毒や銀を腐らせずに食事に仕込める毒も入手しておりますので……」
「だが、その『草』、ポーン2はおそらく生きて帰れまい。ワシが苦労して潜入させた優秀な『草』、諜報員を無駄に使うのはどうか? 今後の情報入手にも問題があろう」
「なに、今回ついでに大公殿も『お隠れ』になられれば良いのです。公館内の王位継承権を持つ高貴な方々がすべて居なく無くなれば、後は貴族改革派と保守派の争い。改革派に潜入しておられますポーン1殿と共に動けば、ルーク様の勝利は間違いないかと」
ポーン10は、ルークをそそのかす様に説得する。
邪魔者は、すべて消すのが正しいと。
「うむぅ。今回の作戦は教団すべてが係わる合同作戦。ワシが今、一存で勝手に動くのも問題がある。ただ、面白い話ではあるな。指導者様に提案するので、しばし待っておれ」
「ははぁ」
ポーン10が部屋より退席した後、ルークことガラドリエル伯爵は背後の暗闇に向けて呟く。
「指導者様。今の話、どうお考えられますか?」
すると暗闇の中から、漆黒の肌をした魔族青年男性が現れた。
「ルーク殿。クーリャなる小娘が我らにとって邪魔者なのは、確かですね。しかし、慌てずとも機会はまだまだあります。今、事を慌てる必要も無いでしょう。教団の存在が大公達に知られた以上、迂闊には動けません。なれば、あの短絡的で愚かなルークス・ポーン10に、自らで己の失敗責任を取ってもらいましょう」
「そうですな、指導者様。自らの失敗を味方たる他者の命で贖うというのは、筋が通りませぬ。ワシは、しばらく動きを潜めます。最悪、ワシが大公暗殺を企てた罪人としてポーン10を公の場で討って口封じをします」
「そうですね。彼も命で贖うと言っていますし。顔がバレた者を今後生かしておくのは危険です。今度は、彼がラトフィス様への生贄になるのです。ククク……」
暗闇の中で嘲笑する指導者。
その笑みは、まるで暗黒よりも更に暗く深く、一向に底知れぬものであった。
「ルークス・ポーン10よ。今回の魔族姫暗殺計画の失敗、一体どうなっておるのだ!?」
「ガラドリエル様、申し訳ありません。後もう一歩で暗殺成功になるところ、まさか只人の小娘が、あのような妙な馬車でいきなり来て魔族姫を救い、その上に私を轢き殺しに来るとは思いませんでした」
高級な椅子に座る上品なエルフ中年男性に土下座で謝る、身体中を包帯で巻いた肌の黒いエルフ男性。
「おい! この場では、お互いに教団でのコードネームで呼ぶ決まりになっておる。そのような大事な事すら分からぬから、お前は指導者殿から新たな名前を貰うどころか、我が配下、ルークス・ポーンズの一桁代にすらなれないのだ!」
「か、重ね重ね申し訳ありません、ルーク様」
チェスでいうところの城塞を名乗るハイエルフ男性に、更に激しく叱責される、10番目のルーク配下兵士のコードネームを持つダークエルフ。
彼こそが、魔族帝国の姫クラーラ暗殺を担当した責任者である。
クラーラをうまくゴブリン達を待ち伏せさせた暗殺現場まで誘導したものの、突如現れたクーリャ達によって引き連れていたゴブリン兵等を一掃された上に、本人もクーリャが運転してたテストゥード号に二回も轢かれ、死にかけた。
「騎士殿から借りたポーン達も、オマエのミスで全て殺されてしまった。これでは指導者様や偉大なる我らが神ラトフィス様が望む結果にはならぬぞ!」
「ま、誠に申し訳ありません。こ、この失敗は我が命で補う所存であります。なにとぞ、私めに再度のチャンスをお与えくださいませ!」
ただただひれ伏して、叱責の嵐から逃れる事だけを考えているポーン10。
「では、何か策があるとでも言うのか? あるなら申してみよ!」
