働きたくないから心療内科へ行ったら、色々分からなくなった

阿波野治

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報告してみた

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「どうだった? 心療内科」

 夕食の席で、十二年後に還暦を迎える母親が尋ねた。十年後に還暦を迎える父親は残業をしているので、いない。
 テレビではナイター中継をやっている。タイガース対カープ戦。0―6の大差でタイガースが負けている。

「うん、なんかね、薬を一日二錠、一週間飲むようにって。不安が和らぐ薬だって」
「不安が和らぐ薬? どういう薬なの、それは」
「不安が和らぐ薬は、不安が和らぐ薬だよ」

 母親は疑わしげな目で僕の顔を見返し、胡瓜の浅漬けを口に放り込んだ。ぼりぼりという音と共に浅漬けが噛み砕かれる。

「とにかく、僕は通院中の身になったから、働けとか、そういうことを口うるさく言うのはもう止めてよ。治療に支障が出たら困るから、そういう発言は今後はマジで控えて。分かった?」

 はいはい、とうるさそうに母親は言い、胡瓜の浅漬けを食べ切ったばかりの口でウーロン茶をすすった。

 タイガースのピッチャーがストレートを内角低めに投じ、カープの二番バッターがそれを打ち返した。平凡なサードゴロだったが、タイガースのサードは捕り損ねて打球を大きく弾いた。その間にバッターランナーは一塁ベースを駆け抜け、二塁を狙ったが、バックアップしたショートが素早く二塁へ送球、タッチアウト、カープのこの回の攻撃は終わった。

 バッターランナーの暴走というより、ショートが巧かったな、と思いながら僕は味噌汁をすする。味噌汁の具は豆腐と玉葱。タイガースのショートは、守備は巧いが打撃に課題が残るので、もっぱら下位打線を任されている。



 不安を和らげる薬はなんの変哲もない真っ白なカプセルで、飲んだ直後も、飲んでから時間が経っても、不安が和らいだという実感は湧かなかった。
 そもそも僕は不安だとは一言も訴えなかったのに、ミヤグニ医師はなぜ不安が和らぐ薬を処方したのだろう?
 その謎は来週診察へ行った時に解けるかもしれないし、解けないかもしれない。そしてそのどちらであっても構わないと僕は思う。
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