塔を目指す冒険

阿波野治

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 狭隘で不規則な土の通路を出口へと向かいながら、とにもかくにも大役を務め上げた朔也の頭は、捌け口を求めた。
 言うなれば、この世界そのものといっても過言ではない対象に抱いた感情を、どうすれば今現在の数値よりも減らせるのだろう?

 進路に立ちはだかる異物を視界の端に捉え、朔也の足は停止を余儀なくされた。
 多少物珍しいくらいであれば、歩調を落としながら眺めればいい。跨げる大きさなら踏み越えればいい。異物はその鮮やかな色彩によって、彼の物理的な移動に待ったをかけたのだ。
 目を疑うとはこのことだろう。墓場に建つ灯台に似た塔よりも、ある意味では実在が信じがたい。
 赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、紫――すなわち虹色の体毛の猫が、狭い通路の真ん中に座り、白濁した瞳で朔也を見上げている。

 ひとえに色彩の鮮やかさに彼は目を惹かれた。それと同等かそれ以上に、ただものではない雰囲気が感じられた。
 朔也は運命に苛立ち、苛立ちの捌け口を見出せないことに苛立っていた。蹴飛ばすのはやりすぎにしても、追い払うべく威嚇的な挙動を見せてもおかしくない局面だったが、一瞬にして関心を奪われた。不可思議な現象を中核とした悩みに悩んでいるさなかだけに、虹猫を不可思議の産物と見なすまでには二秒もかからなかった。
 朔也は、虹猫の白濁した目を見つめる。まじまじと食い入るように見つめる。俺はこの世界のすべてを知り尽くしているぞ――白く濁った目はそう語っているように思えてきた。

 そう時間が絶たないうちに、朔也の双眸は次第に熱を帯びはじめた。足並みを揃えて、潤いが増していく。
 虹猫は相対する者を肯定も否定もしていない。歓迎も拒絶もしていない。虹猫はどこまでも虹猫でしかない。どう受け止め、どう利用するかはこちら次第なのだと、経験と本能、両方の意味で彼は理解した。

「……僕は、たった今――」
 朔也は姉について語りはじめた。
 最初は喪った悲しみに語っていたが、長続きはせず、自分にとっていかに大切な存在であるかの説明が主の内容となった。前者には大きな意味で区切りはついているが、後者はどう足掻いても片づけられない性質を内包している。なおかつ、虹猫はすべてを受け止める包容力を醸し出している。自分勝手な解釈なのかもしれないが、猫はその目的のためだけに眼前に出現した存在に思われた。

 朔也がしゃべっているあいだ、虹猫は一瞬たりとも彼から視線を外さない。
 真剣に聞いている、とは少し違う。相槌は打たない。動物が人間と意思疎通する物語で描かれるように、人間の発言に応じて「にゃあ」と鳴くこともない。それでいて、まばたきもせずに話し手を見つめ続ける。返事がなくても、心の声が聞こえなくても、ちゃんと聞いてくれているのだと分かる態度だ。
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