秘密

阿波野治

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 由佳が訴えた「付き合いが悪い」に対する償いのつもりで実施した、スマホを介しての夜のデートからの帰宅後、気がついた。
 住友さんの悩みについて由佳に話すのは厳禁だけど、由佳の存在を住友さんに明かしてはならない理由はないことに。

 今まで由佳のことを話さなかったのは、僕と由佳の出会いは少し特殊で、できれば無関係の人間には知られたくなかったからだ。住友さんが信頼できないから、というわけでは断じてなくて。
 今回は本題は別にあるから、知り合った経緯については黙っておけば、尋ねられずに済むかもしれない。

 では、もし尋ねられたら?
 そうならないことを祈りたいけど、そうなった場合はごまかすしかない。

 住友さんとはこれまで、もっぱら無料通信アプリを通じて、テキスト形式でやりとりしてきた。コール音を聞いているあいだ、緊張しすぎて鼓動がうるさかった。

「香坂。電話がかかってきたから、びっくりした」
「ごめんね、急にかけて。話をしても大丈夫かな」
「大丈夫だよ。今は暇な時間帯だから。なんの用?」

 聞こえてきた住友さんの声も、僕ほどではないけど緊張の色を帯びている。不審そうでもあったし、怯えているようでもあったし、逆に期待感らしき感情もうっすらと読みとれた。悩みの解決策が浮かんだから連絡を入れたのかもしれない、と考えているのだろう。

「うん。住友さんに、なんて言えばいいのかな、ちょっとした相談というか」
「私の悩みに関すること?」
「関係するといえば関係するんだけど――ごめん。解決方法がわかった、ということではないんだ。僕の友だちについてなんだけど」
「友だち?」
 語尾が持ち上がった。私は存在も知らない香坂の友だちが、私の悩みにどう関わってくるの? そう問いたげな一言だ。

「うん、女の子の友だち。僕と同い年で、小さいころからずっと仲がいいんだ。由佳っていう名前なんだけど」
 そこまで言ったところで、あえて間を設ける。相槌を打ってもらいたかったからなのだけど、期待していた反応は得られなかった。違和感といえばいいのか、嫌な予感といえばいいのか。かすかな引っかかりを覚えたけど、準備していたセリフを口にする。

「由佳には、住友さんのことはすでに話しているんだけど――あ、もちろん、悩みのことは秘密にしているよ。その由佳が、最近、僕のことをすごく責めるんだ。付き合いが悪い、付き合いが悪いって。
 由佳とは毎日一回は電話で話をするようにしているんだけど、別のその機会が減ったとか、一回あたりの通話時間が短くなったとかじゃない。住友さんに相談されて以来、僕はずっとそのことばかり考えていて。だからその影響で、由佳との会話がうわの空になるっていうか、なおざりになるっていうか、そういうときが頻繁にあるんだと思う。僕はその自覚はないんだけど、たぶんそうなんじゃないかな、と」

 再び間を置いてみる。住友さんの反応は前回と同じく、沈黙。違和感は、嫌な予感は、少し勢力を増した。
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