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住友さんと約束を交わしたことで、孤独だった僕の日常は色づきはじめた。
最初の変化は、朝、教室を入ったときのこと。
日曜日に約束を交わした身としては、住友さんのことが当然気になる。だから教室に足を踏み入れると、すぐに彼女の姿を探した。住友さんは、いつものように自分の席で友だちと話をしていた。視線を感じたらしく顔を上げたので、目が合った。
周りから見ればそうとはわからないように、僕はほんの浅く頭を下げた。すると住友さんは、かすかに、だけどはっきりと口元に笑みを灯して、話の輪に戻った。
何食わぬ顔を作って自席へと歩を進める僕は、なにかの拍子に異性と手と手が触れ合ったときみたいに、鼓動を速めていた。
女の子と秘密のやりとりを交わす。それがこんなにも胸がときめくものだとは、想像もしていなかった。
生活に支障を来すわけではないけど、細く長く胸に残って、ささやかだけど好ましい影響を与えてくれる。そんな感動だった。
*
次に住友さんとコンタクトを交わしたのは、二時間目と三時間目のあいだの休み時間、美術室へ向かっていたときのこと。
「香坂」
いきなり誰かに話しかけられたと思ったら、住友さんだった。友だちと話をするときによく見せる、柔和な表情が顔に浮かんでいる。
僕は思わず周囲を見回した。誰も僕たちには注目していないとはいえ、前にも後ろにも生徒たちが歩いている。仲睦まじそうにしているところを誰かに見られたら、関係性を邪推されるかもしれない。内心すごく焦ったのだけど、
「昨日は楽しかったね。今日のお昼だけど、またいっしょに食べない?」
住友さんの態度はとても落ち着いている。そのおかげで、僕もすぐに平常心を取り戻すことができた。
「住友さんが構わないなら、断る理由はないよ」
「付き合い悪いってみんなから言われそうだから、毎日じゃなくて、一日おきに香坂と食べようかなって思ってるんだけど、どうかな?」
「そうだね。それくらいがちょうどいいかも」
「一人が好きだもんね、香坂は」
淡く笑った住友さんの顔からは、僕を見下す色は読みとれない。
「場所だけど、どうする?」
「前回と同じでいいんじゃない。他にいい場所知らないし」
「わかった。じゃあ、そういう約束で」
住友さんは足を速めて、四・五メートル前を歩いていた友だち四人と合流した。何事もなかったように会話に加わった後ろ姿を見て、強くはないかもしれないけど弱い人ではない、と思った。
*
校庭の隅のベンチへは、いっしょに向かうのではなくて、まず僕が先に行って、住友さんは友だちと少し話をしてから遅れてやってくる、という形をとった。
今日クラスメイトが見せた滑稽な言動や、最近視聴したYouTubeの動画のことなど、他愛もない話をしながら食事をとる。打ち解けたぶん、金曜日よりも会話は弾んだし、笑みがこぼれる場面も多かった。
意外だったのは、住友さんが自身の悩みについて言及しなかったことだ。その話題に触れてほしそうな素振りを見せることもない。問題解決は僕に委ねたから、その話は僕がしたいときにしてくれればいい、ということだろうか? 「いろいろアドバイスをしてほしい」という発言と矛盾するようだけど、その解釈で正しいらしい。
信頼されているのだと思うと、率直にうれしかった。一方で、プレッシャーでもある。
したくもない友だち付き合いを続けるのは苦痛だ。でも、孤立したくない。このジレンマ、どうすれば解決できるのだろう?
