秘密

阿波野治

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「由佳の言っていること、全面的に正しいと思うよ。でも、それでもやっぱり、住友さんのためになにかをしてあげたいんだ。おこがましいし、差し出がましいし、図々しいかもしれないけど、力になってあげたい。なにかいい方法はないかな?」
「そんなこと言われてもねぇ。あたし、遥斗をサポートするために派遣された猫型ロボットじゃないんだけど」

 呆れたようなため息を聞こえよがしに吐く。そうかと思うと、一転、にやにや笑いを含んだ声で、

「そんなに必死になるってことは、なに? その住友みのりって子のこと、遥斗はやっぱり好きなんだ?」
「そう思うのなら、そう思ってくれてもいいよ。僕はとにかく知恵が欲しいんだ。だから、頼むよ」

 お調子者にありがちなことだけど、真面目な言葉を返されるのに案外弱かったりする。由佳は少しのあいだ黙りこんで、小さく息を吐いた。

「そこまで言うなら、由佳さまがありがたくアイデアを伝授してあげる。住友みのりが羽生田さんに対して怒鳴り声を上げたとき、遥斗は教室にいたんだよね。その事実、住友みのりは把握しているの?」
「してるんじゃないかな。振り返って僕を見たわけじゃないけど、後ろの席にいるのはわかっていたと思うよ。僕が昼休み時間以外はたいてい、自分の席でスマホをいじっているっていう基本情報は、頭の中に入っているだろうし」
「そっか。じゃあ、あくまでも気軽な感じで住友みのりに声をかけてみようか」
「えっ?」
「なにか悩みがあるけど相談しづらいなら、僕に気軽に相談してくれていいから、みたいな言葉を住友みのりにかけろってこと。で、『なんでそんなこと言うの?』って問われたら、今日の休み時間にあんな出来事があって、普段は大人しい住友さんが声を荒らげたからびっくりして――まあ、細かい言い回しは遥斗に任せるけど、とにかくそう説明して。それから先は、展開に合わせて対処していけばいいんじゃないかな」
「……それ、どうなのかな」
「なにが不満なの?」
「気軽にって言っても、すごく勇気がいる行動だよね。僕と住友さんの関係を考えても、僕の性格を考えても」
「差し出がましいと思われてもいいって言ったの、遥斗でしょ。今さらなに言ってんだか」

 心底呆れたようなため息。今日は早くも二回目だ。

「住友みのりを放っておけないんでしょ? 助けたいんでしょ? だったら勇気くらい振り絞りなさいよ」
「由佳の意見はもっともだよ。でも、もう少しどうにかならないかな。もう少し、僕が楽に踏み出せる方法っていうか、住友さんが僕に対して抱くマイナスの感情を減らす方法っていうか。そういうものがあれば教えてほしいんだけど」
「それがこの方法だから。考えてみてよ。『家のことでなにか悩みがあるんでしょ? 隠していても僕はお見通しだよ。今すぐに僕に打ち明けなよ』って、ストレートに、暑苦しく声をかけるよりも、そっちのやりかたのほうがハードルはぐっと下がらない? あたしはたしかに遥斗よりも頭が回るけど、アインシュタインと比べると格段に劣るんだし、これ以上の冴えた方法をひねり出すのは無理だから。勇気を振り絞るなんて一瞬の問題なんだから、ぐちぐちと文句を言わずに挑戦してみるべき。そうでしょう?」
「……おっしゃるとおりです」
「もう。言葉を尽くさないと理解できないんだから」

 三度目のため息。だけど、今回は軽さが感じられる。

「とにかく、住友みのりの件であたしにできることは、現状はそれでおしまい。あたしの意見を参考に行動するのでも、勇気が湧かないからやめにするのでも、どうぞ遥斗の好きにして」

 食い下がりたい気持ちはあったけど、しっくりくる言葉が浮かばなくて、その話題はそれで終わった。
 そのあとは互いに昼食をとりながら、昨日観た動画や共通の趣味についてなど、どうでもいいことばかりを話した。
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