少女王とその奴隷

阿波野治

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役人来島①

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 その日、僕は目覚めるのが普段よりも少し遅かった。窓ガラスを透過して射し込む朝陽の角度からそれが分かった。
 青ざめて、跳び起きた。仮にブランケットで体を覆っていたならば、天井まで跳ね上がる勢いで蹴飛ばしていただろう。

 僕が慌てたのは、他ならぬシルヴァーのせいだ。
 僕は普段、彼女よりも少し早いか、遅くても同じくらいの時間に目覚めて、朝食の支度をする。
 シルヴァー一人でもできる、簡単で、腕力を必要としない作業ではあるが、僕は奴隷だ。日課を怠れば間違いなく罰が下される。

 食料置き場に飛んでいきたい衝動をなだめつつ、ベッドに注目する。
 シルヴァーはシロをベッドに上げ、仰向けになった自らの上にのった彼と戯れていた。
 女王は柔らかく微笑んでいる。その顔に、シロは盛んに舌を這わせている。愛犬と戯れるのが愉快なだけではなく、舐められる感触がくすぐったいゆえの笑顔なのだと、微かに身悶えしている足指の艶めかしさから読み取れる。

 くすぐったさが許容範囲を超えたらしく、喘ぐように吐息をこぼしてシロの顎を押しのけた。強い拒絶感が込められた動作ではなかったが、白い体は大きく傾き、飼い主の体の上からだけではなく、ベッドからも落ちそうになる。危機を察知したらしく、シロは自らの意思で床に飛び降りた。
 シルヴァーは上体を起こした。体勢を変えたことで、僕の姿が視界の端に映り込んだらしく、顔から微笑みを消してこちらを向く。僕は居住まいを正した。女王は無意識のように唇を指で拭い、

「なんだ、起きていたのか」
「はい、たった今。おはようございます、陛下」
「朝食の支度をさっさとしろ。起床後は目が冴えるまでぼーっとしていても構わない、などと言った覚えはないぞ」

「承知しました」と答えて、立ち上がって食料置き場へ向かう。普段どおりに振る舞いながらも、内心では怒鳴りつけられなかったことに首を傾げている。
 女王は無防備な姿を見られるのを嫌がる。語調にいら立ちを滲ませこそしたものの、あからさまに怒りを表現しなかったのは、なぜなのだろう?

 テーブルの上に食品を並べる僕に、「今日は小屋の中で食べていいぞ」とシルヴァーは言葉をかけた。目覚めてからまだ十分も経っていないのに、彼女の言動に早くも二つ、驚かされたことになる。
 女王は自らのちょっとした不機嫌から、いとも容易く僕の食事に制限を設ける。日にちが経って品質が劣化したものだけを食べろとか、目障りだからお前だけ外で食べろとか。食事はするなと命じたことだって、一度や二度ではない。
 シロとの戯れを許可なく見物していた今朝の一件は、前例を鑑みれば、一人だけ外で食事をしろと命じられてもおかしくないのに。

「食料、もうだいぶ少なくなっただろう」
 食事中、シルヴァーがおもむろに口を開いた。はっとして顔を上げると、白パンに厚切りのベーコンを挟んだものを食べている。僕は口の中の堅いパンの塊を慌てて飲み下し、

「はい、少なかったです。このペースだと二・三日持つか持たないか、くらいですかね。僕とシロの分も含めて」
「そうか。もともと一人分のつもりで配給されているにしては、多く残っているほうかな。自生する果物を収穫するようにしたからだろう」
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