昨日、図書館から帰ったあとで考えてみたけど、解決の糸口を掴むことすらできなかった。わかったのは、そう簡単に正解を導き出せる問題ではない、ということだけだった。
幸い、僕の席は住友さんの席の真後ろにある。ただ座っているだけで、彼女に関する情報がある程度収集できる。一日おきに昼食をいっしょに食べる約束を交わしたし、無料通信アプリのIDだってすでに交換している。今後はコミュニケーションをとる機会も増えるはずだ。
住友みのりさんにまつわる情報を地道にインプットしていきながら、解決策を模索していくしかない。
昼食を終えて教室に戻った時点での僕の方針だ。
最初の変化は、朝、教室を入ったときのこと。
日曜日に約束を交わした身としては、住友さんのことが当然気になる。だから教室に足を踏み入れると、すぐに彼女の姿を探した。住友さんは、いつものように自分の席で友だちと話をしていた。視線を感じたらしく顔を上げたので、目が合った。
周りから見ればそうとはわからないように、僕はほんの浅く頭を下げた。すると住友さんは、かすかに、だけどはっきりと口元に笑みを灯して、話の輪に戻った。
何食わぬ顔を作って自席へと歩を進める僕は、なにかの拍子に異性と手と手が触れ合ったときみたいに、鼓動を速めていた。
女の子と秘密のやりとりを交わす。それがこんなにも胸がときめくものだとは、想像もしていなかった。
生活に支障を来すわけではないけど、細く長く胸に残って、ささやかだけど好ましい影響を与えてくれる。そんな感動だった。
*
次に住友さんとコンタクトを交わしたのは、二時間目と三時間目のあいだの休み時間、美術室へ向かっていたときのこと。
「香坂」
いきなり誰かに話しかけられたと思ったら、住友さんだった。友だちと話をするときによく見せる、柔和な表情が顔に浮かんでいる。
僕は思わず周囲を見回した。誰も僕たちには注目していないとはいえ、前にも後ろにも生徒たちが歩いている。仲睦まじそうにしているところを誰かに見られたら、関係性を邪推されるかもしれない。内心すごく焦ったのだけど、
「昨日は楽しかったね。今日のお昼だけど、またいっしょに食べない?」
住友さんの態度はとても落ち着いている。そのおかげで、僕もすぐに平常心を取り戻すことができた。
「住友さんが構わないなら、断る理由はないよ」
「付き合い悪いってみんなから言われそうだから、毎日じゃなくて、一日おきに香坂と食べようかなって思ってるんだけど、どうかな?」
「そうだね。それくらいがちょうどいいかも」
「一人が好きだもんね、香坂は」
淡く笑った住友さんの顔からは、僕を見下す色は読みとれない。
「場所だけど、どうする?」
「前回と同じでいいんじゃない。他にいい場所知らないし」
「わかった。じゃあ、そういう約束で」
住友さんは足を速めて、四・五メートル前を歩いていた友だち四人と合流した。何事もなかったように会話に加わった後ろ姿を見て、強くはないかもしれないけど弱い人ではない、と思った。
*
校庭の隅のベンチへは、いっしょに向かうのではなくて、まず僕が先に行って、住友さんは友だちと少し話をしてから遅れてやってくる、という形をとった。
今日クラスメイトが見せた滑稽な言動や、最近視聴したYouTubeの動画のことなど、他愛もない話をしながら食事をとる。打ち解けたぶん、金曜日よりも会話は弾んだし、笑みがこぼれる場面も多かった。
意外だったのは、住友さんが自身の悩みについて言及しなかったことだ。その話題に触れてほしそうな素振りを見せることもない。問題解決は僕に委ねたから、その話は僕がしたいときにしてくれればいい、ということだろうか? 「いろいろアドバイスをしてほしい」という発言と矛盾するようだけど、その解釈で正しいらしい。
信頼されているのだと思うと、率直にうれしかった。一方で、プレッシャーでもある。
したくもない友だち付き合いを続けるのは苦痛だ。でも、孤立したくない。このジレンマ、どうすれば解決できるのだろう?
昨日、図書館から帰ったあとで考えてみたけど、解決の糸口を掴むことすらできなかった。わかったのは、そう簡単に正解を導き出せる問題ではない、ということだけだった。
幸い、僕の席は住友さんの席の真後ろにある。ただ座っているだけで、彼女に関する情報がある程度収集できる。一日おきに昼食をいっしょに食べる約束を交わしたし、無料通信アプリのIDだってすでに交換している。今後はコミュニケーションをとる機会も増えるはずだ。
住友みのりさんにまつわる情報を地道にインプットしていきながら、解決策を模索していくしかない。
昼食を終えて教室に戻った時点での僕の方針だ。
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