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何年振りかに見た市立図書館の瀟洒な外観は、さすがに懐かしかった。
中に足を踏み入れてまず覚えたのは、「変わっていないな」という、胸の底がほのかに温かくなるような感覚。それに続いて、館内では静かにしなければならない決まりがある以上、住友さんと会話する機会は限られるのでは、という懸念が芽生えた。
幸い、解決策はすぐに思いついた。読む本をいっしょに選べばいい。さっそく提案しようとすると、
「じゃあ、各自好きな本を選んで、このテーブルで読むということで」
小声でそう告げて、さっさと通路を先へと進んでいく。どのジャンルの本がどちら方面の書棚にあるかを把握しているらしく、足どりに迷いがない。
もしかして、図書館で本が読みたかっただけなのでは? いっしょに図書館まで来てくれるパートナーが欲しかっただけで、パートナーとなる人間は誰でもよかったのでは?
僕は頭を振って移動を開始した。住友さんの趣味である読書に対する愛情を深めるのは、いろいろな意味で今後に繋がるはずだ。そう自分に言い聞かせた。
気分と直感の赴くままに通路を進んで、目を惹くタイトルを見かければ、棚から抜きとってその場で表紙を開く。いざページをめくってみると、想像以上に難解だったり、タイトルから推察される内容とは全然違っていたり、というケースが頻発した。興味を惹かれる内容のものも中にはあったけど、じっくり読んでみたいと思うほどではない。
マンガ以外の本も読むとはいえ、しょせんは年に数冊。関心の幅は狭いし、読解力だって高いとはいえない。これという一冊に巡り会うには時間がかかりそうだ。
ただ、気軽につまみ食いをする愉快さや、当たり外れが不明な宝箱を開ける楽しみといったものは、選ぶ中で感じた。人口密度が低くて、なおかつ静かな環境というのも、好みに合っている。
似たよう景色の中を長々と歩き回っていると、時間の進み具合がわからなくなってくる。思ったよりも時間が経っていないならなんの問題もないけど、経っていた場合は住友さんに迷惑がかかる。一冊も選べていなかったけど、いったん戻ることにした。
集合場所に指定された丸テーブルには、住友さんがすでに着席していた。なにか読んでいる。テーブルに歩み寄ると、気配を感じたらしく顔が持ち上がった。
「香坂。手ぶらみたいだけど」
「うん。どれにしようか迷っちゃって、決められなくて」
「昨日もそうだったよね。本を買おうと思ったけど買わなかったって」
「そういえば、そうだね。あまり意識したことはなかったけど、優柔不断なのかもしれない」
住友さんの真向かいの椅子を引いて座る。静かな場所で、周りに人がいない状況で彼女と向かい合うのは初めてなので、すさまじく緊張する。
彼女が読んでいる本はかなり分厚い。表紙を確認すると、「心理学」という単語がタイトルに含まれた書籍だった。
「分厚いね、それ。なんページくらいあるの?」
「五百――じゃないや。六百ちょっとだね」
「すごいね。専門書みたいな」
「専門書っていうか、心理学にまつわる用語とか実験とかについて網羅的に解説していて、だからページ数が多くなってる感じ。文章自体はそう難しくないよ。中学生でも普通に読める」
本をこちら側に倒してくれたので、腰を浮かせてページを覗きこむ。細かい文字がびっしりと刻まれていて、活字に積極的に触れる習慣がない人間からすれば「うわあ……」という感じだ。
中に足を踏み入れてまず覚えたのは、「変わっていないな」という、胸の底がほのかに温かくなるような感覚。それに続いて、館内では静かにしなければならない決まりがある以上、住友さんと会話する機会は限られるのでは、という懸念が芽生えた。
幸い、解決策はすぐに思いついた。読む本をいっしょに選べばいい。さっそく提案しようとすると、
「じゃあ、各自好きな本を選んで、このテーブルで読むということで」
小声でそう告げて、さっさと通路を先へと進んでいく。どのジャンルの本がどちら方面の書棚にあるかを把握しているらしく、足どりに迷いがない。
もしかして、図書館で本が読みたかっただけなのでは? いっしょに図書館まで来てくれるパートナーが欲しかっただけで、パートナーとなる人間は誰でもよかったのでは?
僕は頭を振って移動を開始した。住友さんの趣味である読書に対する愛情を深めるのは、いろいろな意味で今後に繋がるはずだ。そう自分に言い聞かせた。
気分と直感の赴くままに通路を進んで、目を惹くタイトルを見かければ、棚から抜きとってその場で表紙を開く。いざページをめくってみると、想像以上に難解だったり、タイトルから推察される内容とは全然違っていたり、というケースが頻発した。興味を惹かれる内容のものも中にはあったけど、じっくり読んでみたいと思うほどではない。
マンガ以外の本も読むとはいえ、しょせんは年に数冊。関心の幅は狭いし、読解力だって高いとはいえない。これという一冊に巡り会うには時間がかかりそうだ。
ただ、気軽につまみ食いをする愉快さや、当たり外れが不明な宝箱を開ける楽しみといったものは、選ぶ中で感じた。人口密度が低くて、なおかつ静かな環境というのも、好みに合っている。
似たよう景色の中を長々と歩き回っていると、時間の進み具合がわからなくなってくる。思ったよりも時間が経っていないならなんの問題もないけど、経っていた場合は住友さんに迷惑がかかる。一冊も選べていなかったけど、いったん戻ることにした。
集合場所に指定された丸テーブルには、住友さんがすでに着席していた。なにか読んでいる。テーブルに歩み寄ると、気配を感じたらしく顔が持ち上がった。
「香坂。手ぶらみたいだけど」
「うん。どれにしようか迷っちゃって、決められなくて」
「昨日もそうだったよね。本を買おうと思ったけど買わなかったって」
「そういえば、そうだね。あまり意識したことはなかったけど、優柔不断なのかもしれない」
住友さんの真向かいの椅子を引いて座る。静かな場所で、周りに人がいない状況で彼女と向かい合うのは初めてなので、すさまじく緊張する。
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「分厚いね、それ。なんページくらいあるの?」
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「すごいね。専門書みたいな」
「専門書っていうか、心理学にまつわる用語とか実験とかについて網羅的に解説していて、だからページ数が多くなってる感じ。文章自体はそう難しくないよ。中学生でも普通に読める」
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https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
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