18 / 59
18
しおりを挟む
昼食を終えると家を出た。一時半が近かった。
洗い物をしながら行き先を尋ねてきた母親には、「ちょっと買い物に行ってくる」と答えた。
実際には、買わなければいけないものなんてない。帰りにコンビニに寄るか自販機を利用するかして、飲み物を買うことならあるかもしれないけど。
僕はあてもなく街をうろつくつもりだった。
理由は至極単純、暇だから特にやることがなくて、晴天に恵まれているからだ。
そうはいっても、仕方なく、という意識はそんなに強くない。町を散歩するという暇つぶし手段は、スマホでゲームする、由佳と話をする、惰眠を貪る――それらに次ぐ四番手の地位を僕の中で確保している。
小中学校を通じて友だちがいない僕は、休み時間は教室で一人、自分の席に座って過ごすことが多い。それが最も楽な過ごしかただからだ。
それでも、居づらかったり、息苦しさを感じたりすることもたまにある。それから逃れるために教室を出て、校舎内や校庭をうろつく経験を重ねるうちに、一人で景色を眺めながら歩くのが好きだと気がついた。そして、晴れて暇つぶし手段の一つに昇格した。
母親に嘘をついた事実が端的に示すように、胸を張って実行を宣言するのは恥ずかしい、という認識は持っている。ただ、インドア人間の宿命である運動不足の解消に繋がるし、お金もかからない。趣味以下の暇つぶしとしてならそう悪くはないのでは、と僕自身は評価している。
二十分くらいのんびりと歩いて、駅前大通りまで来た。
土曜日の大通りといっても、人口二十万人の都市だから、人出も活気もたかが知れている。だけど、その適度な人出、適度な活気というのが、歩くのにはぴったりだったりする。
休日の大通りを何度も一人で歩いて、学習したことがある。それは、僕に関心を払う人なんて誰もいない、ということだ。
なにせ、一週間にたったの二日、人によっては一日しかない休みだ。デート、ショッピング、映画、食事。みんなみんな、自分の目的に心を奪われている。さらにいえば、僕は顔が平凡ならファッションも平凡。ただ道を歩いているだけの、無味無臭な通行人Aでしかない。
ある意味では切ない現実なのかもしれないけど、人目を気にする性格の僕にとっては、気が楽になる発見だった。
周りはみんな、僕になんて注目していない。過度に人の顔色を気にせずに、自然体で人と接しよう。恥ずべき失敗をしたとしても、みんなはもともと僕に無関心なんだから、すぐに忘れるさ。
そう思うことならできた。だけど、積極的に実践するだけの勇気が足りなかった。大きな失敗を犯さないように、慎重に、慎重に振る舞って、クラス委員長を決める投票で三票もらうレベルの優等生に落ち着いた。
由佳との関係が現在のように深まってからは、臆病さも和らいできた手ごたえはあるけど、変化はその程度。根本的なところはなにも変わっていない。由佳を除けば友だちはゼロ人という事実が、現状を正確に表している。
こうやって自分の性格を客観視してみると、あの日の放課後、住友さんに声をかけられたのは奇跡以外のなにものでもないな、と思う。
偶然出会うことに賭けて街に出かける――。
昨晩、由佳が冗談混じりに口にしていた言葉を、不意に思い出した。
出かけると決めた当時は、その発言はまったく意識しなかった。しかし振り返ってみると、それも決め手の一つだった気がする。
読心術を使える人間なんてこの世界には存在しないのだから、心の中でくらいは潔く認めよう。
僕は住友みのりさんに恋愛感情を抱いている。
人並み以上に人目を気にする、臆病で消極的な性格にもかかわらず、「悩みがあるなら気軽に相談して」と声をかけるくらいに。
そして、可能性は絶望的だと知りながら、一縷の望みにすがって外に出かけるくらいに。
進路の信号が赤に変わって、僕は足を止める。いつかは青色へと変化する信号機を見つめながら、考える。
どこへ行けば住友さんに会えるんだ?
