41 / 59
41
しおりを挟む
そんなやりとりがあった二・三日前から、由佳の態度に変化が現れはじめていた。
正確にはもっと前、おそらくは図書館での一件を報告した夜から、変わりはじめていたのだと思う。変化の度合いが小さすぎて、僕が気づかなかっただけで。
まず、住友さんの人格を攻撃するようになった。
そして、僕が由佳と会話する時間を充分にとらないことを非難するようになった。
前者に関していえば、住友さんの容姿は自分のそれよりも劣っている、という発言は今までもたびたびしていた。だけど、あくまでも冗談めかした口調で、過剰なまでに自分を持ち上げることで相対的に相手を低く評価する、という形だった。しかし最近では、声に黒い感情がこもっているし、相手をストレートに罵倒する。笑えなくて、ただただ不愉快で、あらゆる意味で由佳らしくない。
後者に関していえば、ゲームやマンガに費やしていた時間の一部を、住友さんと交流する時間に差し替える、という対応を僕はとっている。だから、由佳と過ごす時間は現状維持。会話時間が減ったという指摘は間違っている。
そのことを説明して、由佳をないがしろにしているわけではないと強く主張すると、その場では納得してくれた。機嫌も直ったみたいだった。
だけど日付が変わると、昨日も聞いたような汚い言葉の数々を、いら立ちを隠さない声で吐き捨てた。
説明責任を果たしたのに執拗に責められるから、僕としてもいらいらしてしまう。
このままではよくない。
危機感を覚えはじめて間もなく、量が減ったのではなくて質が低下したのかもしれない、という疑いを僕は抱いた。自分ではそのつもりはなくても、実際には由佳との会話がなおざりになっているのではないか、と。
僕は住友さんの悩みを解決するという任務を請け負っている。難問であるがゆえに、住友さんにとって重要な課題であるがゆえに、僕がその問題について考えている時間はとても長い。常に頭のどこかにその問題のことがある、といっても過言ではない。
だからといって、そのことにばかり思い悩んでいたくはない。
だから、授業中なら授業に、ゲームで遊んでいるのならゲームに、誰かと話しているときには会話に、それぞれ集中するように心がけている。
ただ、試みを完璧には成功させられていない。これまでに少なくとも二回、失敗している。授業中に、先生から。夕食のさいに、母親から。どちらも相手が話をしているときで、「ぼーっとしていないで、ちゃんと話を聞け」という意味の注意をされた。きつい口調だった。
そう、きつい口調。自分がしている話をうわの空で聞かれると、癪に障るから。
それはもちろん、由佳も例外ではないはずだ。
僕と由佳の相性は怖いくらいにいい。口論じみた言葉の応酬を冗談半分にくり広げることはあっても、本気で喧嘩をしたことは一度もない。だからこそ、今の状態は居心地が悪い。これがいつまで続くのだろうと考えると、怖くなってくる。
情状酌量の余地があるとはいえ、非は僕にあるのだから、僕のほうから行動を起こすべきだ。
由佳の怒りと不満を根っこから解消するためには、事情を包み隠さずに打ち明けるしかないように思う。
事情さえわかってもらえれば、由佳の性格だから、今までの振る舞いも理解してくれて、怒りを鞘に納めてくれるはずだ。のみならず、僕が頼みさえすれば、住友さんの悩みを解決する手助けをしてくれる可能性が高い。そうなった場合、解決にぐっと近づくのでは、という期待感がある。知恵を絞る人間が一人よりも二人のほうが効率がいい、という意味でも。由佳は問題解決能力が高い人だ、という意味でも。
ただ、「悩みを抱えていることは秘密にしてほしい」と住友さんから頼まれている。
住友さんとの約束を破って、由佳に真実を打ち明けるか。
由佳には我慢してもらって、住友さんとの約束を守り抜くか。
その葛藤に決着をつけるだけではなくて、住友さんが抱える悩みを解決に導かなければならない。
つらくて、しんどい日々が続きそうな予感がした。
正確にはもっと前、おそらくは図書館での一件を報告した夜から、変わりはじめていたのだと思う。変化の度合いが小さすぎて、僕が気づかなかっただけで。
まず、住友さんの人格を攻撃するようになった。
そして、僕が由佳と会話する時間を充分にとらないことを非難するようになった。
前者に関していえば、住友さんの容姿は自分のそれよりも劣っている、という発言は今までもたびたびしていた。だけど、あくまでも冗談めかした口調で、過剰なまでに自分を持ち上げることで相対的に相手を低く評価する、という形だった。しかし最近では、声に黒い感情がこもっているし、相手をストレートに罵倒する。笑えなくて、ただただ不愉快で、あらゆる意味で由佳らしくない。
後者に関していえば、ゲームやマンガに費やしていた時間の一部を、住友さんと交流する時間に差し替える、という対応を僕はとっている。だから、由佳と過ごす時間は現状維持。会話時間が減ったという指摘は間違っている。
そのことを説明して、由佳をないがしろにしているわけではないと強く主張すると、その場では納得してくれた。機嫌も直ったみたいだった。
だけど日付が変わると、昨日も聞いたような汚い言葉の数々を、いら立ちを隠さない声で吐き捨てた。
説明責任を果たしたのに執拗に責められるから、僕としてもいらいらしてしまう。
このままではよくない。
