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情勢を見て、好機だと樹音は判断したらしく、誰かの鞄を両手に持ち、真理愛の上半身を目がけて続けざまに叩きつけてくる。最初は闇雲に打ちつけてくるだけで、高宮の攻撃の邪魔になることもあった。しかしすぐに、高宮の攻めが緩み、真理愛が反撃に転じるタイミングに合わせてぶつけてくるようになった。
それでも機を見出し、高宮の左手の甲と左手首に切り傷を負わせた。ただ、どちらも浅い。抵抗が鈍ったのを見てとり、ナイフを奪おうとしてきたときには、喉元を狙って刃を突き上げた。しかし、力がこもりすぎて空振りに終わった。以後は防戦一方になった。左腕に蓄積されたダメージにより、ガードを継続するのも苦痛になってくる。
――ここで終わりなの?
過去の映像が走馬灯のように頭の中を巡る。樹音たちから受けた被害の数々。いじめられる以前の、友だちができず、孤独だった学校生活。
それらの映像は、真理愛の心の目を否応にも惹きつけた。中でも、転校前の日常は興味深かった。同じ景色なのに、当時リアルタイムで体験していたころとは違ったふうに見えるのだ。
いじめに遭っていたわけではない。暴力も、金銭の要求も、仲間外れにされることもなかった。しかし、陰で悪口をささやき合っていた者は何人もいたのだろう。
被害妄想などではなく、歴とした事実だったと、今ならば断言できる。当時の真理愛が底抜けの馬鹿で、お人好しだったから気がつかなかっただけで、実際は誰もが陰で彼女を嘲笑っていたのだ。男子も女子も、おそらくは教師までもが。
悔しいが認めざるを得ない。湯田真理愛はそういう星の下に生まれたのだ。
転校前までは、むしろ運がよかったのだろう。暴言を吐かれ、暴力を振るわれる、惨めな日常。それこそが常態なのだ。
つまり、生まれてから死ぬまで。
嫌だ、と思う。
そういう星の下に生まれてきたから? そんな理由で諦めていいの? 嫌だ。絶対に嫌だ。暴力と暴言を浴びるのも、嘲笑されるのも、惨めな思いをするのも。
被害者として生きる日々は、これで終わりにしよう。
これまでさんざんため込んできた憎しみを、復讐という名目で晴らすことで、終止符を打つんだ。
おおおおおおおお、と真理愛は咆哮した。
突然の大音声に、怯んだ。馬乗りになって拳を振るっていた高宮も、鞄を武器に加勢していた樹音も。
生じた一瞬の隙を衝き、渾身の力で高宮を押し返す。真理愛よりも大きな体がひっくり返る。樹音が息を呑んだらしい気配。真理愛は俊敏に立ち上がり、猛然と襲いかかる。高宮は右足で蹴って間合いをとろうとしたが、真理愛は最小限の動きで攻撃をかわし、左腕を回して右脚を捕獲した。無防備な太ももにナイフを突き刺す。絶叫。右脚を解放する。高宮はくずおれ、患部を両手で押さえて悶絶する。俯せの姿勢になったところをすかさず、背中にのって押さえ込む。左手で後ろ髪を鷲掴みし、刃を首筋に突き立てる。語尾が濁り、声が断ち切られた。
――あと一人。
それでも機を見出し、高宮の左手の甲と左手首に切り傷を負わせた。ただ、どちらも浅い。抵抗が鈍ったのを見てとり、ナイフを奪おうとしてきたときには、喉元を狙って刃を突き上げた。しかし、力がこもりすぎて空振りに終わった。以後は防戦一方になった。左腕に蓄積されたダメージにより、ガードを継続するのも苦痛になってくる。
――ここで終わりなの?
過去の映像が走馬灯のように頭の中を巡る。樹音たちから受けた被害の数々。いじめられる以前の、友だちができず、孤独だった学校生活。
それらの映像は、真理愛の心の目を否応にも惹きつけた。中でも、転校前の日常は興味深かった。同じ景色なのに、当時リアルタイムで体験していたころとは違ったふうに見えるのだ。
いじめに遭っていたわけではない。暴力も、金銭の要求も、仲間外れにされることもなかった。しかし、陰で悪口をささやき合っていた者は何人もいたのだろう。
被害妄想などではなく、歴とした事実だったと、今ならば断言できる。当時の真理愛が底抜けの馬鹿で、お人好しだったから気がつかなかっただけで、実際は誰もが陰で彼女を嘲笑っていたのだ。男子も女子も、おそらくは教師までもが。
悔しいが認めざるを得ない。湯田真理愛はそういう星の下に生まれたのだ。
転校前までは、むしろ運がよかったのだろう。暴言を吐かれ、暴力を振るわれる、惨めな日常。それこそが常態なのだ。
つまり、生まれてから死ぬまで。
嫌だ、と思う。
そういう星の下に生まれてきたから? そんな理由で諦めていいの? 嫌だ。絶対に嫌だ。暴力と暴言を浴びるのも、嘲笑されるのも、惨めな思いをするのも。
被害者として生きる日々は、これで終わりにしよう。
これまでさんざんため込んできた憎しみを、復讐という名目で晴らすことで、終止符を打つんだ。
おおおおおおおお、と真理愛は咆哮した。
突然の大音声に、怯んだ。馬乗りになって拳を振るっていた高宮も、鞄を武器に加勢していた樹音も。
生じた一瞬の隙を衝き、渾身の力で高宮を押し返す。真理愛よりも大きな体がひっくり返る。樹音が息を呑んだらしい気配。真理愛は俊敏に立ち上がり、猛然と襲いかかる。高宮は右足で蹴って間合いをとろうとしたが、真理愛は最小限の動きで攻撃をかわし、左腕を回して右脚を捕獲した。無防備な太ももにナイフを突き刺す。絶叫。右脚を解放する。高宮はくずおれ、患部を両手で押さえて悶絶する。俯せの姿勢になったところをすかさず、背中にのって押さえ込む。左手で後ろ髪を鷲掴みし、刃を首筋に突き立てる。語尾が濁り、声が断ち切られた。
――あと一人。
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