秘密

阿波野治

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 駅から徒歩五分の場所にある、川沿いに整備された公園に足を運んだことに、住友さんはまったく関係がない。喉が渇いたから、川を眺めながらジュースを飲もうと思ったのだ。
 僕は一人で飲食店に入る勇気はない。必然に、店で買うか、自販機で買うかの二択。コンビニよりも公園にある自販機のほうが近かったので、後者を選んだ。ただそれだけのことだ。

 ペットボトル入りのスポーツドリンクを選んで、屋根つきのベンチに腰を下ろす。
 一口飲んだ瞬間、体が水分を欲していたのを知った。喉を鳴らしながら半分ほど一気に飲んで、ぷはー、と息を吐く。
 ただ歩いただけとはいえ、運動は運動だから、食べ物や飲み物が美味しく感じられる。これも散歩のメリットだろう。
 太陽光を受け止めた川面が健康的に輝いている。公園内に人はまばらだ。夕方に通ると、犬の散歩をしている人とよく擦れ違うけど、少し早い時間の今は一組も見かけない。時間の流れがとても穏やかだ。

 のどかなひとときを過ごすうちに、寂寥感がうっすらと胸を漂いはじめた。
 一人には慣れている。慣れているはずなのに、なにかさびしい。
 公園のベンチで穏やかな時間を過ごすだけでも、僕は充分に満足している。一方で、誰かといっしょに過ごせたらもっと充実感を味わえるのに、という思いもある。

 由佳は朝に少し話をしたさいに、今日は夕方までずっと予定が入っている、と言っていた。だから、こちらから電話はかけない。
 内向的な僕ですら、打ち解けて話ができるくらい気さくな由佳は、友だちが多い。対等な口こそきいているけど、住友さんの件のように、僕が助けを求めて由佳が救いの手を差し伸べる、という形での会話が多いので、僕は由佳に頭が上がらない。本来であれば上下関係が生じているところを、由佳の性格のおかげで親友のような関係が保たれている、というのが実情だろう。

 僕自身は、今の由佳との関係に満足している。
 でも、もっと身近な場所に気の置けない人がいたら、毎日がもっともっと楽しいだろうな、とも思う。
 そんな分不相応なわがままを抱いてしまうのは、おそらく、いや確実に――。

「ねえ」
 背後から急に声をかけられたので、飛び上がりそうになるくらい驚いた。振り向いた僕は、再び驚きに襲われて、ベンチから転げ落ちそうになった。しがみつこうと手を伸ばした先には、飲みかけのペットボトルがあった。指で強く押してしまい、ボトルが大きく傾く。

「危ないっ」
 僕に声をかけてきた人物の手が、反射神経よく落下を阻止した。一滴もこぼれていない。

「ありがとう。……住友さん」
 住友みのりさんは小さく息を吐いた。

「びっくりした。まさか、こんなところで住友さんに会うなんて」
「駅前で買い物をしていたの。服なんだけど」

 ペットボトルをベンチに置いて、右手に提げていた袋を胸の高さまで持ち上げてみせる。
 今日の住友さんは、白を基調とした、主張は強くないけどしっかりと女の子らしい服装に身を包んでいる。下はパンツで、制服のスカートを見慣れている目には新鮮だ。
 僕は語彙がそれほど豊富ではない。ファッションにはうといし、女の子のそれとなるとなおさらだ。だから、この一言しか浮かばない。

 か、かわいい……。
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