秘密

阿波野治

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 由佳から電話がかかってきたのは、午後十時過ぎ、入浴を終えて自室に戻った直後のこと。
 僕のことはなんでも知っている、と豪語する由佳のことだから、風呂上がりを狙い澄ましてかけてきたことに疑いの余地はない。部屋に戻ったらスマホがバイブしていたのではなくて、戻った一秒後に震えはじめたのだから、苦笑いを通り越して薄気味悪くなる。
 だけど、その感情は長続きしなかった。

「遥斗、今日のお昼、かわいい子といっしょにごはん食べてたよね」
 からかうような口振りでの由佳の第一声に、僕は絶句してしまった。

「聞いてる? 今日お昼に、校庭の隅っこで遥斗と女の子が――」
「聞こえてる、聞こえてる。……なんでそれを知っているんだよ」
「たまたま通ったから。声をかけようと思ったんだけど、和気あいあいとやっているみたいだから、そっとしておいたほうがいいかなって。珍しく空気読んであげたんだから、感謝しなさいよ」
「ていうか、なんでそんな時間に外を出歩いているんだよ」
「昼休み時間なんだから、ごはん食べに行ってたに決まってるでしょ。学食にも飽きたから、一人でチェーンの牛丼屋さんまで。美味しかったよー」
「学生服を着て、一人で? よく入れるね」
「まあね。あのいっしょにお弁当を食べていた子が、最近遥斗が熱を上げている住友みのりちゃん?」
「そうだけど」
「結構かわいかったね。クラスでナンバーワンではないかもしれないけど、上位には確実にランクインする感じ? ま、あたしには遠く及ばないけどね」

 由佳はけたけたと笑う。たしかに由佳も美人の部類に入るけど、住友さんとはタイプが違う。

「今朝歩きながら話をして、お昼にはいっしょにごはん、か。奥手な遥斗にしては展開が早いよね。なにがあったのか教えてよ」
「うん、実は――」

 例によって包み隠さずに、住友さんとのあいだにあったことを打ち明ける。特に、嘘の笑顔についてどう思ったのかは詳細に話した。
 気恥ずかしさはあったけど、由佳に僕の気持ちを理解してもらう方法はそれしかない。逆に言えば、そこまで言っても構わないと思えるくらい、僕は由佳を信頼している。

「惚れてるね、住友みのりに」
 由佳は確信がこもった口調で断言した。

「は? なんでそうなるんだよ」
「だって、住友みのりがくり返し、悩みはないですよ、悩みはないですよって言っているのに、まだ食い下がるんだよ? その相手がまあまあかわいい女の子となると、それしか考えられないでしょ」
「ち、ち、違うよ。違うって」
「どもった時点で答えは出たようなものね」
「僕はただ、住友さんの律義さと誠実さに報いたいだけだ。ろくに話したこともない男子と、わざわざ昼食をともにしてまで謝ろうとしたんだよ? だから僕も、それに見合うようななにかを住友さんにするべきだ。そう思ったんだよ」
「そう思っちゃうことこそが、住友みのりに惚れているなによりの証拠なんだってば」

 やれやれ、とばかりにため息をつく。通話中なのだから片手は塞がっているはずだけど、演技がかった仕草で両手を腰にあてがって息を吐いたような、そんな気がした。

「まあ、遥斗がそう言うならそういうことでいいよ。じゃあ訊くけどね、報いるっていうのは、具体的にどういう行為を想定しているの? 悩みを訊き出して、解決のために力を貸したいということ?」
「うん。理想はそうかな、と」
「でも、現状だとそれは夢物語だよね」
「そうだね。二度と訊かないって言っちゃったし」
「言っちゃった以上は、住友みのりが自発的に悩みを吐くまで待つしかないんじゃない? それ以外ないと思うけどね」
「自発的、か。そんな方法があるのかな」
「あるにはあるよ。ターゲットと親密になって、信頼関係を築いて、『遥斗になら打ち明けてもいいかな』って思わせれば、向こうから言うかもしれない」
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