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屋上で語られたこと①
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翌日、福永さんたちはわたしに、悪い意味で馴れ馴れしく接してきた。昨日の噴水広場の一件によって、わたしに対する彼女たちの態度になんらかの変化が生じるだろうと予測し、戦々恐々としていたのだが、その方向に変わるとは思ってもみなかった。
具体的には、頻繁に体を触ってくるようになった。傍目には、親愛の情を示すためのスキンシップに見えたかもしれない。しかし実際には、彼女たちはさり気なく、わたしの髪の毛を引っ張ったり、頬をつねったりした。声を上げてしまうほどではないが、不快感を伴った痛みを確かに感じる強さで。福永さんが率先して実行し、それに周りが追随する、というパターンが多かった。からかいがエスカレートしたというより、虐められ役として彼女たちのグループに組み込まれてしまった、という感じだった。
意外だったのは、彼女たちが平間さんを悪し様に言わなくなったことだ。昨日の噴水広場で、平間さんは福永さんに毅然と立ち向かった。それを彼女たちは脅威に感じ、意識的に、あるいは無意識に、平間さんを避けるようになったのか。それとも、手軽に、なおかつ安全に嗜虐心を満たせる、わたしという玩具に夢中になったのか。それは定かではない。
肉体的なダメージは微々たるものだったので、わたしは福永さんたちからの暴力よりもむしろ、嵐の前の静けさといった雰囲気に恐怖を覚えた。彼女たちはなにか企んでいるのではないか。わたしに、あるいは平間さんに、なんらかの大きな損害を与える機会を虎視眈々と窺っているのではないか。そんな懸念を抱いた。
『私がいることを忘れないで。あいつらになにかされたら、あれこれ考えずに私に頼って』
わたしはたびたび、昨日の平間さんの言葉を思い出した。その機会は今日のお昼に巡ってくる。しかし、それは本来、平間さんの過去を本人の口から明かすために設けられたものだ。果たして、その場で福永さんたちのことを相談してもいいのだろうか。
「あれこれ考えずに」という言葉を忘れたわけでも、意味が呑み込めていないわけでもなかったが、優柔不断なわたしは迷いに迷った。
*
『別に他の場所でもいいんだけど、私にとってお昼ご飯を食べる場所はそこだから』
昼休み前最後の授業直前の休み時間に、そんな一文で締めくくられるメールが平間さんから送られてきた。指定された場所は、一年校舎の屋上。
昼休みを告げるチャイムが鳴ると同時に教室を出て、屋上に直行する。ドアを開いたが、無人だった。フェンス際に腰を下ろして金網に背中を預けた。
一分あまり待つと、階段を上ってくる足音が聞こえた。それが止み、ドアが開かれる。平間さんだ。挨拶代わりに飲料のペットボトルを持った左手を軽く掲げ、小走りに駆け寄ってくる。もう片方の手に持っているのは、今日もフルーツサンドだ。
「増田、待たせてごめん」
「ううん、待っていないよ。嘘みたいに聞こえるかもかもしれないけど、本当に待っていないから」
「それって……」
「うん。この前一緒にお昼を食べた時、平間さんが言ったセリフの真似」
わたしたちは微笑を交わし合った。平間さんはわたしと向かい合う形で腰を下ろす。
「食べながら話そうか。長くなりそうだし」
わたしはお弁当を、平間さんはフルーツサンドを、それぞれ食べ始める。平間さんが喋り出すには、彼女が食べている一個目のフルーツサンドが半分に減るまで待たなければならなかった。
具体的には、頻繁に体を触ってくるようになった。傍目には、親愛の情を示すためのスキンシップに見えたかもしれない。しかし実際には、彼女たちはさり気なく、わたしの髪の毛を引っ張ったり、頬をつねったりした。声を上げてしまうほどではないが、不快感を伴った痛みを確かに感じる強さで。福永さんが率先して実行し、それに周りが追随する、というパターンが多かった。からかいがエスカレートしたというより、虐められ役として彼女たちのグループに組み込まれてしまった、という感じだった。
意外だったのは、彼女たちが平間さんを悪し様に言わなくなったことだ。昨日の噴水広場で、平間さんは福永さんに毅然と立ち向かった。それを彼女たちは脅威に感じ、意識的に、あるいは無意識に、平間さんを避けるようになったのか。それとも、手軽に、なおかつ安全に嗜虐心を満たせる、わたしという玩具に夢中になったのか。それは定かではない。
肉体的なダメージは微々たるものだったので、わたしは福永さんたちからの暴力よりもむしろ、嵐の前の静けさといった雰囲気に恐怖を覚えた。彼女たちはなにか企んでいるのではないか。わたしに、あるいは平間さんに、なんらかの大きな損害を与える機会を虎視眈々と窺っているのではないか。そんな懸念を抱いた。
『私がいることを忘れないで。あいつらになにかされたら、あれこれ考えずに私に頼って』
わたしはたびたび、昨日の平間さんの言葉を思い出した。その機会は今日のお昼に巡ってくる。しかし、それは本来、平間さんの過去を本人の口から明かすために設けられたものだ。果たして、その場で福永さんたちのことを相談してもいいのだろうか。
「あれこれ考えずに」という言葉を忘れたわけでも、意味が呑み込めていないわけでもなかったが、優柔不断なわたしは迷いに迷った。
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『別に他の場所でもいいんだけど、私にとってお昼ご飯を食べる場所はそこだから』
昼休み前最後の授業直前の休み時間に、そんな一文で締めくくられるメールが平間さんから送られてきた。指定された場所は、一年校舎の屋上。
昼休みを告げるチャイムが鳴ると同時に教室を出て、屋上に直行する。ドアを開いたが、無人だった。フェンス際に腰を下ろして金網に背中を預けた。
一分あまり待つと、階段を上ってくる足音が聞こえた。それが止み、ドアが開かれる。平間さんだ。挨拶代わりに飲料のペットボトルを持った左手を軽く掲げ、小走りに駆け寄ってくる。もう片方の手に持っているのは、今日もフルーツサンドだ。
「増田、待たせてごめん」
「ううん、待っていないよ。嘘みたいに聞こえるかもかもしれないけど、本当に待っていないから」
「それって……」
「うん。この前一緒にお昼を食べた時、平間さんが言ったセリフの真似」
わたしたちは微笑を交わし合った。平間さんはわたしと向かい合う形で腰を下ろす。
「食べながら話そうか。長くなりそうだし」
わたしはお弁当を、平間さんはフルーツサンドを、それぞれ食べ始める。平間さんが喋り出すには、彼女が食べている一個目のフルーツサンドが半分に減るまで待たなければならなかった。
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