塵埃抄

二軒のホットドッグ店

　合衆国一の大都会・Ｎ市のとある大通りに、二軒のホットドッグ店が隣り合って店を構えていた。一軒は、白人男性が経営する店。もう一軒は、黒人男性が店主を務める店だ。
　人通りの多い通りに建つだけあって、食事時になると、二軒のホットドッグ店には大勢の客が訪れた。しかし、白人男性の店で食事をとるのは白人の客ばかりで、黒人男性の店のドアを潜るのは黒人の客のみだった。
　両店のホットドッグの値段は全く同じで、味や分量にも差はないとされていた。しかし市民は頑なに、自分と同じ人種が店主の店でしかホットドッグを食べようとはしなかった。隣り合えども決して交わることのない、白一色の店内と黒一色の店内。そのコントラストは、合衆国が抱える人種差別問題の深刻さを端的に表していた。
　ある時、黒人男性の店を、一人の白人の少女が訪れた。
　来店者の肌の色を見て、黒人店主は困惑を禁じ得なかった。とはいえ客には違いないので、感情を押し殺し、精いっぱい愛想よく少女に応対した。少女は一貫して友好的な態度で店主に接し、食事を済ませて店を後にした。
　黒人店主の店から少女が出てくるのを、通りがかった中年の白人女性が目撃した。女性は少女を呼び止め、詰問した。
「あなたは白人なのに、なぜ黒人の店の方に入ったの？」
「彼の店のソーセージの方がボリュームがあるからよ」
　少女はさらりと即答し、爽やかに微笑んでみせた。
「二つの店のホットドッグの大きさは同じという話だけど、そうではないの？」
　女性が質問を重ねると、少女は勝ち誇ったように答えた。
「あら奥様、もしかしてご存知ないの？　白人男性のソーセージよりも、黒人男性のソーセージの方が太くて長いのよ！」