危機感を覚えはじめて間もなく、量が減ったのではなくて質が低下したのかもしれない、という疑いを僕は抱いた。自分ではそのつもりはなくても、実際には由佳との会話がなおざりになっているのではないか、と。
僕は住友さんの悩みを解決するという任務を請け負っている。難問であるがゆえに、住友さんにとって重要な課題であるがゆえに、僕がその問題について考えている時間はとても長い。常に頭のどこかにその問題のことがある、といっても過言ではない。
だからといって、そのことにばかり思い悩んでいたくはない。
だから、授業中なら授業に、ゲームで遊んでいるのならゲームに、誰かと話しているときには会話に、それぞれ集中するように心がけている。
ただ、試みを完璧には成功させられていない。これまでに少なくとも二回、失敗している。授業中に、先生から。夕食のさいに、母親から。どちらも相手が話をしているときで、「ぼーっとしていないで、ちゃんと話を聞け」という意味の注意をされた。きつい口調だった。
そう、きつい口調。自分がしている話をうわの空で聞かれると、癪に障るから。
それはもちろん、由佳も例外ではないはずだ。
僕と由佳の相性は怖いくらいにいい。口論じみた言葉の応酬を冗談半分にくり広げることはあっても、本気で喧嘩をしたことは一度もない。だからこそ、今の状態は居心地が悪い。これがいつまで続くのだろうと考えると、怖くなってくる。
情状酌量の余地があるとはいえ、非は僕にあるのだから、僕のほうから行動を起こすべきだ。
由佳の怒りと不満を根っこから解消するためには、事情を包み隠さずに打ち明けるしかないように思う。
事情さえわかってもらえれば、由佳の性格だから、今までの振る舞いも理解してくれて、怒りを鞘に納めてくれるはずだ。のみならず、僕が頼みさえすれば、住友さんの悩みを解決する手助けをしてくれる可能性が高い。そうなった場合、解決にぐっと近づくのでは、という期待感がある。知恵を絞る人間が一人よりも二人のほうが効率がいい、という意味でも。由佳は問題解決能力が高い人だ、という意味でも。
ただ、「悩みを抱えていることは秘密にしてほしい」と住友さんから頼まれている。
住友さんとの約束を破って、由佳に真実を打ち明けるか。
由佳には我慢してもらって、住友さんとの約束を守り抜くか。
その葛藤に決着をつけるだけではなくて、住友さんが抱える悩みを解決に導かなければならない。
つらくて、しんどい日々が続きそうな予感がした。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
パンティージャムジャムおじさん
KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。
口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。
子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。
そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい
藤永ゆいか
児童書・童話
過去のある出来事から、空手や合気道を習うようになった私。
そして、いつしか最強女子と言われるようになり、
男子が寄りつかなくなってしまった。
中学では恋がしたいと思い、自分を偽って
学校生活を送ることにしたのだけど。
ある日、ひったくり犯を撃退するところを
クラスメイトの男子に見られてしまい……。
「お願い。このことは黙ってて」
「だったら、羽生さん。
俺のボディーガード兼カノジョになってよ」
「はい!?」
私に無茶な要求をしてきた、冴えないクラスメイトの
正体はなんと、大財閥のイケメン御曹司だった!?
* * *
「ボディーガードなんて無理です!」
普通の学校生活を送りたい女子中学生
羽生 菜乃花
×
「君に拒否権なんてないと思うけど?」
訳あって自身を偽る隠れ御曹司
三池 彗
* * *
彗くんのボディーガード兼カノジョになった
私は、学校ではいつも彼と一緒。
彗くんは、私が彼のボディーガードだからそばにいるだけ。
そう思っていたのに。
「可愛いな」
「菜乃花は、俺だけを見てて」
彗くんは、時に甘くて。
「それ以上余計なこと言ったら、口塞ぐよ?」
私にだけ、少し意地悪で。
「俺の彼女を傷つける人は、
たとえ誰であろうと許さないから」
私を守ってくれようとする。
そんな彗くんと過ごすうちに私は、
彼とずっと一緒にいたいと思うようになっていた──。
「私、何があっても彗くんのことは絶対に守るから」
最強女子と隠れ御曹司の、秘密の初恋ストーリー。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
宇宙人は恋をする!
山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。
全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの?
中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉
(表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる