52 / 59
52
しおりを挟む
二・三秒の間があって、住友さんは首を縦に振った。タイムラグこそあったけど、動作から感じられる迷いのなさと、引きしまった顔つきから、本心なのだとわかった。
一方で、いつになったら問題の解決策が示されるのか、じれったく思っている気配も伝わってくる。
最低限これだけは言わないと、という項目はきちんと胸に刻んできた。説明する順序や言い回しだって、ちゃんと予習してきた。
ただ、誰かと一対一で、しかもある程度長い時間やりとりすると、事前に用意していた計画表なんてすぐに使い物にならなくなる。もっと綿密に計画を立てていたとしても、タイムリミットを迎えるのを多少遅らせられるだけで、けっきょくは無用の長物と化していただろう。
会話というのは、血の通った人間同士の言葉のキャッチボールだ。こんな言葉を返してくるだろうな、こんな反応が示されるだろうな、と事前に予測していても、呆気なく裏切られる。簡単に脱線してしまうし、こちらの言い回しよりもあちら表現のほうが相応しい、といった修正点が次々に出てくる。
大げさに言ってしまえば、スリリング。ひとときも安心できなくて、冷や汗を流すこともしばしばある。
だからこそ、人との会話は面白いのだ。この感情は、別人格らしく見せたもう一人の自分との対話では、絶対に生まれない。
「だから住友さんも、大切だと思う人には、隠していることは言ったほうがいいよ。というよりも、言うべきだよ。住友さんのためになるのは、住友さんが幸せになれるのは、絶対にそちらの道だから」
「ちょっと待って。私、香坂に隠しごとなんて、もう一つも――」
「僕に対してじゃなくて、友だちに対してだよ。羽生田さんたち四人にってこと」
「ごめん、わからない。どういう意味?」
「住友さん、友だちと付き合うのが苦痛なんでしょ。だったら、『あなたたちと付き合うのは苦痛です』って、思いきって正直に打ち明ければいい。住友さんは図書館で、本人に言えるわけがないって言ったけど、むしろ本人だからこそ言うべきだよ」
住友さんは絶句している。予想していたとおりの反応だ。
「もちろん、喧嘩腰に言うのはだめだよ。みんなと仲よくしたい気持ちはあるけど、今のままでは苦痛だから、もっと上手に付き合える方法をいっしょに考えてほしい。そう言えばいいんだよ」
住友さんの唇はひくついている。声は発せられない。反論したいが考えがまとまらないのかもしれない。
「住友さんは、だんだん人格が分裂していっている、と言っていたよね。だったら、自分の手で一つにまとめちゃえばいいんだよ。本音を口にするほうの住友さんに。孤立するのが怖い、とも言っていたけど、四人が住友さんの本心を理解してくれれば、どちらの問題も一挙に解決できるよね。だから――」
「ちょっと。香坂、ちょっと待って」
いら立ち混じりの声に遮られた。
「なんでそんなことしなきゃいけないの? そもそも私、あの子たちと無理に仲よくなんてなりたくないんだけど」
「いや、それは違う。住友さんは絶対、四人と仲よくしたいっていう気持ちを持っているよ」
「なんでそう言い切れるわけ? 意味がわからないんだけど」
住友さんの顔つきはだんだん険しくなる。
でも、怯まない。考えは曲げない。
一方で、いつになったら問題の解決策が示されるのか、じれったく思っている気配も伝わってくる。
最低限これだけは言わないと、という項目はきちんと胸に刻んできた。説明する順序や言い回しだって、ちゃんと予習してきた。
ただ、誰かと一対一で、しかもある程度長い時間やりとりすると、事前に用意していた計画表なんてすぐに使い物にならなくなる。もっと綿密に計画を立てていたとしても、タイムリミットを迎えるのを多少遅らせられるだけで、けっきょくは無用の長物と化していただろう。
会話というのは、血の通った人間同士の言葉のキャッチボールだ。こんな言葉を返してくるだろうな、こんな反応が示されるだろうな、と事前に予測していても、呆気なく裏切られる。簡単に脱線してしまうし、こちらの言い回しよりもあちら表現のほうが相応しい、といった修正点が次々に出てくる。
大げさに言ってしまえば、スリリング。ひとときも安心できなくて、冷や汗を流すこともしばしばある。
だからこそ、人との会話は面白いのだ。この感情は、別人格らしく見せたもう一人の自分との対話では、絶対に生まれない。
「だから住友さんも、大切だと思う人には、隠していることは言ったほうがいいよ。というよりも、言うべきだよ。住友さんのためになるのは、住友さんが幸せになれるのは、絶対にそちらの道だから」
「ちょっと待って。私、香坂に隠しごとなんて、もう一つも――」
