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話題は互いの趣味や嗜好についてに変わった。僕たちは広く浅く、思いつくままに相手に尋ねて、率直に答えた。
辛い料理が苦手だけど、友だちはみんな好きなので、多数決に負けて付き合わされたことが何回かあること。
子どものころに捨て猫を拾ってきたものの、弱っていたせいで一週間も持たずに死んでしまって、今後絶対に動物は飼わないと心に誓ったが、今でも猫は好きだということ。
泳げないけど、プールや海は好きなので、夏になるたびに友だちとよく遊びに行くこと。
住友さんは様々なことを話してくれた。
一つ一つとってみればささいなことかもしれない。だけど、彼女のパーソナルな部分についほとんど知らなかった僕にとっては、一言一言がとても新鮮で、意義深い時間となった。
僕自身についてもわかったことがある。それは、僕の人生には起伏が少ないということだ。
無趣味で、友だちがいなくて、消極的な性格だから、どうしても行動範囲が狭くなる。住友さんが語ってくれたような、ささいかもしれないけど人に話したくなるような、思い出深い経験はほとんどしたことがない。
こんな体験を香坂はしたことある?
私はこれが好きなんだけど、香坂はなにが好き?
そう問われるたびに、僕は「別に」とか「特に」とかいった言葉を、住友さんをしらけさせないように気を配りながら口にした。
僕はなんてつまらない人間なのだろう。そんな思いが次第に膨らんでいく。
友だちがほしい。
由佳以外の、「会いたい」の言葉一つですぐに会いに来てくれる、そんな友だちが。
住友さんが声をかけてくれるまで胸を占めていた思いが、いつの間にか復活していた。
「はい、到着」
僕たちは足を止める。欄干が朱色の小さな橋が目の前にはある。
「あっという間だったね。わりと弾んだんじゃない? 話」
住友さんの表情は柔和で、僕と過ごしたひとときに一定以上の満足感を覚えてくれたのだとわかる。その表情がさらに柔らかさを増したのは、僕が安堵感から無意識に表情を和らげたのを、彼女が見逃さなかったからだろうか。
短かったけど、住友さんといっしょに過ごせてよかった。心からそう思った。
「じゃあ、また月曜日に」
「さようなら」
去ろうとして、僕の足は止まる。住友さんがその場から動こうとしていないのだ。
「どうかしたの?」と声をかけようとして、寸前で口をつぐんだ。住友さんが僕に目を合わせてきたからだ。
その表情は、迷っていた。口にする言葉自体が見つからないのでも、正確な表現を用意できないのでもなくて、用意してある言葉を発するか否かに迷っている。そんなふうに見える。
橋の上を自動車が走り抜けて遠ざかる。音が連れ去られてしまったとでもいうように、一帯は静寂に包まれた。
住友さんは僕に視線を定めたまま、無意識のように髪の毛に指で触れた。それがしゃべり出す合図になった。
「実は、私もわりと本は読むの。たぶん、香坂ほど熱心じゃないと思うけど。だから、もしよかったら」
一拍を置いて、続ける。
「明日、二人で図書館に行かない? 市立図書館。歩くのは遠すぎるから、バスに乗って」
辛い料理が苦手だけど、友だちはみんな好きなので、多数決に負けて付き合わされたことが何回かあること。
子どものころに捨て猫を拾ってきたものの、弱っていたせいで一週間も持たずに死んでしまって、今後絶対に動物は飼わないと心に誓ったが、今でも猫は好きだということ。
泳げないけど、プールや海は好きなので、夏になるたびに友だちとよく遊びに行くこと。
住友さんは様々なことを話してくれた。
一つ一つとってみればささいなことかもしれない。だけど、彼女のパーソナルな部分についほとんど知らなかった僕にとっては、一言一言がとても新鮮で、意義深い時間となった。
僕自身についてもわかったことがある。それは、僕の人生には起伏が少ないということだ。
無趣味で、友だちがいなくて、消極的な性格だから、どうしても行動範囲が狭くなる。住友さんが語ってくれたような、ささいかもしれないけど人に話したくなるような、思い出深い経験はほとんどしたことがない。
こんな体験を香坂はしたことある?
私はこれが好きなんだけど、香坂はなにが好き?
そう問われるたびに、僕は「別に」とか「特に」とかいった言葉を、住友さんをしらけさせないように気を配りながら口にした。
僕はなんてつまらない人間なのだろう。そんな思いが次第に膨らんでいく。
友だちがほしい。
由佳以外の、「会いたい」の言葉一つですぐに会いに来てくれる、そんな友だちが。
住友さんが声をかけてくれるまで胸を占めていた思いが、いつの間にか復活していた。
「はい、到着」
僕たちは足を止める。欄干が朱色の小さな橋が目の前にはある。
「あっという間だったね。わりと弾んだんじゃない? 話」
住友さんの表情は柔和で、僕と過ごしたひとときに一定以上の満足感を覚えてくれたのだとわかる。その表情がさらに柔らかさを増したのは、僕が安堵感から無意識に表情を和らげたのを、彼女が見逃さなかったからだろうか。
短かったけど、住友さんといっしょに過ごせてよかった。心からそう思った。
「じゃあ、また月曜日に」
「さようなら」
去ろうとして、僕の足は止まる。住友さんがその場から動こうとしていないのだ。
「どうかしたの?」と声をかけようとして、寸前で口をつぐんだ。住友さんが僕に目を合わせてきたからだ。
その表情は、迷っていた。口にする言葉自体が見つからないのでも、正確な表現を用意できないのでもなくて、用意してある言葉を発するか否かに迷っている。そんなふうに見える。
橋の上を自動車が走り抜けて遠ざかる。音が連れ去られてしまったとでもいうように、一帯は静寂に包まれた。
住友さんは僕に視線を定めたまま、無意識のように髪の毛に指で触れた。それがしゃべり出す合図になった。
「実は、私もわりと本は読むの。たぶん、香坂ほど熱心じゃないと思うけど。だから、もしよかったら」
一拍を置いて、続ける。
「明日、二人で図書館に行かない? 市立図書館。歩くのは遠すぎるから、バスに乗って」
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