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庭で見つけた

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 冷房が効いたリビングでだらだらしていると、なにかが庭を素早く横切ったような気配を感じた。
 ソファから起き上がって窓辺に歩み寄り、庭を眺める。異状は認められなかったものの、どことなく気がかりだ。暑いし、好き好んで外に出たくなどなかったが、暇で暇で仕方がなかったので、騙されたつもりで庭に足を運ぶ。
 異状はやはり認められなかったが、猫の額ほどの空間の片隅に生えた細長い草、草むしり担当の母親が抜き忘れたと思われる雑草、その穂になった先端部分に二匹のカメムシがいるのを発見した。大きさはどちらも小指の爪くらいで、体色は薄茶色。尻をくっつけ合ってじっとしている。交尾をしているらしい。

 交尾といえば、二十を過ぎたのを境に、性欲が急激に薄れた気がする。
 例えば、街を歩いていて、可愛い女の子を見かける。あ、あの子可愛いな、と思う。電車に乗っていて、胸の大きな女性が向かいの席に座る。あ、あの女の人の胸が大きいな、と思う。でも、思うだけ。その人の顔や胸をまじまじと見つめたり、ちらちらと窺ったりはしない。仲良くなりたいとか、触ってみたいとか、全く思わないと言えば嘘になるが、強く願うことはない。

 平均寿命の三分の一にも達していないのにこの体たらくは、生物の雄としてどうなのだろう? カメムシでさえ性交しているのに、僕は童貞のまま死ぬのだろうか?
 暗い気持ちになったが、八月の午後一時半の炎天下は鬱気分に浸るには暑すぎる。二匹のカメムシに別れを告げて家の中に戻った。
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