「僕に対してじゃなくて、友だちに対してだよ。羽生田さんたち四人にってこと」
「ごめん、わからない。どういう意味?」
「住友さん、友だちと付き合うのが苦痛なんでしょ。だったら、『あなたたちと付き合うのは苦痛です』って、思いきって正直に打ち明ければいい。住友さんは図書館で、本人に言えるわけがないって言ったけど、むしろ本人だからこそ言うべきだよ」
住友さんは絶句している。予想していたとおりの反応だ。
「もちろん、喧嘩腰に言うのはだめだよ。みんなと仲よくしたい気持ちはあるけど、今のままでは苦痛だから、もっと上手に付き合える方法をいっしょに考えてほしい。そう言えばいいんだよ」
住友さんの唇はひくついている。声は発せられない。反論したいが考えがまとまらないのかもしれない。
「住友さんは、だんだん人格が分裂していっている、と言っていたよね。だったら、自分の手で一つにまとめちゃえばいいんだよ。本音を口にするほうの住友さんに。孤立するのが怖い、とも言っていたけど、四人が住友さんの本心を理解してくれれば、どちらの問題も一挙に解決できるよね。だから――」
「ちょっと。香坂、ちょっと待って」
いら立ち混じりの声に遮られた。
「なんでそんなことしなきゃいけないの? そもそも私、あの子たちと無理に仲よくなんてなりたくないんだけど」
「いや、それは違う。住友さんは絶対、四人と仲よくしたいっていう気持ちを持っているよ」
「なんでそう言い切れるわけ? 意味がわからないんだけど」
住友さんの顔つきはだんだん険しくなる。
でも、怯まない。考えは曲げない。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
パンティージャムジャムおじさん
KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。
口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。
子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。
そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
宇宙人は恋をする!
山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。
全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの?
中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉
(表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)
隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい
藤永ゆいか
児童書・童話
過去のある出来事から、空手や合気道を習うようになった私。
そして、いつしか最強女子と言われるようになり、
男子が寄りつかなくなってしまった。
中学では恋がしたいと思い、自分を偽って
学校生活を送ることにしたのだけど。
ある日、ひったくり犯を撃退するところを
クラスメイトの男子に見られてしまい……。
「お願い。このことは黙ってて」
「だったら、羽生さん。
俺のボディーガード兼カノジョになってよ」
「はい!?」
私に無茶な要求をしてきた、冴えないクラスメイトの
正体はなんと、大財閥のイケメン御曹司だった!?
* * *
「ボディーガードなんて無理です!」
普通の学校生活を送りたい女子中学生
羽生 菜乃花
×
「君に拒否権なんてないと思うけど?」
訳あって自身を偽る隠れ御曹司
三池 彗
* * *
彗くんのボディーガード兼カノジョになった
私は、学校ではいつも彼と一緒。
彗くんは、私が彼のボディーガードだからそばにいるだけ。
そう思っていたのに。
「可愛いな」
「菜乃花は、俺だけを見てて」
彗くんは、時に甘くて。
「それ以上余計なこと言ったら、口塞ぐよ?」
私にだけ、少し意地悪で。
「俺の彼女を傷つける人は、
たとえ誰であろうと許さないから」
私を守ってくれようとする。
そんな彗くんと過ごすうちに私は、
彼とずっと一緒にいたいと思うようになっていた──。
「私、何があっても彗くんのことは絶対に守るから」
最強女子と隠れ御曹司の、秘密の初恋ストーリー。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる