塵埃抄

遠くからの手紙

拝啓　福島にお住まいの皆様へ
　春寒の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
　さて、東日本大震災が発生してから一週間が経ちましたが、福島にお住まいの皆様はいかがお過ごしでしょうか。体調は損ねていませんか。相も変わらず薄ら寒い避難所の中で、味のない冷めたおにぎりを食べていますでしょうか。私は先程、暖房が効いたダイニングルームで温かい夕食を食べ終えたところです。福島にお住まいの皆様が我が家に戻れる日が一日も早く訪れることを願って止みません。もっとも浜通りにお住まいの方は、津波で流されて帰る家がないかもしれませんが。
　私が住む町では暖かな日が続いていますが、福島は時折雪がちらつく天候だと聞きました。その雪には、恐らく福島第一原発から漏れ出した放射性物質がふんだんに含まれているでしょうから、おちおち外にも出られませんね。ただ、枝野さんも「ただちに健康に影響はない」と仰っていましたし、福島にお住まいの皆様も、そこまで神経質になる必要はないのではないでしょうか。
　性欲を催しても、人目がある所為で己を慰めることが憚られる、不自由極まる避難所生活かとは思いますが、どうか希望を捨てずに毎日をお過ごしください。絶対に自殺などしてはいけません。同情を引くような文言の遺書をしたためて首を括れば、記者の方々が待っていましたとばかりに遺族を取材に訪れ、三十分間のドキュメンタリー番組を制作してくれるでしょうが、死んだ当人の懐には一銭も入ってきませんからね。
　最後になりますが、健康にはお気をつけて、せいぜい長生きをしてください。くれぐれも希望をなくしてはいけません。時代が進めば進むほど医療も進歩し、放射能に起因する病気に対する効果的な治療法も確立されていくに違いないのですから。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具