洗い物をしながら行き先を尋ねてきた母親には、「ちょっと買い物に行ってくる」と答えた。
実際には、買わなければいけないものなんてない。帰りにコンビニに寄るか自販機を利用するかして、飲み物を買うことならあるかもしれないけど。
僕はあてもなく街をうろつくつもりだった。
理由は至極単純、暇だから特にやることがなくて、晴天に恵まれているからだ。
そうはいっても、仕方なく、という意識はそんなに強くない。町を散歩するという暇つぶし手段は、スマホでゲームする、由佳と話をする、惰眠を貪る――それらに次ぐ四番手の地位を僕の中で確保している。
小中学校を通じて友だちがいない僕は、休み時間は教室で一人、自分の席に座って過ごすことが多い。それが最も楽な過ごしかただからだ。
それでも、居づらかったり、息苦しさを感じたりすることもたまにある。それから逃れるために教室を出て、校舎内や校庭をうろつく経験を重ねるうちに、一人で景色を眺めながら歩くのが好きだと気がついた。そして、晴れて暇つぶし手段の一つに昇格した。
母親に嘘をついた事実が端的に示すように、胸を張って実行を宣言するのは恥ずかしい、という認識は持っている。ただ、インドア人間の宿命である運動不足の解消に繋がるし、お金もかからない。趣味以下の暇つぶしとしてならそう悪くはないのでは、と僕自身は評価している。
二十分くらいのんびりと歩いて、駅前大通りまで来た。
土曜日の大通りといっても、人口二十万人の都市だから、人出も活気もたかが知れている。だけど、その適度な人出、適度な活気というのが、歩くのにはぴったりだったりする。
休日の大通りを何度も一人で歩いて、学習したことがある。それは、僕に関心を払う人なんて誰もいない、ということだ。
なにせ、一週間にたったの二日、人によっては一日しかない休みだ。デート、ショッピング、映画、食事。みんなみんな、自分の目的に心を奪われている。さらにいえば、僕は顔が平凡ならファッションも平凡。ただ道を歩いているだけの、無味無臭な通行人Aでしかない。
ある意味では切ない現実なのかもしれないけど、人目を気にする性格の僕にとっては、気が楽になる発見だった。
周りはみんな、僕になんて注目していない。過度に人の顔色を気にせずに、自然体で人と接しよう。恥ずべき失敗をしたとしても、みんなはもともと僕に無関心なんだから、すぐに忘れるさ。
そう思うことならできた。だけど、積極的に実践するだけの勇気が足りなかった。大きな失敗を犯さないように、慎重に、慎重に振る舞って、クラス委員長を決める投票で三票もらうレベルの優等生に落ち着いた。
由佳との関係が現在のように深まってからは、臆病さも和らいできた手ごたえはあるけど、変化はその程度。根本的なところはなにも変わっていない。由佳を除けば友だちはゼロ人という事実が、現状を正確に表している。
こうやって自分の性格を客観視してみると、あの日の放課後、住友さんに声をかけられたのは奇跡以外のなにものでもないな、と思う。
偶然出会うことに賭けて街に出かける――。
昨晩、由佳が冗談混じりに口にしていた言葉を、不意に思い出した。
出かけると決めた当時は、その発言はまったく意識しなかった。しかし振り返ってみると、それも決め手の一つだった気がする。
読心術を使える人間なんてこの世界には存在しないのだから、心の中でくらいは潔く認めよう。
僕は住友みのりさんに恋愛感情を抱いている。
人並み以上に人目を気にする、臆病で消極的な性格にもかかわらず、「悩みがあるなら気軽に相談して」と声をかけるくらいに。
そして、可能性は絶望的だと知りながら、一縷の望みにすがって外に出かけるくらいに。
進路の信号が赤に変わって、僕は足を止める。いつかは青色へと変化する信号機を見つめながら、考える。
どこへ行けば住友さんに会えるんだ?
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
パンティージャムジャムおじさん
KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。
口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。
子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。
そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい
藤永ゆいか
児童書・童話
過去のある出来事から、空手や合気道を習うようになった私。
そして、いつしか最強女子と言われるようになり、
男子が寄りつかなくなってしまった。
中学では恋がしたいと思い、自分を偽って
学校生活を送ることにしたのだけど。
ある日、ひったくり犯を撃退するところを
クラスメイトの男子に見られてしまい……。
「お願い。このことは黙ってて」
「だったら、羽生さん。
俺のボディーガード兼カノジョになってよ」
「はい!?」
私に無茶な要求をしてきた、冴えないクラスメイトの
正体はなんと、大財閥のイケメン御曹司だった!?
* * *
「ボディーガードなんて無理です!」
普通の学校生活を送りたい女子中学生
羽生 菜乃花
×
「君に拒否権なんてないと思うけど?」
訳あって自身を偽る隠れ御曹司
三池 彗
* * *
彗くんのボディーガード兼カノジョになった
私は、学校ではいつも彼と一緒。
彗くんは、私が彼のボディーガードだからそばにいるだけ。
そう思っていたのに。
「可愛いな」
「菜乃花は、俺だけを見てて」
彗くんは、時に甘くて。
「それ以上余計なこと言ったら、口塞ぐよ?」
私にだけ、少し意地悪で。
「俺の彼女を傷つける人は、
たとえ誰であろうと許さないから」
私を守ってくれようとする。
そんな彗くんと過ごすうちに私は、
彼とずっと一緒にいたいと思うようになっていた──。
「私、何があっても彗くんのことは絶対に守るから」
最強女子と隠れ御曹司の、秘密の初恋ストーリー。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
宇宙人は恋をする!
山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。
全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの?
中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉
(表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる