さようなら、空色。

阿波野治

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『K市・声と音の美術館』について説明する。そうはいっても、殆どの時間を音の鉱石エリアで費やしてきたため、詳しく語れるほど館内を熟知してはいない。ソラへの想いは悟られたくなかったので、音の鉱石エリアについては淡々と紹介するように努めたが、七海は思いがけず関心を示した。

「音の鉱石か。なんか流行ったよね、二・三年くらい前に。そっか、美術品扱いなんだね、鉱石って」
「聴いたことはある?」
「一回もない。ちょっと視聴してみたとか、そういうのも含めて全然」
「だったら、食べ終わったらいっしょに行ってみない? かなりの数の音の鉱石が聴けるようになっていて、飽きないよ」
「そこまですすめるなら、行ってみようかな。どうせ暇だしね」





 七海は美術館の瀟洒な外観に感心し、館内の静かで落ち着いた雰囲気に好感を表明し、展示物に驚いていた。自分の初来館時と似たようなリアクションに、大地は微笑ましい気持ちになった。
 ガイド役を務めるには知識不足の彼は、積極的に解説しながら先導するのではなく、七海が歩いていく方向にただついていく。そして、疑問質問を投げかけられれば分かる範囲内で答えた。
 やがて、二人は音の鉱石エリアに足を踏み入れる。

「人、結構いるね。ちょっと雰囲気が他と違う」
「人気エリアみたいだよ。プロの声優がプロになる前に録音した石も展示されているからね。ほら、あそことか」
「うわ、ほんとだ。たかが声にそこまでって気もするけど。この透明な箱、勝手に入ってもいいんだよね?」
 ソラの声を聴いてもらいたい気持ちはあったが、七海は近くにあるボックスにさっさと入った。大地はあとに続く。

「ほんとに声が聴こえる! 仕組みがよく分かんないけど、凄いね。へえ、結構クリアに聴こえるんだ」
 七海のリアクションは思いのほか好意的だ。さらに二個、三個と、自主的に鉱石を選び取って続けざまに聴く。
「ねえ、男性のイケボはないの? 男の声も聴きたいんだけど」
「あるんじゃないかな。女性の声しか聴いたことないけど」
「兄貴、まさか、そういう目的でここに通ってるの? うわ、気持ち悪っ! 家でアニメとか見ていれば済む話なのに、なにわざわざ美術館まで足運んでんの?」
「イケボを所望したお前に言われたくないよ。旦那にちくるぞ、浮気してますよって」
「それとこれとは別だから」

 ああだこうだ言い合っていると、ドアがノックされた。時田遥だ。
「いいですね、賑やかで」
「時田さん、すみません。つい話し声が大きくなってしまって」
「大丈夫ですよ。声の大きさは許容範囲内です。いつもは一人なのに連れの方がいるようだったから、気になって声をかけただけなので」
 七海に遥を紹介し、遥には七海が妹だと伝える。遥と出会ったいきさつは割愛し、よく話しかけてくれる親切な職員さん、という紹介の仕方をした。
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