赤と夜と過去

阿波野治

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赤い花 二

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  悠長なメロディのチャイムが鳴った。議題についての明確な結論が出されないまま、「命の授業」はお開きとなった。
 ホームルームは手短にすませられた。帰宅の準備を整えた児童たちは、自身の保護者、あるいは級友と肩を並べて、続々と教室を後にする。

 ランドセル代わりの赤い鞄を左手に提げ、一人で教室を出たダリアは、いきなり名前を呼ばれた。足を止めて振り向くと、意外な人物の姿を双眸に捉えた。
「――ママ」
 全身を黒色の衣装で固めた、ダリアと瓜二つの目鼻立ちの年若い女性が、少女のような微笑を浮かべて立っていた。

「ママ、参観日には来られないって言ってたよね。なんで来たの?」
「実は、サプライズでママが来たらダリアちゃんが驚くと思って、朝はわざと来られないかのように言ったの。でもダリアちゃんは、ママが教室にいることに全然気づいていなかったね」
「うん。どうせ来ないと思って、教室の後ろは一回も見なかったから」
「そんなことだったら、来られるって前もって伝えておくべきだったかな」
 母の左手が娘の右手に近づき、指先を絡みつけてきた。ダリアはそれに応え、自らの五指を母の五指へと絡ませる。二つの手が固く結ばれたのを感触で確かめ、二人は歩き出した。

「ダリアちゃん。今日の授業でのあなたの発言だけどね」
 階段を降りながら母が言う。
「凄くよかったわ。ああいうことを、ああいう場ではっきりと口にできる子は、あのクラスではきっとダリアちゃんだけね。
 質問なんだけど、もしママが教室にいるのがわかっていたとしても、ダリアちゃんはみんなの前でああ言った?」

 二人は踊り場に差しかかり、どちらからともなく歩みを止める。ダリアは母の顔を臆することなく見返し、口元に薄く笑みを滲ませる。
「言ったに決まってるでしょ。ダリアは、ああ言いたいと思ったからああ言ったんだよ。ママがいようがいまいが、言うことを変えるわけないよ」
「安心した。ダリアちゃんがそう言ってくれて」
 母は満足そうに表情を和らげた。
「そうよね。周りを気にして思ってもいないことを言うなんて、馬鹿げているものね。常日頃から言っていることだけど、他人の顔色をうかがって月並みなことしか言わない人間よりも、本音を毅然と口にできる人間のほうが――」

「その話はもうやめようよ。ぜんっぜん面白くないから」
 さも不機嫌そうに吐き捨てる。「ぜんっぜん」の一語には怨念にも似た感情がこもっていた。束の間沈黙が流れ、ダリアは口許を綻ばせる。
「そんなことよりも、ダリア、お昼ごはんにハンバーガーが食べたいな。たぶんママもそうだと思うんだけど、今日みたいなちょっと特別な日って、外でごはんが食べたくならない? 食品添加物がたっぷり入った、寿命が短くなるような食べものを」
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