「は、はい! 今回の作戦を妨害したものがいます。既に大公国首都の下町では噂になっておりますが、王国只人族の小娘、クーリャという者にございます。全てはこのガキが仕組んだ事にございます」
「うむ、ワシもその小娘の噂は聞いておる。バカ大公は、愚かにも息子の嫁候補だとか風潮しておったぞ。古代より続く高貴なエルフ貴族、ハイエルフの血族に、低俗な只人の血を加えるなぞ、考えるだけでもおぞましいわ! だからこそ、我らハイエルフ保守派が政権を奪取し、偉大なる暗黒神ラトフィス様による完全なる世界を作らねばならぬのだ」
ただただ自らの血筋に拘るハイエルフの男、彼は西方エルフ大公国の保守派重鎮でもあった。
「そのクーリャなる小娘を大公子息や魔族姫共々暗殺するのです。そうすれば大公は各方面から叩かれ、責任を問われてて失脚します。噂では、既に魔族姫らと共に王国方面へ逃げたとの事ですが、それは混乱させるための嘘とも聞いています。まだ国内に居るのなら……」
「それは不可能だな。公館に潜む『草』の報告により、城内にドワーフ王国第五王女や大公子息と共に、その小娘が逗留中なのを確認しておるぞ。大公公館内に居るのでは、我らでは簡単に手出しできぬ」
ポーン10は、作戦を台無しにした上に自らを轢き殺そうとしたクーリャを恨んで暗殺を提案するが、ルークはそれは難しいと返す。
事実、大公公館には警備兵が随時存在し、外部の人員が内部に潜入するのも難しい。
「では、その内部に居ります『草』を、優秀なる彼女を使うのです。実は王国内のある筋から、少し傷を付けるだけで殺せる毒や銀を腐らせずに食事に仕込める毒も入手しておりますので……」
「だが、その『草』、ポーン2はおそらく生きて帰れまい。ワシが苦労して潜入させた優秀な『草』、諜報員を無駄に使うのはどうか? 今後の情報入手にも問題があろう」
「なに、今回ついでに大公殿も『お隠れ』になられれば良いのです。公館内の王位継承権を持つ高貴な方々がすべて居なく無くなれば、後は貴族改革派と保守派の争い。改革派に潜入しておられますポーン1殿と共に動けば、ルーク様の勝利は間違いないかと」
ポーン10は、ルークをそそのかす様に説得する。
邪魔者は、すべて消すのが正しいと。
「うむぅ。今回の作戦は教団すべてが係わる合同作戦。ワシが今、一存で勝手に動くのも問題がある。ただ、面白い話ではあるな。指導者様に提案するので、しばし待っておれ」
「ははぁ」
ポーン10が部屋より退席した後、ルークことガラドリエル伯爵は背後の暗闇に向けて呟く。
「指導者様。今の話、どうお考えられますか?」
すると暗闇の中から、漆黒の肌をした魔族青年男性が現れた。
「ルーク殿。クーリャなる小娘が我らにとって邪魔者なのは、確かですね。しかし、慌てずとも機会はまだまだあります。今、事を慌てる必要も無いでしょう。教団の存在が大公達に知られた以上、迂闊には動けません。なれば、あの短絡的で愚かなルークス・ポーン10に、自らで己の失敗責任を取ってもらいましょう」
「そうですな、指導者様。自らの失敗を味方たる他者の命で贖うというのは、筋が通りませぬ。ワシは、しばらく動きを潜めます。最悪、ワシが大公暗殺を企てた罪人としてポーン10を公の場で討って口封じをします」
「そうですね。彼も命で贖うと言っていますし。顔がバレた者を今後生かしておくのは危険です。今度は、彼がラトフィス様への生贄になるのです。ククク……」
暗闇の中で嘲笑する指導者。
その笑みは、まるで暗黒よりも更に暗く深く、一向に底知れぬものであった。
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